第6話



「ねぇ、声かけてきてよ」


「無理、目が合ったら妊娠する自信ある……」



【立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花】というのは美しい女性の容姿や立ち居振る舞いを花にたとえて形容する言葉だが、これを文字って真壁響に当てられた造作ことわざはこれだ。



【立てば媚薬、座っても媚薬、歩く姿もやっぱり媚薬】



「……フェロモン王子、やばすぎ」


「私、あんまり見過ぎると鼻血出るんだよね」



斜め後ろのテーブルから聞こえてくるの女子の会話に何を馬鹿なことを、と心の中でツッコミを入れたが、すかさず「わかる……!」と返された同調の声がおかしくて、思わず齧ったバンズを吹き出しそうになった。


対して耳栓でもしているように無反応な響に視線を向ければ、「あんだよ」と大口でハンバーガーを食いながらこちらを見下ろしてくる。



「響を見てるだけで鼻血出るんだって」


「汚ね」


「私がそういう体質だったら今頃確実に失血死してたね」


「……。涼、そっちのメロンも飲みたい」


「はいはい」



会話の流れも読まずにこちらに向けられた手にメロンソーダを渡すと響は躊躇なくストローを咥える。


きっとこれが私のものじゃなければ、絶対に口をつけないのだろうと思えば、悲しくて胸が苦しくなった。

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