第5話 北の魔女4

 幸い気絶まではいかなかったものの、液体は口から即リリースした。

 唇が痺れている。何入ってんだよ……。

 そんな俺を覗き込み、魔女は眉を細めている。


「む、倒れぬ」

「こいつ……」


 というか倒れさせるためにこれ飲ませたのかよ。

 口元を拭うが余韻すら臭い。魔女は顎に手をやったままぴくりとも動かない。

 そして、突然俺の額に手を当てた。生きているとは思えないほどの体温だった。


「ひっ!?」

「ほう」

「な、なんですか……」

「ほう! なるほどな! ほう! そうかそうか! やっとじゃ!」

「やっと……?」


 第二波を堪えながら、面白いものを見つけた猫のような表情をしている魔女に目をやる。

 白目との境目が分からないほど色素の薄いライラックの瞳。さえざえとした白い肌に、重々しいローブから覗く黒レースのチョーカー。口調から察するに、この魔女は見た目通りの年齢ではないだろう。

 やっととか言ってるし、殺されるんじゃね、俺。

 薄々感じていた危機感が、ようやく機能した。ざっと足先の血が引いていく。


「掃除屋なんかやめて、わらわと共に暮らさんか?」

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