第3話 北の魔女2
声のした方を振り返る。
掘っ建て小屋のわきに、黒いローブを身にまとった少女がいた。ゆるくウェーブした長い銀髪とのコントラストが印象的だ。
黒手袋をした手に持っているのは、ビーカー。
そこからは湯気が立っている。なんだ……?
「お気に入りの武器と森で首吊りってところかのう? いや〜、困る困る。また噂が立つ」
俺が何も答えないでいると、老人同然の口調で喋る少女はふっと消えてふっと俺の背後に現れた。
そういえば、この森を管理する魔女がいると聞いたことがある。もしかしたら彼女が件の魔女なのかもしれない。
遅れて漂ってきた悪臭。咄嗟に飛び退く。
「い、いやっ、だ、ダンジョン掃除屋です、き、聞いてませんか」
「んー、こっちに来る手紙は全部捨ててるから分からん。そういえばちいと前もお前みたいなのが来た気がするのう」
「捨てっ……? ところでそのドロドロした液体は……?」
「スープじゃ。どうせ死ぬなら冥土の土産にと思ってな。前来たやつはちいと飲んだだけで泣きながらありがたがって数分間動かなかったぞ」
これが、スープ……?
いや、普通に気絶していただけなのでは……。
先月ここを担当していた上司に心の中で手を合わせる。
こてんと可愛らしく首を傾げる少女と、土留色をしたこの世の終わりみたいな吐瀉物に等しい液体を見比べる。激臭の正体はこの液体のようだ。
「な、なるほど……!」
なるほどとか言っちゃう俺のバカ。何も分からねえよ。前世で培われた対店長用脳死ムーブがこんなところで発揮されてしまうとは。
「掃除屋ならなおさらじゃ。早足で森に行ったから、仕事の意欲も湧くんじゃないかの? ほれ」
「お、俺もですか!?」
ほれとか言われても。
ビーカーをこちらに差し出す魔女。
そんなのを今から飲まされるの?
ああ、走馬灯が見える。
さよなら世界。さよなら、さよなら、さよなら〜。
「い、今ひと口だけ頂いて、残りは仕事中に疲れたら飲みます……」
「うむ、よいよい! お代はいらぬぞ」
よかった請求されなくて。
満足げに頷く魔女から、震える手でビーカーを受け取る。
生あたたかい。
口に近付けた途端、更なる激臭が俺の鼻と目を直撃する。
曇りなき眼が、俺をまっすぐ見つめてくる。
ビーカーを持つ手に力を込め、「ウワーオイシソウダナア……」と小声で呟く。
勢い任せに、俺は一気にビーカーを傾けた。
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