第3話

「もしも~し。大丈夫ですか? ……ってダメだな」


「テメェーのせいだろが!」


「なんで俺のせい!」


「テメェーが飛ばすからだ!」


頭の上で声がしてきた。



なんなの? なに、騒いでるのよ!


痛っともう顔痛い、頭痛い、というか全身痛いっ……てあれ? のはずなんだけど痛みがない。


なんで? わたしさっき巨体怪物にぶつかられて “ドカン” と倒れて……ってそうか! やっぱり幻だったんだ。


そうよ。あんな怪物が存在するわけないんだから。もしかしてわたし、あまりのショックに気を失ってあんな夢を。


今までのことは全部、夢の中の出来事だったのよ。


良かった。


頭で瞑想し納得すると、ゆっくりと目を開いた。


「おっ、気がついたぞ」


「あらま、頑丈だ~」


「大丈夫か」


目の前に、覆い被さるように二つの顔が覗き込んでいた。


手前にいる者の服装は黒を基調とした装いで、髪も黒く若干長くワイルドな感じだ。瞳も艶やかに光る漆黒色。


その後ろから覗き込むように双子だろうか? 同じ顔だが、こちらは白を基調とした装いで、髪の色はシルバー。瞳もクリアに光るシルバーをしてる。


その、男二人が、黒い方は心配そうに、白い方は面白そうに覗き込んでいた。


ツンツンと頬を突かれている感触にハッとし飛び起きると、白い方がニヤリと笑っている。


前に出てきて、指で突いていたのだ。


「なっ、なんなのよ」


なんだか、状況が全く読めてこないのだけど? ……ってここ、どこよ?


身体を起こし辺りを見渡させば、そこには見たこともない土壁に、岩がゴロゴロと転がった原始的な場所。


わたしの想像が正しかったら、この場所の名前は少々大きな洞穴だ。


「おい、まだ動かない方がいい」


「そうだぞ~」


「かなりの衝撃だっただろうから不安定なんだ。あんまり無茶すると切れるぞ」


「まあ、それもいいんじゃね。自由に出れるなら俺はどこでも」


「テメェーなに言ってんだバカか! こんな状態で、一生暮らすなんてまっぴらだぞ!」


「それもそうだ。取り合えず、繋がってることだし、セーフだな」


なんだかわけのわからないことをほざきながらも、黒い方はわたしのことを心配しているようだが、白い方は自分のことしか考えてなさそうだ。


ヤナ奴。


「あの、ここどこですか? あなた達は誰ですか?」


取り合えず、状況確認をしなくては話しにならない。


なぜ、こんな所に来てしまったのか? こいつらは誰なのか?


「あんた覚えてないのか?」


ウザそうに目を細めたのはもちろん白い方。


「それがだな……」


言い難そうに顔を顰め目を泳がせたのは黒い方。


覚えて……って言われても、夢を見る前は店へと続く道から出てきて、彼を見つけてショックを受けて、それから、そのまま佇んでいたら、もういつの間にか夢の中だったってことしかわからないわよ。


「わたしはただ、立っていただけで」


「そうそう、そうだよ。ずっと立ち尽くして、俺たちのこと見てたもんね」


茶化すように、白い方が言った。


はあ? 『俺たちを見てた』 わたし、あんた達見るの初めてなんですけど。


「すまなかったな。俺が上手く躱せたら良かったのだが」


なぜだが、恐縮そうに黒い方が謝ってくる。


それを煽るように、白い方が茶々を入れてきた。


「大体、お前が勝手に飛び出そうとするから、こんなことになっちまったんだよ」


「それは、反省する」


「ダメダメ。そんなこと言っても許しませんよ。ちょっと話しかけられたからっていい気になって、下心丸見えなんだよ。ちょ~っと触られたぐらいで興奮するようじゃ」


「なに言ってんだテメェー! 俺がいつ興奮したって! 下心なんてねえよバ~カ! テメェーこそ先越されて悔しいだけだろが!」


なんなんだこいつらは! わたしの話わかってんのか! この状況がどうなってんのかが知りたいんだよ! あんたらの言い合いは、わたしとの会話が終わってからにしてちょうだい!


「ちょっと、いい加減にしなさいよ! さっきから、わけのわかんないこと言い合ってんじゃないわよ! 大体ね! か弱き乙女が倒れてたっていうのに、あんた達はなにをしてるの! わたしのことほったらかしで喧嘩ぼっぱじめて、ここは保育園じゃありません! いい! わたしはね、ここがどこだって訊いてるのよ!」


「!」

「!」


キッと睨みを利かせて見やると、二人の男はビクリと身体を揺らし、さも猫が耳をシュンと下げ反省しているかのように肩を竦め顔をうつ伏せた。


「すみません」

「ごめんなさい」


黒に白が、それぞれに反省の言葉を口にすると、なんだか苛めてしまったかのような罪悪感が生まれ、仕方がないので肩を竦めると、


「取り合えず、座って話ししない?」


立ちんぼを食らった彼らに、前の地面をポンポンと叩き座るよう促した。


「それでね。取り合えず、ここはどこなのか訊きたいの」


冷静を心がけ、若干、子供に尋ねるように話した。


年上だろうし、いい青年に見えるから失礼かとも思ったが、先ほどの行動はどう見てもガキだ。こちらが大人にならなければ、話しにならない気がしたのだ。


話し出したのは黒い方。


「ここは、まあ……」


「まあ?」


「だから、まぁ……」


「まぁ?」


「魔界だ」


焦れったい黒を差し置いて白が言った。


「はぁ?」


「だから、魔界だって言ってんだろ」


「あのね、ジョークは聞きたくないの」


だが、白は呆れたように肩を竦め “なぜわかんねぇかな~” といった感じで見てくる。


なに、本気なの? 冗談でしょ。だって、わたし生きてるし、そんな見えない世界のことなんて信じないし、それに、普通に洞穴なんて魔界らしくないじゃない。って信じてないんだけどね。


だが、沈黙と二人の表情で不安になる。


「……ホント?」


「本当だ」


今度は、黒だ。


うそでしょ! 魔界って、あの魔界! 悪魔がうじゃうじゃと蔓延っている、あの魔界!!


「え~っと。あの、あなた達は、誰?」


ここは百歩譲って魔界だということにしよう。そしたら、ここにいるこの男達はなんだというのだ?


魔界にいるということは……悪魔か。


いやいやいやいや待って。わたしは人間だし死んでもいないが、ここにいるではないか。それなら、この二人もきっとそうだ。そうに決まってる。だって、どこからどう見ても人間の身体だし、可笑しな所なんてどこにも……って、あれ? さっきまで気付かなかったけど、白い方の服の胸元は引き裂かれ、胸の辺りに穴が四つ。黒い方は、額の上辺りと、こめかみ辺りに合わせて穴四つ。


これは、先ほど見たんじゃないか?


実際には穴を見たんじゃなくて、開けられただろう過程を立ち尽くし。


あいつらなんて言ってたっけ? 『飛ばすからだ』 『見てたもんね』 『上手く躱せたら良かったのだが』 これって、あの夢が現実だって言ってない?


