第7話
えっ、学校? うそ……わたし、さっきまで魔界にいたはずじゃ?
教室に佇んでいる自分に驚いた。
辺りを伺うが、なんら変わった様子はない。只今、休み時間のようだ。ふと自分の服に目をやると、先ほどとは違いちゃんと制服を着ていた。
えっ、制服着てる!? 可笑しくない? さっきまで、わたし魔界にいたよね。なんで戻って来てるの?
「卯乃香、なにボーとしてるの」
咲希が後ろから声を掛けてきた。
振り返ると、お弁当箱の入った袋を片手にぶら下げ、いつものように席を移動して来たのだ。
「あっ、ああ。お昼、だよね」
「そうだよ。ほら、机、動かして」
わたしの机にお弁当を置くと、後ろの席とくっ付けるように反転させる。
わたしのお弁当は、果たしてリュックにあるのか? 今の今まで魔界にいた記憶しかないのだ。まだ状況が読めていない。
恐る恐るリュックを開けて中身を確認すると、いつものようにお弁当箱は入っていた。
中身は入っているのか? そっと持ち上げると、中身の詰まった重みを感じた。
どうやら入っていそうだ。お弁当箱を机に出し席に座ると、向かいの席に座った咲希がお弁当の包みを開けながら話し始めた。
「卯乃香、北条と何かあった?」
「えっ!? なっ、なんで」
カラオケの後、あの光景を見たことで、わたしと彼は終わった。
北条くんにはまだ伝えていないけど、わたしの中ではもう終わった恋だ。心に傷も残っているし、後ろ髪も引かれているけれど終わるしかない恋なのだ。
それなのに、急に北条くんの話を振られるから動揺した。
「卯乃香、元気なさそうだし。ボーとしてるから」
「ああ、ごめん。ちょっと今の状況に混乱していたって言うか、なんて言っていいか……まあ、北条くんのことはもういいの。大丈夫だから」
「なに、もういいって? やっぱり、なにかあったよね。心配ごととかあったら言ってよ。友達でしょ」
あれ? なんかこんなこと、前にもあった気がする。付き合い始めて直ぐくらいに。そして、うっかり相談しちゃったから、咲希が北条くんに文句を言いに行って面倒なことになったんだった。
咲希と北条くんは同中だから仲良くて、初めに知り合ったのも咲希の紹介だったから。
「ホント、大丈夫だから。それより、この間はありがとね。カラオケ、元気出たよ」
お弁当の蓋を開けながら先日の礼を口にした。
「カラオケ? 何時のだっけ?」
「えっ?」
咲希の返答に違和感を感じながらも、蓋の空いたお弁当へと視線を落とすと、
「きゃぁ!」
お弁当の中身は魔界で見たゲテモノだった。
「卯乃香、ずっと居なかったら忘れちゃうわ。北条も卯乃香のこと忘れちゃったのかも。みんな忘れちゃうわ」
「咲希……」
咲希の様子がおかしい。そう思った時、横に愛梨と彩音が立っていた。
「咲希は北条くんのこと好きなんだよね」
「そうそう、中学の時、告白して振られたんだっけ」
突然の告白に驚いた。
「えっ、愛梨、彩音、どうしたの?」
困惑してると、咲希が声を荒らげた。
「振られたんじゃないから! アイツは、ずっと好きな奴がいるんだよ。叶わない一生片思いの相手が」
「えっ、どういうこと!?」
わたしの声は届いていなかった。それどころか見えても居ないようだ。
わたしが座っている椅子、机が無かったかのように愛梨と彩音が咲希の机の前に立ちわたしに背を向ける。
えっ! 通り抜けた!
「それを知ってて、卯乃香に紹介したの! 二人を見てて楽しかった? 遊ばれてるんだっていい気になってたんでしょ!」
愛梨が机の上を手のひらで大きな音を立て叩きたがら怒る。
「楽しんでなんていないわよ! 友達として紹介しただけで、付き合うとか思ってなかったし、こっちだって予想外なのよ! アイツのこと知ってるから、本気なのか気紛れなのかわかんなくて、ずっと気になってたら、卯乃香があんなことになって! 自分で飛び込んだようだったって周りの人が言ってたって……わたしにどうしろって言うのよ!」
えっ、えっ? どういうこと!? わたし自死したと思われてるの?
