第16話
案の定、空気が凍った。「あ、そうなんだー……」と気まずそうな女性に申し訳なさが募る。
「直江さん、ごめんね?すごく美人だったから迷ったんだけど……」
「あ、いえ!髪も短いですし……よく間違われるので全然気にしないでください」
眉尻を下げて謝る女性にぶんぶんと首を振ると、「じゃあ私たちは仕事戻るね」と他の女性を連れて去っていく。
やっぱり気まずかったんだろう。私が同じ立場でもそうする。
取り残された響に近づき、「言わなくても良かったのに」と顔を顰めれば、「だって涼は女じゃん」なんて、しれっとした顔で言う。
間違いを正したいというただの正義感かもしれない。そんな大それた理由はなく、なんとなく、気分でしたことかもしれない。
でも……
「どっからどう見ても女なのに。なんでみんな間違えんの?」
「……」
顎に手を当てて。心底不思議そうに首を傾げる響にグッと喉元が熱くなる。
困るのに、相手に気まずい思いをさせてしまったのに……。
嬉しい、なんて……変なの。
恋愛対象って意味でなくても、響の目に女と認識されているだけでかなり救われる。
「そんなこと思うの、響だけだよ」なんて強がってそっぽを向いたが……実は口元がだらしなく緩まないように必死だ。
「なぁ、昼飯12時に取れる?」
「取れるけど、今日は職場の人たちと約束してる」
「ええー……、んだよ。じゃあ俺ひとりじゃん」
拗ねる響に「さっきの人たちと食べるんじゃないの?」と尋ねると、返ってきたのは「無理」という2文字。
「纏わりつかれてマジで鳥肌」
「でもいつもみたいに拒否してなかったね」
「俺も一応、時と場を考えるんだよ。インターン生が社員にブチギレるとかやばいだろ」
「ふーん?」
綺麗な顔を嫌そうに歪めて、ワナワナと指先を震わせる響。自由奔放、身勝手大魔神な響くんにも一応常識というものが備わっていたらしい。感心。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます