第5話 一元化された改ざん隠蔽システム

2018年 3月

「文書は一元的な文書管理システムで管理されており」

 公明党の議員からの国会質問に佐川元理財局長の後任である太田充理財局長が答弁した。

 翌日、ラマは議員会館の応接室で、椿議員が財務省から取り寄せた「一元的な文書管理システム」のマニュアルを読み終えた。

「なんじゃこりゃ?」

それは網羅的ではあるものの、文書管理システムに当然あるべき機能、改版履歴を参照する具体的な手順が書かれていなかった。

 そして、全てのページの右上に付箋のような跡があることに気がついた。製本されていたであろうマニュアルのコピーなので全体に不鮮明で見落としていたが、これはマニュアルの小口につけたインデックスの色ではないか。その位置から推測するに、資料がマニュアルの冒頭部分の1章であることが推測できる。であれば、網羅的であるが具体的操作手順が含まれないことにも説明がつく。そう疑ってみると、目次の一部がホワイトで消したような、不自然な跡があるようにも見える。


 文書管理システムのマニュアルを手にして最初に爆笑したのはその名称だった。

「一元的な文書管理システム」

 太田充理財局長の答弁はシステム名称を明かしていたのだ。

 これは、操作マニュアルの冒頭の一章でしかないと仮定して検索してみると、この文書管理システムは総務省が平成24年度末に全府省に導入させたものであることがわかった。ネットに公開された要求仕様書によれば、

・決裁履歴や修正履歴を表示する仕組み → ある

・行政文書ファイル管理簿のデータを 自動的に作成する機能  → ある

・検索する機能 → ある

・改ざんチェック機能 → ある

・文書版数管理機能 → ある

など、文書管理システムとして標準的な機能を備えている。

そして、

・各府省に統一化・標準化を図り、  

・一元的な文書管理システムを最大限活用することとする。

・供覧・決裁に係る案件については、原則として一元的な文書管理システムを利用して電子的に行うこととする。

 とある。なおかつ、6年も前に呼びかけ、「(各府省等ごとに運用している個別の文書管理システムは廃止」としている。つまり、財務省独自のシステムではないということだ。

 その後の各省庁の状況調査では「各省庁のなかで財務省のシステム移行が遅れ気味」とある。これは総務省にとって、愉快なことではないはずだ。

 椿議員には(財務省ではなくて)総務省に操作マニュアルを求めるべきと、提言して、ラマは議員会館をあとにした。


 帰宅して風呂に入りテレビをつけると、ニュースで3人の国会議員が財務省を訪れ「システムを操作させろ」とドアの前で抗議する映像が流れている。ラマは、500mlのビールを冷蔵庫から取り出して開けた。


「バックアップは存在しない」や「7日で消える仕組み」といった人をバカにしたような財務省の言い逃れや、文書システムであれば当然、備えているはずの改版履歴の参照機能には触れず、「資料は廃棄した」と答える文部科学省の不誠実さに、IT技術者のラマは殊の外、呆れた。

 いったい中央省庁の高級官僚は、どうなっているのか。

 ところがその高級官僚が、中規模の単科大学でしかない自分の職場に舞い降りてくるなどということは、ラマには思いもよらないことだった。



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