でも、彼達は人型だし。間違っても、巨大猫には見えないし。


「俺は、ブラクリー」


「俺は、クリスターだ。で、あんたの名前は?」


黒い方が、ブラクリー。白い方が、クリスター。名前を教えてくれたけど、わたしはそんなことを訊きたかったんじゃなくて、あんた達が何者なのかって訊きたかったのよ。


はぁ~。まあいいわ。取り合えず、名前よね。


「わたしは、白野 卯乃香。うさぎのかおりと書いてウノカ」


「シロノウノカ。ややこしい。白ウサでいいだろ。白同士、仲良くやろうや」


楽しそうに笑うクリスターだが、全然面白くない。


「“白ウサ” じゃなくて “シラノ ウノカ” 卯乃香ってちゃんと呼んでよね」


「なんだよ。つれないねぇ~」


「あのね!」


「まあまあ、ここは、ちょ~っと落ち着いて話ししようじゃないの」


クリスターは、手を身体の前に持ってきて宥めるポーズをとる。


全く、それはこっちのセリフだっつうのよ。あんた達がややこしくしてしまってるから進まないんじゃない。


「じゃあ、卯乃香。後は、なにが訊きたい?」


クリスターのように茶化さず、真面目に尋ねてきたのは、ブラクリー。


「どうしてわたし、こんな所に来たのかしら?」


「それはホント、すまない。俺らが連れてきた」


「なんで!」


申し訳なさそうに頭を下げたブラクリーに変わり、クリスターが話し出す。


「あのまま放置したら、お前死んじまいそうだったからな。お前の身体華奢だったし、衝撃で顔とか身体も結構な被害あっちまってよ~」


「死ぬって、なに……」


なに、物騒なこと言ってるのよ。わたしが死ぬだなんて……


「あの時、変化を解いた状態だったから、図体デカいし、重いし、もちろん、なんとかしようと思ったが、あまりにも近すぎて変化もできなくて、戻ることも間に合わなくてだな……」


言い訳のようなものを並び立てながらも、自分のせいでこうなったのだと恐縮しているブラクリーに、またも、クリスターは野次を飛ばす。


「大体、お前が本気出して、心臓えぐり出そうとかするからいけないんだよ~。つい、こっちも本気出しちまったじゃねえの」


「テメェーの方が、先に本気出したんだろが!」


「俺のは、急所じゃねえ」


「そんなもん、どこだって一緒なんだよ!」


変化? 図体でかい? 心臓をえぐり出す?


「……あの~、まさかとは思うんだけど、あんた達さっきの怪物」


「怪物なんかじゃねぇ! 魔獣だ!」

「怪物なんかじゃねぇ! 魔獣だ!」


ハモった! 珍しい~、って言ってる場合じゃないわよ! なんて言ったこいつら。今、訂正したにも拘わらず、わたしにとっては、もうどっちでもいいんじゃないの? と思った内容を口にした。


そう、奴らは “魔獣” だと言った。


……あ~やっぱ、わたしムリ。


こんな奴らと一緒にいたら噛み殺されるよ。


わたしは、まだやりたいこととかいっぱいあるし。例えば、新しい彼氏を見つけて、遊園地デートしたいし、海に沈みゆく夕日をバックにキスとか、ゲレンデでスノボー教えてもらって、っとまぁ、色々やりたいことがあんのよ! こんな所でくたばるわけにはいかない!


こんな化け物みたいな、いや、化け物といるくらいなら、いっそのこと一人の方がずっといい。


そうに決まってる。


スクリと立ち上がって踵を返すと、そのまま出口に直行する。


「おい、ちょっと待てって!」


ブラクリーが吠えているが気にしない。もう、関わらないんだからね。わたしは、一人で帰るんだから。


「あれ、追いかけるのか?」


飄々とクリスターの声がする。


「おい待てって! まだ動くのは、」


ブラクリーが引き止めようと話し出したが、被るようにクリスターが可笑しそうに言った。


「なに、歩いて行くのか? バカだね~」


その言葉を耳にした瞬間、クリスターがわたしの目の前に立ち塞がった。


しかも、一歩も出せない場所にだ。


だからわたしは、宙に浮いた足を下ろす場所を失い、ホント、不本意だけど、すっごくイヤなんだけど、クリスターの胸に飛び込んでしまった。


「捕まえた」


奴は、わたしを抱きしめると、これでもかというくらいに引き寄せ身体を密着させる。


「ああ――――テメェーなにしてやがる! そんなギュゥ~って身体くっつけやがって! テメェーの方が下心丸見えなんだよ!」


後ろで、ブラクリーがそんなことを吠えていたが、わたしには、それに突っ込む余裕は全くなかった。


早くこの状態から脱出しなくては、恐ろしいことになりそうだ。このまま食われて御陀仏ってだけにはなりたくない。


腕に、おもいっきり力を込めて、クリスターの胸を押し返すが、さすがに男の、いや、魔獣の力にかなうはずがなく微動だにしない。


ちょっと離してよ! わたしなんて食べても美味しくないんだからね! 他、あたってちょうだい!


あれ? うそ、声が出ない! ちょっと待ってよ! わたし、言葉しゃべれたよね? どうして! どうして声が出てこないのよ!


