第11話

「首死んだ。普通、頭投げるか?」


「だ、だって響が臭い嗅いだりするから!」


「好きな匂いだって言ってるじゃん」


「はぁ?いくら好きな匂いって言われても汗の匂い嗅がれるの嫌でしょ」



ましてや好きな人に……。


ムムム、と顔を顰めて睨み返すと、響は「そう?」と首を傾げ、「俺は別に。……嗅ぐ?」とか言いながら胸元のシャツをパタパタするからやっぱり鬼だ。



「あーもう、俺眠いんだって。大人しく枕して」


「や、……ちょっ、」



私が駄々を捏ねているように仕立ててうんざりした顔をする響は、腕をグイッと引いて今度は私ごとベッドに寝転んだ。



「膝枕嫌なら、抱き枕して」


「……な、」



息がかかるほどの距離に死にそうになる。本当は突き飛ばして罵ってやりたいけど、過剰な行為は好意をバラすし、それに今は心臓の音を鎮める方が先。



(南無阿弥陀、南無阿弥陀、南無阿弥陀、南〜)



爺ちゃんの家で読んだことのあるお経を唱えて無を目指すが、わざわざ私の顔を覗き込んでくる響に息も思考も止まってしまった。



「……」


「……ちょっと、近い」



こういう時、焦ると逆に真顔になってしまう癖が役に立つ。


彼の頬を指先で押して遠ざけ、せめてもの抵抗で体を反転させた。


ようやく息ができる、と音を潜めた深呼吸を繰り返していれば、後ろから回った腕がキュッと締まる。

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