01.君だけのナイト
第2話
「ねぇ、中庭で王子が寝てるって!」
「うそ!早く見に行かなきゃ……!」
すれ違った女の子たちがパタパタと駆けていく音を聞いて、またか、と項垂れた。
普通にしているだけで人を惹きつけてしまうことを自覚しているはずなのに、どうしてそんなに危機意識が薄いのか。
疑問に対する答えは幾度となく聞いてきた。聞きすぎて聞くのはもうやめたし、彼の危機意識向上を促すことも時間の無駄なので既に諦めている。
本当はこのまま陸上部の練習に行きたかったのだが……、放っておくわけにもいかないので潔く踵を返して中庭に向かった。
「美しい〜…!」
「触ってもいいかな?」
「起こすふりしてキスとかしてみる?」
「え〜、変態じゃん〜!あ、ねぇ、ポケットにハンカチ入ってる。貰ってもいいかな?」
(……相変わらず“惹き寄せてる”なぁ)
探さなくても目に入る人だかり。彼は間違いなくあの中心にいる。
あんなに騒がしいなかでよく眠っていられるな……と、妙に感心しつつ、「ちょっとごめん、通して?」と円の外側にいる女の子の肩に手を置いた。
こちらを見上げて目を開いた彼女は身を横にして道を開ける。次の子も、その次の子も……何人いるんだ、と呆れながら、ようやく円の中心にたどり着いた。
「……スゥ、」
「……」
毛穴の見えない白い肌に日の光を反射させながら気持ちよさそうに眠る彼。
頬に影を作る長いまつ毛も、中途半端に開かれた赤い唇も……息を呑むほど美しい。
「……響、起きて」
「ん、……ぅ、涼?」
肩を揺らせば、やや色素の薄い、ビー玉のような瞳がこちらを向いた。
ヒュッと心臓に風が吹き込んだのに気がついたけれど、いつもどおり何食わぬ顔でやり過ごす。
「響、どこでも寝るのやめてっていつも言ってるでしょ」
「あ?だって眠ぃんだもん」
「毎度起こしに来ないといけないこっちの身にもなって」
「頼んでねぇし。お前が来たくて来てんだろ?」
「……」
ニマリと得意げに笑う彼。何も返せず黙るしかない私を見て満足そうにさらに笑みを深めた。
「本当、俺のこと好きだな。お前」
ベンチの横に置いていたバックパックを持ち上げながら言われ、すぐに「手のかかる幼馴染なだけ」と返した。
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