「違うよ、事故だよ。ねえ、みんな聞いて! わたしはただ、あいつらに突撃されて怪我しただけで自分から命絶ちたかったわけじゃないからね!」
立ち上がってみんなに言ったが、見向きもしない。
やっぱり、聞こえてないみたいだ。
「咲希が北条くんなんて紹介したから、こんなことになったんだよ」
泣きそうな顔で彩音も咲希に訴える。
「わたしのせいだって言うの!」
「そうじゃないけど、彩音、言い過ぎ」
「ごめんなさい」
わたしの事故が大事になり三人の仲が壊れそうになっている。
どういうこと。これはなんなの? 今の人間界の様子なの? そう思った時、
「卯乃香」
後ろから声をかけられた。
振り返ると、そこには北条くんが立っていた。
「北条くん!」
「うさ耳が解けてるよ」
そう言って、北条くんは垂れた髪をすくい上げキスをした。
「今日は大人っぽいね」
これはどういう状況なのだろうか? いつもより優しい北条くんの態度も、あの大人の女性を見た後だと嬉しくない。今の言葉も、その彼女を想像しているのかと思うと哀しいだけだ。
わたしが想像している夢なのだろうか? なら、言いたいことを言っても問題ないわけだ。胸につかえた思いを口にしてもいいよね。
「北条くんは、大人の女性が好みなのね」
「なに言ってるの? どんな卯乃香も好きだよ」
好きだなんて今まで言われたことがないのに。これは、わたしが言って欲しいと思ってる言葉を口にするのか?
「それはウソだよね。叶わない人をずっと好きでいるんでしょ」
「なに、言ってるの?」
北条くんの表情には動揺が見えた。わたしがして欲しい反応ではなかった。わたしの思いどうりにはいかないのか?
「わたし見たの。駅へ向かう途中、大人の女性と二人で歩いているところを。あれは、誰?」
「誰と歩いてたって? そんなの知らないな。卯乃香以外の女性と二人で歩くなんてしてないよ」
「なに言ってるのよ! 見たんだから!」
「誰かと見間違ってるんだよ。僕は卯乃香だけだよ」
ウソだ。北条くんがこんなに優しいわけがない。やっぱり、願望が夢となって現れてるのだろう。
なら、その優しさに浸ってもいいだろうか。どうせ夢ならなんだってありだよね。
「じゃあ、手、繋いでいい」
わたしがそう尋ねると、北条くんは優しく微笑み、
「いいよ」
そう言って、手を差し出した。
その手を握ろうと手を伸ばしたその時、
「ダメだよ、卯乃香ちゃん」
その声はクリスさんだった。
握ろうとした手を引っ込めて、声の方へと顔を向けると、クリスさんは焦ったような顔で立っていた。
なんて顔をしているのかと驚きながらも、状況に困惑していた。
「クリスさん?」
「その手を取ったらダメだ」
「どうしてですか?」
「それは君の知ってる彼じゃないよ」
「わかってますよ。だって夢ですから。わたしの思いどうりの彼になってますよ」
「違うよ。それは、夢魔だよ」
「えっ?」
「卯乃香ちゃんが、一番落ちやすいと思う相手に化けているんだよ」
そんなはずはない。そう思い北条くんを見ると、北条くんは悲しそうにしていた。
「僕と手を繋ぎたかったんだよね」
そう、これは夢なんだから、わたしがしたいようにすればいいのよ。そう思い、もう一度北条くんの手を取ろうと一歩踏み出した。
すると、クリスさんの手がわたしの腕を握り制止させた。
「ダメだよ」
「離して下さい。わたしの夢で勝手に動かないで下さい」
「だからアイツは夢魔なんだよ。あの手を取ったら卯乃香ちゃんはあいつの餌食だ」
「夢魔ってなんですか? 怖い夢でも見せようっていうのですか?」
「違うよ。悪魔の子を身籠るんだよ」
「身籠る! わたし、悪魔の子を産むんですか!?」
「忠告を聞かなければそうなるよ」
余りの衝撃に戸惑ってしまった。これは本当にわたしの夢なのか? わたしの頭では想像できないほどの内容になってきた。
