第4話

ダメ、ダメ、駄目だ。……私には効かない、効いたらいけないんだから。



グッと唾を飲み込んで。強靭な精神力をフル活用して「駄目」と再度断ると、チェッとつまらなそうにする響。


ようやく彼を諦めさせることに成功した私は、「偉い、凄いぞ、私……!」と心の中で盛大に自分を褒めてあげる。


これで部活に行ける。真面目に練習をして、いいタイムを出して、それから……。


半ば無理やり部活モードに頭を切り替えようとしたのだが、私に背を向けて帰ろうとした響に触れた細い指先を見て……思考が止まった。



「あの、響くん」


「……、」


「ハンバーガー、私、一緒に行っていいかな?」



響に話しかけたのは、周囲に集っていた女の子の一人。ふわっとウェーブした柔らかそうな髪と、丸い目が印象的な可愛らしい子だ。


普通の男なら、この子からのお誘いはありがたいものでしかなかっただろうが……残念ながら奴は普通ではない。



「……離せ」


「え?」


「離せっ、触んな!」


「きゃっ……!」



彼女の手を思い切り振り払った響。反動で突き飛ばされた女の子を、私は背後から抱き止めた。



「大丈夫?怪我はない?」


「……ひ、ひどい!突き飛ばすなんて!」



憤慨する彼女の前方に回り込み、腰を屈めて目を合わせると、いきりたっていた彼女の瞳が驚いたように丸く開かれた。



「響、女の子が苦手なんだ。急に触られてびっくりしたんだと思う」


「……」


「ごめんね?代わりに謝るから許してやって?」


「は、はい……」


「ありがとう。優しい人でよかった」


「……」



ニコッと笑えば、女の子の頬が赤らんだ。気づいていたけれど、気づかないふりをして、響の元へ駆け出した。

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