第3話 局長、部下を見捨てるんですか!
2017年 6月 8日
加算学園の獣医学部承認問題もまた、安倍昭恵総理夫人の名誉学長就任に端を発する森本問題と同じく、総理夫人がSNSへ投稿した写真に端を発する。
缶ビールを片手に森のウッドデッキでバーベキューを楽しむ安倍総理、加算孝太郎理事長、萩生田光一元文科大臣の3ショット写真は、「男たちの悪巧み」という昭恵夫人の絶妙なタイトル効果で世間を騒然とさせた。
回り舞台は、財務省から文部科学省へと転換した。
森本問題では安倍総理を守るため、財務官僚が公文書の遺棄や改ざんをしたのと対照的に、加算問題では文科省官僚による内部告発が、朝日新聞などで報道された。
記事による獣医学部新設を認めた経緯を記す「総理のご意向」「官邸の最高レベルが言っていること」といった文書を「怪文書」とする菅義偉や「私的メモ」とする萩生田光一に対して、前文部科学省事務次官である前川喜平は「在籍中同文書が確実に存在していた」「あったことをなかったことにはできない」として、記者会見では「証人喚問に応じる」とまで言い切った。
読売新聞が、当時すでに退官して一市民である前川喜平の「出会い系バー通い」を記事にしたのが、その記者会見の三日前。ネタはまず口封じに利用を画策され、それが功を奏さなかったので、次に記者会見の信ぴょう性を貶める意図で報道されたと考えるのが自然だろう。
省庁内で「見つからない」とされていた「怪文書」(あるいは「私的メモ」)は数日後、文部科学省による再調査で、19のうち14の文書が存在していることが確認された。
しかし、森本問題同様、長引く追求に世間には飽きの風が吹き始める。
文部科学省の裁量権を国家戦略特別区域諮問会議(以下、戦略特区会議)が奪うのは後者に期待された役割りでもあり、文部科学省側としては「行政がゆがめられた」と感じるのは制度設計上の想定内である以上、「総理のご意向」を戦略特区会議が認めない限り、不正は証明され得ない。そして、戦略特区会議は文部科学省内からどのような文書が出てきたとしても、それを認めることはない。
ラマは「金額は加算のほうが大きいけれど、事件化の可能性は森本の方が高いのに」と、楓氏が舞台転換を嘆いていたことを思い出し、立件への道筋が見えない国会中継を苦々しく、眺めていた。
この日、参院・農水委員会で、椿議員が鵜飼穣高等教育局長に訴えかけた。
命がけで告白してるんですよ、みんなが。
このままではいけないと。
上司に報告した。でも上司が取り扱ってくれない。
上司って鵜飼さんですよ、見捨てるんですか。
勇気を持ってこのままじゃおかしいと、 法治国家じゃなくなると、
前文科事務次官(前川喜平)が告発した。
それを受けて、このままじゃいけないと、命がけで部下たちが告発してるんですよ、
放置するんですか、自分だけ良ければいいんですか、自分だけ出世できれば。
真実を言ってください。
あのメールは本物でしょ?
あの添付資料は本物でしょ?。
局長! 部下を見捨てるんですか。
これに対して文書の真偽には答えず、認定の経緯だけを繰り返す鵜飼高等教育局長の姿は、youtubeで大きな話題となった。一方で、多くの人の心を揺さぶった参院質問は、声を荒げる椿議員が決定的な攻め手を欠いていることの現れでもあった。
命がけの告白を「怪文書」や「私的メモ」とされ、退官後も何者かに尾行され、違法でもない行動を全国紙に報道される。このことが霞が関の全官僚に与える、「総理のご意向」に沿わない仕事への抑止効果は計り知れない。
読売新聞の記者は期待した結果を得たのかもしれないが、その代償に自分が社会の何を毀損したのかは、おそらく自覚していないのだろう。
この国のハンドルとブレーキが一歩ずつ、確実に、壊れていく。そんな漠然とした不安にラマは捉われていた。
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