第5話

魔界の空には星はなく、月だけが黄色く輝いている。


三日月だ。


さっきは満月だったのに、今、空に浮かぶのは細く淋しそうな月。


魔界の月は、規則正しくは欠けないらしい。


元々時間などというものがないのだ。ただ人間界に浮かぶ月を、不規則な時間で切り取り写しているだけ。そして、誰もが老いない。今ある状態がずっと続くのだ。


永遠に。


魔界とは、止まった空間だそうだ。


ここにいる間はずっと時が止まっている。


言い換えれば、魔獣でも人間界にいる間は進むのだ。人間よりはずっと遅い時間で。


例外があるのは、物質として存在する時は時間の影響がないのだ。


彼らを例で言うと、ピアスの中に入っている時は時間がたたないが、初めて見た、空で喧嘩していたあの時間は動いていた、ということらしい。


風を受けながら空を飛んでいると、見えるのは空と月と荒野だけ。


「おい」


若干後ろを飛んでいたブラクリーが声をかけてくると、クリスターは進むのを止めた。


「やられたな」


「なに? どうしたの?」


「閉じ込められた」


「えっ?」


「さっきから同じとこ回ってんだよ~俺たち」


「うそ! どうするのよ!」


「しゃあねえだろ~。繋ぎ目見つけてぶっ壊すしか」


「同感だ」


おっ、珍しく意見合ってんじゃない。


「うっせ!」


「なんだと!」


「お前に言ってねえよ!」


わたしの心を読んだクリスターが突っ込んだセリフに、ブラクリーが吠えて、クリスターも吠える。


状況を理解したブラクリーはわたしの顔をチラリと見て、


「……卯乃香。話しは声に出して言え。俺が、わかんねえだろが」


「勝手に読むのよ。これが」


不可抗力だと主張して、クリスターの後頭部を指さした。


「触れてるから仕方ねえだろ。不可抗力だよ~俺は」


「嘘つけ!」

「嘘つけ!」


ブラクリーと息ピッタリに突っ込んだが、クリスターはまったく堪えていない。


大体、わたしの心を読んで楽しんでるのよね、こいつは! 


わたしの主張を被せてわたしにだけわかるように ”不可抗力“ を使ってからかったのだ。


「そんなことねえよ~。楽しむだなんて人聞きの悪い」


「また……ってあれ? あの丘、動かなかった?」


「うん?」


クリスターが丘を探していると、


「あれか!」


ブラクリーが、丘を睨みつけて動き出した。


それに続いてクリスターも、


「確り掴まってろ」


と、言い終わるよりも先に動き出した。


「きゃぁ! 危ないじゃないの! 掴まる余裕ぐらい作りなさいよ!」


ブラクリーも、クリスターも、かなりのスピードで丘まで突き進む。


近くに行くにつれ、丘は、かなりの大きさだとわかった。その端の角がゴゴゴと地響きのような音を出し始める。


えっ、なに? えっ、ええ――――――――――!? なんなのよ、あれは!!


その丘は、まるで背を丸めた状態でしゃがみ込んでいるといった形から上体を起こし、立ち上がろうとするかのように伸び上がって、っていうか、人型なんですけど!! どうして、丘が立ち上がるのよ! ありえないでしょ! そんなこと!


立ち上がると、ビルの八階ぐらいの高さはあり、肩幅は、ファミリー向けの部屋、五、六件分はあるだろう。


奴の身体は、ゴツゴツとした岩肌で乾いた土色をしている。


その丘の巨人は、大きく腕を振り上げ、ハエでも払うかのように、突進するブラクリーと、クリスターをたたき落とそうとした。


背中には、わたしが乗っているというのに!


「きゃぁ! やめて―――――――――――――! イヤ―――――――――――――――――!」


クリスターにしがみ付きながらギャアギャアと騒いで、どうにか振り落とされないようにするのが精一杯の状態だ。


「お前、静かにしろ! 気が散るだろが!」


鬱陶しそうにクリスターは言ってるけど、それに返事をする余裕も、反論の言葉も思い浮かばない。取り合えず、ギャアギャアと喚くしかできないでいる。


だって、大きいと思っていた魔獣達を、虫けらのように扱う土巨人からしてみれば、わたしなんて見えてないんじゃないかと思うくらい小さな存在だ。


いってみれば、猫の毛に付着している蚤だ。


そんな蚤のことなんて構ってくれるはずもなく、容赦なく、頭上から攻撃を仕掛けてくる。


腕を振り払うだけではなく、口から土の固まりを吐き出すのだ。


素早く避けるクリスターだが、最後の余韻とでもいうのか、埃っぽさの残る空気が顔面に、ビシビシと触り目も開けられない。


目を瞑ったまま、下を向き毛にしがみ付いているのだから、視界がないのと、不規則に揺れる動きに恐怖を感じるのは当然ではないか。


「イヤ――――――! きゃぁ―――――――! 助けて―――――――! なんなのよ、これは!!」


「ゴーレムだ」


一様、わたしの質問にクリスターは答えてくれたが、もうそんなのなんだっていいのよ! ここが魔界だってことで、いろんな怪物が現れることだってまあ、不思議じゃないから。でもね、でも、なんでわたし達が襲われなきゃいけないの! ただ、飛んでただけでしょ! 魔界城に向かってただけでしょ!


「ルキフェル様の仕業だ。俺らを、そう簡単に城へと向かわせてはくれないってことだ」


「ルキフェルの! 極悪卑劣な奴ね! スターセントを隠したあげく、取り返しにきたら攻撃だなんて!」


「そういう人だよ、あの人は。いろんなもの、オモチャに暇つぶしするような、心ない人だ~」


「わかってんなら、なぜ、従ってるのよ!」


「一様、あれでも俺たちを作ってくれた親、見たいなもんだからな」


ゴーレムの攻撃を躱しながら、クリスターはそう話す。


「………」


親、なんだ。ブラクリーも、クリスターも、スターセントも、ルキフェルが作り出した魔獣なんだ。


じゃあ、なぜ、スターセントを隠したの?


「それはだな、なんていうか、あいつも悪いって、うわぁ!」


危うく土の固まりにぶつかりそうになったクリスターが、必死に避けながら吼えた。


「お前、ちょっと黙ってろ!」


戦いに集中したいクリスターは、話しが面倒になったようだ。


これはマズい。これ以上気を散らすと、本気で殺られそうだ。


「テメェーらいい加減にしろよ! ごちゃごちゃくっ喋ってないで集中しろ! このバカ野郎! 仕掛けるぞ!」


ブラクリーが殺られそうになっているクリスターに罵声すると、二匹はゴーレムの周りを、間合いを取りながらグルグルと旋回し始めた。


ゴーレムはどちらを焦点に合わせばいいのかわからなくなっているようで、右へ左へと顔をきょろきょろと動かしている。


混乱してきたゴーレムは両腕を上げ『ゴゥー』と叫んだ。


それを合図にするかのように旋回していた二匹は、ブラクリーが右腕、クリスターが左腕へと速度を上げ接近した。


腕を上げた状態のゴーレムは二匹のスピードについて行けず、腕を下ろす前に、腕のつけ根に四本の足が衝撃を食らわした。


すると、衝撃の中心からヒビが入り、もろくも腕がもげるように崩れていく。


よし! と喜んだのもつかの間、振り上げていた腕はゴロゴロと破片になり頭上に降り注ぐ。


「きゃっ!」


悲鳴を上げたが、破片の下にいたのは一瞬のことで、あっと言う間にゴーレムから離れていた。


ゴーレムの足下には、もげた腕が砕け、散乱する形で散らばっている。


腕を失ったゴーレムは、大きな声で遠吠えのような叫びをし、赤い光線のような光を放ってその場で旋回し始めた。


なにあれ! 破壊光線!? と思ったが、その光線は破壊するのではなく二匹を見つけると、次第に光線は短くなり目から赤い輝きが消えた。


どうやら探知機みたいなもののようだ。


すると、もう一度クリスターとブラクリーは、先ほどよりも低い位置で旋回し始めた。


また、ゴーレムは混乱し出したが、今度は先ほどの失敗を学習したのだろう。目に再び赤い光線を浮かび上がらせる。それで感知しようってか!


