第2話 北の魔女1

 転生してから早18年。

 異世界での生活もすっかり慣れた。

 名前はルイ・アーダルベルト。

 今じゃ魔法やモンスターを見ても特に驚かない。

 が、転生して姿かたちが変わったとしても前世の記憶や性格が受け継がれている限り俺は俺。コミュ障は変わらずだ。

 特に高校なんかは友達は一人もできず、図書室にこもって日が暮れるまで本を読み耽る毎日。

 そんな中でメンタルが崩れなかったのは、転生の事実が一番大きいだろう。

 前世の記憶20年分を有し、合計でいけば38年生きていることになる。

 加えて前世はレポート作成・飲食店バイトに追われていた多忙大学生。

 何だかんだで学業をそつなくこなせるだけの要領は無駄にある。

 転生するべき世界を間違えただけに、俺には勇者と同等の魔力量が備わっており、魔法実技試験も余裕でパスした。

 有り余る1人の時間を勉強に全振りしたおかげで、首席で卒業。

 教師や親からは本格的に冒険者の道を勧められたが、丁重に断った。

 いや、だってモンスターとか、……普通に汚いし。


 閑話休題。時は現在。背中にはリュック、足元は長靴、両手には地図。

 雪のちらつく中、地図から顔を上げる。

 今月の目的地を目の前にして、俺は立ち止まった。

 重々しい曇天に向かって真っ直ぐそびえる針葉樹の群れ。積もった雪は曇りのせいか青く見える。

 自殺スポットと名高い、北の大地にある『首折の森』。

 いやー、一回来てみたかったんだよな。

 整備の行き届いていないこの感じ。木の幹にへばりついた低級スライムの残骸、モンスターの血がこびりついた警告看板……。

 湧き上がる衝動を抑え込み、歩いてきた急勾配の道をざっと見渡した。向かいに掘っ建て小屋があるのみで、それ以外は全て木だ。

 木が大きすぎて、巨人の住処に足を踏み入れたような感覚になる。

 やはり北は未開拓の地という感じが強い。

 俺の住んでいた東の大地は石畳いっぱいに人がひしめいていたから、こういったところに来ると圧倒される。

 それにしても、寒いな……。

 俺の住む東の大地では、今の季節は夏にあたる。

 『北の大地は万年冬景色』という噂を信じて厚着をしておいて正解だった。

 赤くなった指先に息を吐き、両手を擦り合わせる。

 ……さっさと始めるか。

 本来の目的を果たすために、俺はリュックから"道具"を慣れた手つきで取り出した。

「今月はここのダンジョンだぞ、モップ2号」


 そう。俺は現在、ダンジョン掃除屋として働いている。

 というのも卒業後俺は――。


 と、俺のかっこいいモノローグを粉砕するように、気だるげな声が向かい側から飛んできた。


「モップ2号って、だっさいネーミングじゃのー」

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