第8話
……正直、不服ではある。
見た目は確かに中性的かもしれないけど、心は女性だし、似合うならば女の子らしい格好をしてみたい。
でも似合わないし、そんな格好をしていたらきっと今頃響の隣には居られなかった。
「これ食ったら、涼の家でゲームしよ」
「課題は?」
「嫌なこと言うなよ。課題も一緒やろ?」
「一緒って。いつも私の写すだけのくせに」
普通は異性の家に行くとなれば、特別な感情が生まれるはずだ。でも私たちには、……いや、響は私に対してそういうのはなくて。
大学の後にご飯に行くのも、何の遠慮もなくお互いの家で過ごすのも。響が私を女に見ていないからこそ。
私は他の女の子よりも早く響に出会えただけ。他の女の子よりも女の子らしい容姿に産まれなかっただけ。
そんな偶然によって手に入れた“響の親友”というポジションを誰にも渡したくないし、絶対に失いたくない。
そのためには、いつまでも彼に対して欲情しない、“鉄壁のナイト”でいないと……。
「あ、涼。口の横、ソースついてる」
「……っ、」
突如伸びてきた手が私の唇を掠めた。
ビクッと体を揺らした瞬間、彼の指先は遠のいて。私の唇に乗っていたソースはチュッと彼の口の中に吸い取られる。
「ん、うま」
「ちょっ、言ってくれれば自分で取るし……」
「何照れてんの?なぁ、ソース美味かった。それ一口ちょうだい?」
「もう、……あげないよ」
ハンバーガーを遠ざけるふりをしてそっぽを向いた。
不意打ちはずるい。必死に形成している理性がゆらりとバランスを崩してしまう。
(冷静になれ。ダメだ。響にとって私はそういうんじゃない)
必死に自分に言い聞かせて、響に変に思われないように心を整えた。
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