だが二匹は、その光よりも速い速度で躱しながら右膝目がけて接近し、挟むように蹴り衝撃を与えた。


すると、ガラガラと乾いた土は崩れ、支える足を失ったゴーレムはバランスを崩す。そして、グラリと上体が傾くと、大きな巨体は為す術なく、地面に叩きつけられた。


その衝撃に身体、足も大破する。かなりを破損しゴーレムは崩れた。


「やったの?」


「たぶん……」


「良かった~。死ぬかと思ったよ」


安堵して気を緩めていたわたしとクリスター。


「おい! まだだぞ!」


「えっ!」


慌てて大声を上げたブラクリーの目線の先を追うと、ゴーレムの崩れて散乱しいた土が、頭へと吸い寄せられるように元へと戻ろうとしているところを目にした。


「うそ、再生してる……」


「なんだよ~、これじゃ切りねえな。止めるか」


「なに言ってんのよ! 真面目に考えなさいよ!」


「俺、面倒くさいこと嫌だよ~。あんなの相手して、無駄に体力使うの」


ダルそうな態度に、ブラクリーが切れた。


「アホかテメェー! このままだと、ずっとここから出られねえだろが! ごちゃごちゃ言ってねえでやるぞ!」


「え~」


「え~、じゃねえ! 再生できないくらい潰しゃいいんだよ!」


「しゃあねえな~。じゃあ、もう少し耐えてくれよ」


あっ。クリスターは、わたしのことを心配していたようだ。


だって、振り落とされないよう必死に毛を引っ掴んでいるのだ。きっと、引き千切らんばかりに握っている。余裕ありげに振る舞おうとしているのもお見通しなのだろう。


もしかしたらいったん退いて、わたしを降ろしたいのかもしれない。


さっき気が散るって言ってたし、集中できないんじゃない。どうしよう……。


わたし、降りた方がいいなら全然構わないし、サッと地上に降ろしてくれたら走って危なくない所まで行くよ。


「お前、気が散るってわかってんならなにも考えるな! 俺は、降ろしもしねえし死なせもしねえ! お前は黙って、しがみついてやがれ!」


……ごめん。


わたしバカだ。気が散るって言ってるのにウダウダ考えて邪魔ばっかりして。なんの力にもなれないわたしがここを切り抜けるには、結局、邪魔にならないようにするしかないじゃない。


お願い、勝って。


「任せろ」


クリスターの言葉は、わたしの心に落ち着きを取り戻させてくれた。


きっと、彼らに任せればなんとかなる。なんといっても魔獣だ。このゴーレムは、図体はデカいが攻撃事態は単純で恐れることはない。


と思っていたのに、やっぱり再生能力に苦戦している。どれだけ壊しても、また元に戻ってしまう。どうしたらいいの? あの能力をなんとかしなくては倒せないじゃない。


小さな頃、読んでいた絵本で見た気がする。


なんだったか、たしか泥人形のゴーレムとは “胎児” って意味だったよね。知能は低いが怪力。だが、多少の言葉は理解するんじゃなかったかしら?


そうよ! ゴーレムは言葉で支配するんだったわ。


額に書かれた文字を消す! いや、全部消したらいけなかったような?