「卯乃香、僕が信じられないのかい。そんな、この間会ったばかりの奴を信じるのかい」
北条くんがそう言いながら、こちらに歩み寄ろうとすると、クリスさんは自分を盾にするよう、わたしを背中に隠した。
「いい加減にしろよ。それ以上近づいたら、消すよ」
クリスさんは、北条くんに向かって、声を低くして威嚇するように強い口調になる。
北条くんは強ばるように歩みを止めた。二人の間で緊張感が増す。
緊迫した空気に耐えかね先に壊したのは北条くんだった。
「この女はお気に入りですか。わかりましたよ。手を引きますよ」
北条くんはそう捨て台詞を吐くと、顔がぐにゃぐにゃと歪み出し、知らない顔の男になった。
「!」
驚きで声も出ない。誰だ! あんな人知らない。戸惑っていると、男は一瞬で姿を消した。
気づくと、自分の服がクリスターに借りた上着だけになっていた。
次の瞬間、周りの景色が揺らぎ、ジュエリーショップ “フルムーン” へと変わる。
「良かった。夢魔は去ったよ」
ホッとしたようにクリスさんがこちらを振り向き微笑んだ。
「なんなんですか? これは、どういうことなんですか? 夢なんですよね。これは、わたしが見ている夢ですよね」
混乱してもう、何がなんだかわからなくなっていた。北条くんは夢魔が化けてた? それは現実、それとも夢?
「夢? 本当にそうだと思うのかい?」
「だって、有り得ないから。わたしは魔界に居るのに、咲希や愛梨に彩音が居るのも可笑しいし、夢魔がホントに出たと言うなら、やっぱりここは夢の中だし」
「今、卯乃香ちゃんが目にしたことは事実だよ。ここには人間界を覗くことが出来る滝壺があるからね」
「さっき見たのが現実なのですか? 今、咲希達の間では、あんなことになっているのですか? クリスさんとも、繋がってるってことですか?」
「質問攻めだね」
「すみません」
「後ろ、見てみて」
クリスさんに促され振り返ると、周りの景色はまた一変し、先ほどいた滝の場所へと変わった。
焚き火を囲み、クリスターとブラクリーが座っている。
寝ているわたしは、クリスターの膝に頭を載せ、ブラクリーの上着を毛布代わりにかけられていた。
クリスターが、わたしの頭を撫でている。心配している顔だ。
「あれは……」
「大事にされているね。あれは今の状態だよ。ある意味、君は夢を見ている。半分正解で、半分不正解」
「あれも、現実なのですか?」
「そうだね。君は意識だけで滝壺の中を覗いている。夢を見ているように人間界を見ていたのだよ。そこに予期せぬ来客者、夢魔が現れた。たまたま僕の船フルムーンと繋がったから、助けることが出来たんだよ」
「そうなんですね」
恐ろしいことだ。
これが本当なら、たまたまクリスさんに繋がらなかったら、わたしは夢魔に身籠らされていたのだ。
「眠っている君を、クリスターとブラクリーが心配そうに見守っているね。余程、卯乃香ちゃんが大切なんだね」
「うそだ……」
そんなの願望だ。やっぱり願望を夢として見ているだけだ。
クリスターのあんな顔、見たことないし。飄々とした顔と澄ました顔、それに、可笑しそうに笑う顔。クリスターの顔はそんななのだ。あんな辛そうな顔、見たことないし。
わたしを大切にして欲しい。そんな願望が、この夢には込められているのだ。きっとそうだ。
「でも、不安なのだろ?」
「えっ?」
「本当は、不安で仕方がないんだろ。人間ではない者と行動していることが」
クリスさんの口調が急に変わって、声のトーンが低くなった。
「なに、言ってるんですか? そんなこと……」
思っていないと言えば嘘になる。さっきのゴーレムとの戦いも、本当は怖くて仕方がなかった。
でも、なんとか気持ちを奮い立たせて、心を強くして持ちこたえていたのだ。
でも、このまま魔獣達と共にいたら、ゴーレムとの戦いよりも、もっと恐ろしい奴との戦いが待っているかもしれない。なのに彼達は、大したことのないように振る舞う。さっきみたいに、常識のないとこを見てしまうと、やっぱり、わたしとは違う世界の者なんだと痛感してしまった。
少しは信用していたし、仲間意識も持ち始めていたのだが、それが揺らいでしまっている。だから、こんな夢を見ているのだと思う。
「君はホント、いい素材を持っているよね」
「素材?」
「そう。その迷う心。彼達の好物だ」
「好物って?」
「彼らは、その迷う心を食らう。初めにも言っただろ。君は実際、経験したはずだ。迷う心が消えた瞬間を」
「あっ、それじゃあ魔獣の餌は、わたしの迷う心なの?」
「それだけじゃないが、まあ、負の心が好きだね。僕のじゃ、満足できなかったようだけど」
クリスさんは可笑しそうに薄らと笑った。
「クリスさんが迷ってるところは、想像できないです」
「酷いな~」
差程、本気で思っていなさそうにクリスさんは言った。
「でも、これでハッキリしました。わたしが大切にされているんじゃなくて、彼達の餌だから、大切にされているんだと」
「そう思うんだ」
試すような言い方で返され、少しムッとした。
「だってそうじゃないですか。わたしの価値がどこにあるって言うんですか?」
「さあ? 僕は魔獣じゃないから彼達の気持ちはわからないな。でも僕なら、君のこと大事にするよ」
そう言ってクリスさんは、わたしに一歩近づくと、手を顔へと伸ばす。そして、その手が頬に触れると顎を持ち上げた。
えっ、なに? うそ! そんな近くで顔、覗かないで!
美形の彼に覗き込まれると、心臓がうるさいくらいにバクバクといって、聞こえないかと心配になった。
ドキドキと逆流する音を耳にしながら強ばっていると、彼は間近でこう言った。
「僕と来ないかい? ここからなら君を連れ出せる。夢の中なら、奴らに邪魔されることもないだろうから」
迫る美貌は、わたしの胸をキュンとさせ、一気に顔を火照らした。
「夢だから、好きなこと言ってますね」
その時、後ろからか罵声が聞こえた。
「そいつから離れろ!!」
振り返ると、そこにいたのは、
「クリスター!」
「結界、張ってたのにな」
傍に立つクリスさんは、残念そうにそう呟いた。
「渡さねえぞ!」
「ちょっとは褒めてもらいたいね。夢魔から守ったのは僕なんだから。まあ、仕方ないな。今日のところは退くとするか。ブラクリーにもよろしく。よく、この結界を開いたと褒めていたと伝えてくれる」
「自分で言え!」
「まだ、会うには早いからね。また会おう。じゃあね、卯乃香ちゃん」
クリスさんはそう言うと、煙がかき消えるように行ってしまった。
「大丈夫か? なんともないか?」
クリスターはそう言いながら、わたしの身体を念入りに見回した。
なんだか、頭から水をぶっかけられたみたいに火照りが冷め、しらけてしまった。
「クリスター。あんた、わたしの夢まで入ってきて、どういうつもりよ」
「どういうとは、なんだ?」
「今、いいところだったのに」
「お前、あの人と行くつもりだったのかよ!」
「夢なんだからなにしたっていいでしょ。彼は、あんた達みたいに不安にさせること言わないし、一緒にいてくれるって言ってくれるの」
「俺もずっと一緒にいるだろ! それに、お前が、この空間を夢だと思っているのなら大間違いだぞ。ここは、あの人がお前の精神に作り出した結界の中だ。お前に触れていたから、この異変に気付いたが、もし、気付かなかったら、お前、戻れなくなっていたぞ」
これはホント? それとも、うそ? なんだか迷いが生まれた。
だって、クリスさんがわたしのことを危険にする理由が見あたらない。でも、クリスさんのさっきの話では、二人がわたしに迷わす要素を作ることは、美味しい餌になるということになる。
だから、迷わしてる? 美味しい餌を作るために、彼らはせっせと肥やしを与えている?
