短い恋愛小説

十冬雨

秋夜

「なあに?寂しくなっちゃった?」



寒暖差からの情緒不安定か、涼しくなってきたからその影響か。

僕からは背中を向けソファに座ってテレビ画面をみてるけど背中から構ってって言ってるみたい。


指摘すると困ったような笑顔を向けてまたテレビに向かうけどと見てないのはさすがにわかる。

好きな子だからわかることって結局どれだけ注視してたかってことでしょ。

あとは勘。



「違ってた?」



本当はまだ様子見をして“まだ終わらないの?”って僕のところまで来てくれるのもいいんだけど、それはちょっと僕も寂しいのかも。

秋だからかな。



「仕方ないなぁ、おいで」



なにも仕方なくなんてないけど。

資格をとるために目を通しておこうとしてた本をキッチンカウンターにおいて腕をひろげる。


とてて、とでも音がつきそうな足音。

椅子に座る僕の膝の上に乗っかってきて僕より細い腕が首にまわされた。



「よしよし、いーこいーこ」



柔らかな髪を撫でて背中をさする。

子どもをあやしてるんじゃないんだよ、と少しむくれた声が可愛い。

視線を合わせて顔を近づけると伏し目がちになるその表情が好きでじぃ、と見つめたまま唇を重ねる。

はじめは軽く触れるだけ。

酸素をとりこむようにしたら唇の隙間から僕の舌を滑り込ませる。

逃げるのを捕まえるようになぞってかたちを覚えるように絡める。

きっともう覚えてはいるんだろうけど。



ふわりと香る同じシャンプーの匂い。

同じなのにずっともっと花のかおりのような、甘いかおりのようなものが感じられる。

惚れた弱みってすごいな、五感に干渉してくるんだから。



「もうベッドにはいる?」



返事を待たないで抱えるように立ち上がる。

お姫様抱っことかでもいいのかもしれないけど、普通に抱っこした方が密着できるからこのままにしよう。



「あ、テレビ消さないと。何の映画みてたの?」



静かだから日常を過ごすようなストーリーのものかと思ってたらそういうのでもなさそう。

……家で映画ってあまり見ないけどもしかしてふたりで観るのなら楽しいかも。

あ、でも違うか。

僕はふたりでいられるなら何でもいいんだ、きっと。


リモコンで画面をオフにして寝室へ向かう。



「あいしてる、」



一緒のお布団にもぐって小さい子にはしないようなことをしようか?


だって秋の夜は長いから。

体温をわけあって夜を過ごそう。

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