「emeth。真理か」


クリスターが呟いた一言で閃いた。


「そうよ! emethの “ e ” を消してmethにするのよ!」


「彼は死せり、か。よし。そうとわかれば簡単なことだ。任せとけ」


そう意気込んだクリスターだったが、額というのは、なかなか近づけるものじゃなかった。


正面から突っ込めば、確実に視界に入り叩かれるし、かといって、後ろへ回り込んでも額の文字が見えず、消しに向かうまでに見つかってしまう。


「ねえ、わたしをゴーレムの頭の上に降ろしてくれない」


「はぁ、なに言ってんのお前。無理に決まってんだろ」


でも、いい考えだと思うのだ。わたしならできそうだもん。


「大丈夫よ。ゴーレムは、わたしのことなんて見えてないもん。小さすぎて気にも止めないみたい。蚤程度にしか思っていないのよ。きっと見つからずに額の文字を消せるわ」


その言葉を聞き隣にやってきたブラクリーが、若干怒り気味で話しによってきた。


「それは危険だ。卯乃香はわかってねえ。落ちれば終わりだぞ」


「大丈夫よ、ブラクリー。二人がゴーレムを惹きつけてくれれば、その空きに、絶対成功させるから」


「しかしだな……」


渋るブラクリーを余所に、クリスターは言った。


「よし。やってみろ。危なくなったら助けてやる」


「テメェーなに言ってんだ! もしものことがあったら、どうするんだよ!」


「お前は、また小っせえことを。信じてやろうじゃないか。こいつを」


「任せて」


「……」


言っても無駄だと悟ったのか、ブラクリーは呆れたようにため息をついた。


「よし。そうと決まればブラクリー、俺が後ろへ回る間、奴の気を惹け」


仕方ないといった感じて、ブラクリーは小さく頷くと、


「……わかったよ。やればいいだろ、やれば!」


頑張るから。絶対成功させようね。


自分が今、役に立っていることがちょっと嬉しい。


ブラクリーが動き出すと、ゴーレムはまんまと誘いにのり、ブラクリーに攻撃を仕掛けてきた。


その空きにクリスターも動く。


ゴーレムの視界からゆっくりと消えると、下降し後ろへと向かう。


ゴーレムとの距離はかなりある。


後ろへ回ると、今度は上昇しゴーレムの頭上へと向かう。


ここでも、まだ、距離を取りながらだ。


早くしないとブラクリーが危なそうだ。必死に土の固まりを避けている。


早く! クリスター!


「わかってるよ。高速で下降するから飛び降りろ。できるか?」


「うん。絶対やってやる」


「合図送るから、その時ジャンプだ」


「わかった」


返事と共に、クリスターは下降し始めた。


ぎゃぁ―――――――! っう、我慢、我慢。


息ができないくらい、急速に下降し始めて驚いてしまったが、ここはクリスターの気が散らないようにしなくっちゃ。自分で言い出したことなんだもん。


「行け」


その声を合図に、速度が減少した。


え~い!


勢い良くゴーレムの頭上目がけて飛んだ。


よし。いい位置じゃない。ちょうど真ん中辺りに、えっ! やだ、動かないで!


クリスターが去り際に、ゴーレムの視界に入ったのだろう。奴は、それを追いかけるように顔を移動させた。


わわわわっ、ちょっと――――――――――――!!

 “ガシッ” と、なんとかゴーレムの後ろ側の頭にしがみつき落下だけは免れたが、只今、足が宙を掻いています。


イヤ―――――――!落ちる―――――――――!


と言っても、今、助けを呼ぶことはできないので自力でよじ登るしかない。腕に命一杯力を込め身体を這い上がらせる。腕はプルプルとしてきたが、ここで気を抜いたら終わりだ。


まだ死にたくない! その思いでなんとか地に足がつくところまで登ることができた。


やっ、やればできるじゃんわたし。人間、命かかるとなんでもできるもんだね。


息を整え胸をなで下ろすと、ゴーレムの頭の広さに唖然とした。


離れて見ているのと、実際載ってみるのでは大違いだ。


車が二台は駐められそうな庭付き一戸建てが二軒、いや三軒は建てられそうな広さはある。


大っきすぎ! って、まあ、そんなこと今はどうでもいいわ。ゴーレムの額の文字を消さなきゃいけないのよ。


立って前進しようとしたが、顔は不規則に左右するので、立っての移動は困難になった。


なによ、もう! ……仕方ないな~。四つん這いになるか。


膝とか擦り剥きそうだしイヤだったが、そうも言ってられない。四つん這いになり前進した。


ゴツゴツとしたゴーレムの頭は、揺れ動く動作にちょうどいい感じでストッパーになっている。これがなければ、スーッと滑ってハイおしまいって感じだよ。


顔の先までくると、クリスターとブラクリーの姿が見えた。


こちらへの攻撃ができないことで、彼らは攻撃を躱すことしかできない。


ゴーレムがいくら知能が低いからといって、目の前にいる標的に向かって、数多く土の固まりを投げた方がいいことぐらいはわかっているようだ。


先ほどとは比べものにならない数を吐き出している。


必死に避けるブラクリーの翼に土が命中し、グラリとバランスを崩す。


「!」


声が出そうになり、必死に手を覆い言葉を呑み込んだ。


ここで声を発したら終わりだ。


ゴーレムは、痛みや触られている感触などはなさそうだが、目と耳は機能している。


どうやら気付かれずにすんだようだ。ブラクリーも持ち直している。


よし! 気合いを入れて地べたに寝そべると、頭上から顔を覗き込んだ。


あまり出ると視界に入ってしまうだろうから、そっと覗き込む。


あった!


