第10話

頭を浮かせてボンボンとベッドを叩く響。


またこいつ、なんか言ってるよ……と顔を引き攣らせながら言われたとおり彼に近づいていくと……。



「遅い」


「わっ、ちょ……」


「枕、ないと寝れない」


「……〜っ」



私をソファーに座らせて、勝手に太ももの上に頭を乗せてくる。こっちの気も知らず、鬼の所業だ。


そもそも、枕ならすぐそこにある。大学進学時に親がプレゼントしてくれた低反発のいいやつだ。



「寝るなら、こっちに寝なよ。枕、ほら!」


「無理、いつも言ってるじゃん。俺自分の枕じゃないと寝れないって」



毎度毎度の超理論。なぜかよく私の膝に寝たがる響のお決まりのセリフに対して、私もお決まりのセリフで返した。



「だから、私もいつも言ってるじゃん。私の膝はあんたの枕じゃないって」



モゾモゾと太ももの上でポジションを探る響は悪びれもせず、「俺のだし」と子どものように言ってくるから本当に参る。



「お前、俺のこと守ってくれるんだろ?じゃあ、俺の睡眠守れよな」


「い、意味わかんない。私の太ももより絶対普通の枕の方が寝やすいでしょ」


「言ったじゃん。お前の匂い落ち着くって」



そう言いながらスンッと鼻を啜った響に驚き、慌てて彼の頭の下から体を退けた。だって、直で肌が触れ合っている状態で嗅がれるなんて、絶対汗臭いに決まってるし……!


私が避けた反動でバウン、とベッドの上に投げ出された響の頭。相当油断していたらしく、首の座っていない赤子並みに頭が揺れた。



「ご、ごめん……!」


「……」



脳しんとうでも起こしたらどうしよう、とすぐに近寄って顔を覗き込むと、恨みがましくジトリと睨まれた。

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