でも夢なんだから、全部、わたしが造った思い込みなんじゃ? そう考え出したら、もう、本当がなんなのかわからなくなってきた。
「戻るぞ」
手を引かれ、とっさに手を払いのけた。
「なっ!」
「触らないで! わたし、あんた達のこと信用したわけじゃないから!」
「なに、言ってんだ……。お前、あの人になに言われた。あの人のことなんか信用するんじゃねぇ! あの人はな!」
「あんた達魔獣よりは、よっぽど信用できるわよ! あんたみたいに人の心、勝手に呼んで、勝手に食らって、挙げ句の果てに、あんな化け物と戦うハメになって! 夢魔にも狙われて、もうたくさんよ! 早く帰りたいのよ! わたしの場所に、わたしの暮らす人間界に!」
「ごちゃごちゃうるさいよ! いいから来い!」
クリスターは、怪訝そうな顔で無理矢理わたしの手を引っ張ると強引に引き寄せた。
「!」
その瞬間、景色がグニャリと歪むと上下逆さまに捻じれていく。それに合わせて、わたし達も吸い込まれるように捻じ曲がると、意識がふっと飛んだ。
気がつくと、クリスターの膝の上に頭を載せ横になっていた。
ブラクリーが覗き込んでいる。
「卯乃香、大丈夫か?」
クリスターは、そっぽ向き機嫌が悪そうだ。
なんで? さっきのは夢でしょ? どうしてこいつは機嫌が悪いの? まさか、クリスターが言ってたことはホントのことなの? やっぱり、さっきの出来事は、わたしの精神に作り出した結界の中でのことで、現実ってこと?
「本物?」
「はぁ!」
クリスターの膝から頭を持ち上げながら、もう一度、尋ねた。
「さっきのクリスターは、本物なの?」
「だから言っただろ! あれは夢じゃねえって!」
なにが本当なの? 全部夢じゃないの? クリスさんが迷わせてるの? 誰を信用したらいいのかわからなくなってきた。
でも、クリスターが機嫌が悪いのは事実。さっきの会話は現実。
「……ごめんなさい。わたし、言い過ぎた」
「……だが、あれが本音だよな」
拗ねるようにそっぽを向いて、クリスターは目を合わせてくれない。淋しくなって、本当の思いを零した。
「……怖かったの」
「!」
わたしが弱音を吐いたことに驚いたクリスターは、ハッとするようにこちらへと顔を向けた。
話を訊いてくれる気になったクリスターに、ちゃんと気持ちを打ち明ける。
「わたし、一刻も早く魔界から逃れたくて、わたしの常識なんてここでは全然通用しなくて、この世界に、自分だけが取り残されたような、一人ぼっちになったような、そんな気持ちになった」
クリスターは、呆れたようにため息をつくと、
「俺らはお前の見方だ。どんな危険からもお前を護るし、絶対、スターセントを見つけて、人間界に戻してやるから、安心しろ」
そう言って、肩を抱いた。
「クリスター……」
「それに、お前の負の心を俺たちが食ってなにが悪い? それでも嫌なら食うの止めてやる。お前の心も、読まねえよう結界を張る」
「えっ、そんなこと、できるの?」
「まあ、できるよ。魔力消耗するからしないだけで」
黙って立っていたブラクリーが、空いた、わたしの隣に座りながら口を挟んできた。そして、わたしの肩に乗るクリスターの手を、無言で払いのける。
ムッとした顔でクリスターは、ブラクリーを睨んだが、わたしは、手が、どこに乗ってようが、どうでも良かった。
だって、今までは、どうしてもそれが回避できないものだと思っていたのに、それが、ホントは回避できて、そのことを、この二人は教えてくれなかった。
そっちの方が重要だ。
「なんで言わなかったのよ!」
ブラクリーに詰め寄ると、彼は言う機会がなかっただけだ、と悪気なくほざく。
今度は、クリスターに顔を向け、睨みを効かせた。
「あんた、今までわたしを散々騙してくれたわね! それで信用しろだなんて、むしが良すぎるのよ!」
「悪りい。俺、面倒くさいこと、嫌いなんだよね」
と、全く、反省の色が伺えない。
なんなのよ、もう! 信用して欲しいんじゃないの! あんた達の感覚、全然、わからないわよ。
「まあ、そう膨れるな。俺らは、お前の見方だよ。なんといても、俺たちの主だからな」
「そういうことだ。安心しろ」
二人は、そう言って、そっとわたしの頭を撫でる。
信用してもいいの? ホントに、心、読んでないの? そう問いかけても、二人は微笑んでるだけで、その問いに答えることはなかった。
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