第3話
夏休みに入り地上へと降りる日が決まると、ティラはソワソワしながらその日を待った。
出発の日。日が落ちて、空に眩い星が輝き出した頃、身支度を終えたティラは、父さんと共に玄関で靴を履いていた。
「ティラ、本当に大丈夫?」
後ろから、心配そうに母、ラフェールはそう言った。
大抵のことには動じない、肝っ玉の据わった母さんなのだが、やっぱり娘が初めて地上へ降りるというのは心配のようだ。
だが、一人ではないのだ。何度も地上へ行っている父さんと一緒なのだから、絶対に大丈夫だよ。
「大丈夫、大丈夫。お土産、楽しみにしててよ」
そう、母さんを安心させるため、にっこりと笑って見せた。
すると、隣に立つ父さんも、そうそう。俺が付いてるから心配するな。と、誇らしげに握り拳を胸にトンと当てる。
これで母さんも安心して送り出してくれるはず。
と思ったのだが、母さんは、そんな父さんを訝しげな顔で見据えて言った。
「あのね、アンタとだから心配なんだよ。やっぱり、他の人に頼めば良かったかね。アルゴさんとか、マイティアさんとか」
マイティアさんとは、父さんの部下の女性だ。
何度か家にも遊びに来ていて、ティラも彼女のことは気に入っている。
「どうしてそこに、アルゴとマイティアが出てくる! アイツらなんかに可愛い娘を預けられるか! 俺は負けん! アルゴになど絶対に負けんぞ! いいかティラ、あの二人よりもいい物を持って帰るからな」
当然アルゴさんも地上へ降りることを知っている父さんは、しかも、連れて行くのが学年TOPのリノアなのだから、ライバルとしては負けられないのだろう。
まったく、子供をダシに使って勝負しないで欲しいものだ。わたしとリノアは、勝ち負けとか考えてないんだからね。
「まったく、そうやって直ぐ、感情的になって周りが見えなくなるから心配なんだよ。悲しくもその血は、ティラも確り受け継いでくれちゃったからね」
母さんが呆れながら肩を竦めると、コチラにまで火の粉が飛んできた。
うげっ。今度はわたしまで!
「大丈夫だから。絶対、父さんから離れないから」
”多分“とティラは心の中で付け加えた。口に出せば、母さんの小言が炸裂しかねないからだ。
「本当、そう願ってるよ」
半信半疑だと言いたげな顔の母さんだったが、フゥ〜と一つため息をつくと諦めたようで、
「まあ、今更ジタバタしたって仕方がないからね。気をつけて行っておいで」
「うん。それじゃあ、行ってきます」
「じゃあ、ちょっくら行ってくるわ」
と、軽く手を挙げて歩き出した父さんを追うように、ティラは首だけを後ろに向け母さんに手を振ると玄関を後にした。
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