第3話

自分から仕掛けたくせに「ふーん」と興味なさげな響は「じゃ、行くか」と当たり前のように私の手を引き始めたから驚いた。



「いや、私今日部活だよ?昨日言ったでしょ」


「は?そうだっけ?」


「もしかして、私のこと待ってた?」


「うん」



いつもの待ち合わせ場所である中庭にいたのでもしかして、とは思っていたが……私が来なかったらずっとここで寝ているつもりだったのだろうか。


この人だかりの中でもすやすや眠れちゃうような男だ。血気盛んな女子たちにあれこれ悪戯されたって気がつかないのではないかと想像すれば、ゾッと背筋が寒くなる。



(……やっぱり、私がちゃんと守ってあげなくては)



5歳で彼に出会ってから15年。数えきれないほどに繰り返して来た決意を今日も重ねる。


いつのまにか身長を大きく抜かれた彼を見上げながら「響、寄り道しないで帰るんだよ?」と、過保護に発言すれば、



「え、なんで。涼は?」



と、当たり前のように首を傾げられた。



「だから、私は部活だって」



これを伝えるのは2度目だ。つまりは一緒に帰れないと告げている。


それなのに言外を読み解く力が皆無なのか、「いや、なんで。帰るっしょ?」と響は尚も首を傾げるから辟易した。



「ダメ。夏休みはインターンで顔出せなくなるし、先月も響のせいで部活一回休んでるし……」



NO、NO、NO、絶対NO!……と、私の理性を大集結させて断ろうと試みる。——しかし。



「無理。俺、今日は涼とハンバーガー食って帰るって決めてるし」


「……」


「な、行こうよ」



袖をクイッと引っ張るこいつは天使な顔した鬼だと思う。


“頼めば意見が通る”などと、世の中を舐め腐っている彼に私だけは世間の厳しさを教えなければならない。……ならない、のに。



「なんでダメなんだよ」


「……っ、」


「涼にとって部活って俺より大事なの?」



この顔に、声に。絆されそうになってしまう。

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