額の中央、鼻のちょうど上辺りに “emeth” と刻まれてる。


あの “ e ” ね。


手を伸ばし刻まれている文字を消そうと試みたが、あと少し、というところで届かない。


うそ、もうちょっとなのに! お願い、届いて……。


かなり一生懸命手を伸ばしているのに、どうしても届かない。


どうしよ……。仕方ないわね。足から行くか。


一度体勢を整え、今度は足から額へと滑らせる。


どうか、見つかりませんように!


祈るような気持ちで足を下ろした。


身体が地についている時は、まだ良かった。しかし、腕だけで支えなくてはならなくなると、途端に負担は大きくなって痺れてくる。


あと少し降りれば “ e ” の場所なのだが、これ以上降りると滑り落ちそうだ。


どうしよう……このまま、どうにもならなくなっちゃうよ〜


その時、遠吠えのようなゴーレムの声が響き腕を振り上げた。


うそ! 気付かれた! えっ? きゃぁ――――!!


とうとう手を滑らしてしまった。


イヤ! 落ちる! クリスタ―――――――――! 助けて――――――――――――――!


必死に手でデコボコの肌を掴もうとして、なんとか出っ張りに引っかかった。


はぁ~助かった。……ってここ瞼だ! これはこれでヤバくないか? だって、わたしの足、完全にゴーレムの目に被ってんじゃん! 

イヤ―――――――――――――――――!


足をなんとか縮めて見えないようにしようとするが、そんなこともう意味のないことだろう。


だが、ゴーレムは攻撃を仕掛けてこない。腕を振り上げたまま。


えっ、なに?


恐る恐る、上を見上げた。


すると、額に刻まれた “ e ” の文字が消えていた。


ああ、やっ、やったんだわたし。成功してたんだ……はぁ~。やった、やった、


「やった―――――! わたし、やったんだ! ゴーレムを止めたんだ!」


「よくやったな、卯乃香」


「ブラクリー!」


「さあ、こっちへ来い」


「ありがとう、きゃぁ!」


ブラクリーの背中に足をかけた瞬間、わたしの身体が宙に飛んだ。


クリスターに咥えられ、放り上げられたのだ。


「これは俺の役目だぞ。お前には任せられん」


「なんだとテメェー!」


「お前は心を読んでも、しれっと知らぬ振りすんだよ~。そして、ここぞとばかりに 『お前のことはなんだってわかってる』 とか言って、格好つけんだよ~」


「そんなことしねえよ! テメェーの方が、なんでも心を読んでペラペラ話しやがって! ちょっとは気を遣え! この、無神経野郎!」


「なんだと! お前こそムッツリなんだよ!」


「もう! いい加減にしなさいよ! 今、わたし、すっごく大変だったのよ! 見てたでしょ! そんなくだらないこと言い合ってないで、わたしを褒めなさいよ!」


「……」

「……」


沈黙する二匹はかなり引いた態度だ。


「なによ? なんで謝んないのよ」


耐えかね、そう切り出すと、


「なんだかお前、段々ルキフェル様に似てきてねぇ。なに、その傲慢なセリフ」


「言えてる」


二匹して納得といった感じで見合ってる。


「止めてよ! 天地最強の極悪サタンでしょ。わたし、そんなのと一緒じゃありません!」


なんでわたしがルキフェルなんかと似てるのよ! あんたらが、まともな話しできないからこんなことになってんじゃない!


取り繕って、演じていい顔をしなくてもいいから、まあ、そんなことしても丸見えのお見通しだから本音で話すしかないのだけれど、それが心地いいし、本来のフラットな自分でいられることが、少々悪態をつく原因にもなっているのかも。


と、グダグダしていたら、ゴーレムが崩れ始めた。


「ひゃ! 崩れる!」


「よくやったぞ、卯乃香」


「上出来だぞ~。さすが、俺が見込んだ女だ。うんうん」


褒め称えるブラクリーに自慢げに頷くクリスター。


慌てて頭にかかる砂埃を腕で庇いながら吠えた。


「そんなこと、もうどうでもいいから、早くここから逃げなさ―――――――――――!!」

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