「言っとくけど、離れようだなんて無理だからな。俺たちの本体は、そこ、あんたの耳にぶら下がるその石の中。ホント、あいつに任せとくと、肝心なことを言わねえから面倒くせえことになっちまうんだよ。俺はね、一様、あいつの兄貴だからこんな尻拭いしてるけど、ホント、面倒くさいこと嫌いなんだよ」


「兄貴じゃねえだろが!」


そんなことどうでもいいのよ! 早く、この腰にある手をどけなさいよ! あんた達がピアスだろうが、石だろうが、そんなこと、……え? 今、なんて言った! 『俺たちの本体は、その石』 ってことは、あんた達 “石!” それは、どう受け止めたらいいのだ。って、もうここまできたらどうでもいいんじゃないか? こいつらが怪物だろうと、魔獣だろうと、石ころだろうと、結局は、人間じゃないんだから。


「つれないねぇ~。人間じゃなきゃ、怖いか」


「!」


なに? あんた、心、読んでるの!!


「結構、汚い言葉も吐いてるじゃねぇ」


ニヤリと怪しく笑って、クリスターは、また腕に力を込めた。


「あんた、離すと逃げるでしょ」


当たり前だ!


「だから離さない。大人しく話し聞いてもらわないと困るんだよね~。それと、うるさいから声も封じた」


あんたの仕業なの! 勝手にわたしの心まで読んで、どういうつもりよ!


「まあ、話し聞けって。読めるのは、こうやってお前に触れてる時、つまり、ピアス本体と俺たち実体が繋がってる時だけ、それ以外は読めねえから安心しろ」


安心しろって、今、読んでるじゃないの!


「触れてんだから当たり前だろ。なに言ってんのお前」


だから、読むなって!


「今は無理。話ししてっから。で、どこまで話したっけ?」


どこまでって、あんたらが石だってことだけですけど。


「ああ、そうそう。それから、あんたは今魂魄で、本体は人間界の病院に転がってんだけど、まあ、命は取り留めたと思うが、安定するまでは、人間界に1番近いこの洞穴をあんたが出ちまったら、糸が切れてあの世行きだ」


………。

え~と……え~と……え~と……なんて?


「だから、ここにいろ」


え―――――――――――――――――――――!


なんか、頭、痛くなってきた・・・・・・。


「大丈夫か?」


はぁ〜…うぐっ……酸素。


「はぁ?」


酸素! あんたが捕まえてるから、酸素が脳みそにいってないのよ!


「俺のせい?」


そうよ!


本気で苦しくなって心の中で叫ぶと、顔だけは胸板から外された。


なんだかもう、どうでも良くなってきた。わけのわからないこと当たり前のように話されて、いろんなことに驚いてたけど、わたしが魂魄だなんて言われてしまっては、もう常識の範囲を超えてしまってる。


ここに留まらなくては本当に御陀仏だと言われて、出て行きようがないじゃない。


これが本当なのか嘘なのかはわからないけど、ここを逃げても、どうせ二人とは離れられないんならどこに行こうが一緒だし。


あっ、でもこのピアスを外しちゃえば離れられるんじゃないの?


「無理だね、そりゃ。あんたの本体も俺たちの本体も人間界に存在していて、本体じゃなきゃこれは外せない。それに、俺たちだけじゃ人間界に戻ることもできやしねぇ」


はぁ~。もう、なに聞いても驚かないわよ。絶望的だってことだけはわかったから。


「なんか、投げやりじゃねぇ」


もう離してくれないかな。わかってんでしょ。わたしが、もう逃げないって。


「わかってんだけどね。……気持ちいいから」


キィッ! いい加減にしなさい!


突き飛ばすと、簡単にクリスターは離れた。可笑しく笑いながら。


膨れて顔を逸らすと、いじけたブラクリーを発見する。


「……なに、あれ?」


「お前が、怪物も魔獣も石ころも同じだって言うから拗ねてんだよ」


「言ってないよ。そんな……って言ったかも」


「言ったのか! って、そうじゃなくて! テメェーら、俺の前でイチャイチャいちゃつきやがるからだ!」


「違うだろ。話し合いだ」


吼えるブラクリーに、クリスターは冷静に冷めた言い方で反論する。すると、それが逆に感に障ったらしくブラクリーは爆発した。


「違わねえだろ! テメェーだけは許さねえ! 散々、俺のこと下心がどうのって言ってたくせに! テメェーの方がエロエロなんだよ!」


「お前に言われたくないよ~! 腹の中では、あ~んなことや、こ~んなこととか想像してるくせに! 俺よりも、もっとすっごいこと想像してるくせに~!」


「もうイヤだ! ブラクリーもクリスターも、今後一切、絶~対抱きつかせないんだから!」


なんなのよこの二人、訂正、この二匹は! どんな想像してるっていうの! わたしをなんだと思ってんのよ! あんた達のオモチャじゃないっつうのよ! 勝手に想像しないでちょうだい!


二人は、まだごちゃごちゃと喧嘩、いや、じゃれ合っているのか?


はぁ~。疲れる。


「あんた達いい加減にしなさい。それよりも、わたし、元の身体に戻れるの?」


「まあ、方法はあるな」


クリスターはダルそうに答えたが、それでも一筋の希望が見えてきた。


「ホント!」


「でも、こっわ~い人から、くすねないといけねぇ」


「くすねるって。その、こっわ~い人ってのも誰よ?」


「ルキフェル様」


「えっ、ルキフェルって、あのルキフェル!!」


「そう。この魔界一お偉い、魔王サタン様だ」


頷いたのはブラクリー。


そんなのムリじゃない! 絶望的だ。たかが人間の小娘が魔界一お偉い人を、いや、堕天使? 悪魔? どっちだっていいか。怖い魔王だってことで。その、魔王を欺いてって、そういえば、なにをくすねるんだった?


「ねえ、なにを盗むつもりなの?」


「盗むんじゃねえぞ! 大体、あの御方があいつを隠すからいけないんだ」


「そうだそうだ。あの御方が全部悪~い」


「悪いとは、言ってねえだろが!」


「そうだったっけ?」


もう、また~。


答えたのはブラクリー。それに乗っかったのがクリスター。


こんなことでも喧嘩になるなんて、ホント、とことん気が合わないのね。まあいいわ。


「それで、あいつって?」


「スターセント。俺たちは三体で一対なんだ」


答えたのはクリスター。


「それもピアスなの?」


今度の問いにはブラクリー。


「いや、あいつはブレスだ」


二人は交互に話し始める。クリスターが嘆くように言い出したのが始まりだ。


「あいつだけ石大っきいんだぞ~。俺らはあいつの端っこ削られてできたちっぽけなもんだ。ホント、嫌になるね~」


「しかし、純度でいえば、俺らの方が上だ。一番純度のいい場所を取り除いた残りが、あいつだ」


「そういう考え方もあるのね~。お前、基本ポジティブスィンキングだから。楽だね~」


「なんだよそれ! テメェーだってひねくれて、ホントは俺が一番上だ~とか思ってるくせに、そうやって気怠いの演じてんだよね! そういうの、ホント、面倒くさいから!」


「面倒くさいとはなんですか! 面倒くさいとは! あんたが面倒くさかったら、俺なんて、もっと面倒くさいからね!」


プチッと、頭の線が切れた音がした気がした。


「いい加減にしなさい!! あんたらね、毎回毎回、口を開けば喧嘩ばっかり! いい加減、頭使いなさいよ! バカの一つ覚えみたいにくっだらないことばっかりほざきやがって! 今は、これからどうするかを考えてんでしょ! 話し戻しなさいよ!!」


剣幕に目を丸くした黒と白。


「すみません」

「申し訳有りません」


シュンとなって謝った。


もう! こいつら基本、時間を舐めてる! わたしは、一刻も早くこの恐ろしい世界から脱出したいのに!


そう言えば、元々こいつらはこっちの住人というか住獣? なんだよね。


だからだろうか? 結局、あっちに帰りたいのはわたしだけ?


「俺らが時間に左右されないのは、長く生きすぎてるからだ」


「ひゃぁ! あんたまた、勝手に心、読まないでよ! 手、退けなさい!」


「ちぇ~。まあ、心配するな。俺らだって帰りたいよ~、本体は向こうにあるんだから。なぁ」


確認を取るように、クリスターは、ブラクリーに同意を求めた。


「そうだ。なんの心配もない。スターセントを見つけてあっちに帰る」


「クリスター、ブラクリー」


全く。こんな時だけ意見合わせないでよ。最も欲しい言葉を聞いて泣きそうになった。


ちょっと、うるっときたのを堪えながら笑うと、二人は、微笑みながらわたしの頭を撫でてくれた。

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