八話 ゴブリン
目が覚める。ランタンと同じ暖色系の目に優しい光をイメージして魔法を使う。できた。もうランタンはいらないな。
喉が渇いていたので水を飲んだ。丁度リアナが起き上がってきたので水を飲ませる。窓を開けて外を確認すると、まだ朝食には早いようだ。
「お静めになられますか?」
「いや、これは生理現象なんだ」
「存じておりますが」
あえて聞いたのかよ。どちらかといえば主人のためというより、リアナの方が希望しているから提案したようだ。昨日の事を思い出していたらまた元気になってきたので、リアナが鎧をパージし、いそいそと服を脱ぎ出した。眺めているとさらに元気になる。
「よろしくお願いします」
▪️
「お兄さん、少しやつれてますね。おかわりします? 別料金ですが」
「いや、遠慮しておく」
「ほどほどが一番ですよ」
少女は去っていった。リアナは既に食事を終えているようなので話しかける。
「その、リアナはあまり良くはなかったのだろうか。まだまだ余裕そうだったが」
「いえ、こんな感覚が自分の中にあったのかと驚くほどのものでした。何度も意識を失いそうになりましたし。でもご主人様に余裕があれば、今からでも可愛がっていただきたいです」
嘘ではないようだが、タフすぎる。前に床に叩きつけたアレをリアナと組み合わせると、下手したら死ぬかもしれない。封印しよう。
「今からは流石に無理だな。少し休んでからゴブリン狩りだ」
「わかりました」
部屋に戻りベッドに転がる。リアナも鎧をパージしてベッドに乗ってきた。ん、鎧をパージ?
「まてまて、しないと言っただろう」
「はい、でも鎧が当たりますので」
リアナが顔を近づけてくる。キスをされた。何度かそれを繰り返し、満足したのか、こちらの腕を取って横になった。どうなることかと思ったが、これならいいか。足りない分がスキンシップで埋められるかもしれないなら、これからはできるだけ相手をするか。
▪️
リアナが振るうメイスが次々と緑色の小鬼を粉砕する。初戦とは思えない強さだ。本人のやる気もそうだが、装備の力も大きいな。一匹目を倒す時は少し戸惑っていたが、その後は慣れたのか軽快にゴブリンを屠っていった。
「これで三十三匹か、本当に数が多いんだな」
今は街の北にある農地の近くの森の中にいる。数組のゴブリンのグループを見つけ、全てを始末し終えた。少し心配もあったが、これならリザードマンでも余裕かもしれない。
「感触はどうだった?」
「最初は戸惑いましたが、感覚を掴んだ後は身体が勝手に動きました。さほど疲れもないので、後百体でも相手は可能かと」
「過信はしないようにな。昨日話したが自分も油断して少し危ない目にあった。一応油断せずにいこう」
「はい」
索敵を広範囲に広げ、ゴブリンを探す。一応他にゴブリンよりも大きな魔物がいないかも注意する。遠くにゴブリンが固まっているのが分かった。そちらに向かう。
木々を抜け視界が開けると、杖を持ったゴブリン、剣を持ったゴブリン、後は棍棒や石製の斧を持ったゴブリンが三体いた。
果物を齧っていたゴブリン達はこちらに気がつくと警戒態勢に入った。おもむろに杖を持ったゴブリンがいきなりこちらに向かって杖を振るう。すると何か光の粉のようなものが飛んできて身体にまとわりつく。慌てて身体を動かすと、身体の動きが若干スローに感じる。何かされたようだ。念の為転移で距離を取る。
リアナは何事もなくメイスを振り上げて走って行った。杖を持ったゴブリンは慌ててリアナに火の玉を飛ばす。魔法で防ぐか転移で助けに行こうかと考えた瞬間、リアナは軽々と横に飛んで回避した。警戒したのかメイスを構えてその場で様子を伺っている。
こちらもそのままでは不味いので解呪を使い身体を調べてみる。すると減速の魔法がかかっていたので解除する。杖を持ったゴブリンは驚いた様子だったが、リアナにもかけたが効かなかったのかもしれない。
一応俺は魔法耐性付きのアクセサリーをつけてはいるが、等級はコモンだった。おそらくレジェンダリーのリアナの鎧の方が耐性は上なのだろう。
杖を持ったゴブリンが再度こちらに向かって杖を振るおうとするので、背後に転移してこちらの杖を叩きつける。魔力を込めた杖は魔石を残してゴブリンを消し飛ばした。後は作業だった。剣を持ったゴブリンは他より動きが良かったが、リアナが今までと同じく粉砕した。残りはこちらが魔槍で同時に始末した。三本でも当たるものだな。
「何か変わった事は無かったか? 身体の動きがいつもより遅くなったとか」
「いえ、特に問題はありませんでした」
「そうか。どうやらあのゴブリンは相手の動きを遅くする魔法が使えるらしい。俺はかけられたので解呪した」
「そのようなものがあるのですね。杖を持ったゴブリンには注意した方がいいですね。火の玉も使いましたし」
「そうだな。火の玉を避けた時の動きは良かったぞ。その後警戒していたのも良かった」
「ありがとうございます」
ゴブリン討伐の常設依頼の紙に魔法を使うゴブリンの事が書いてあったかどうかはうろ覚えだ。少し不安だな。
「一旦戻ろう」
素材を収納し、ギルドに飛ぶ。素材を提出した後、受付に向かい明細を渡す。ついでに話を聞く。
「ゴブリンマジシャンですね。常設依頼の方にも魔法を扱うシルバークラスの個体もいるので注意と書いてますね。減速や火炎魔法を使う事も書いてあったと思います」
手続きを終え、常設依頼ブースに向かい確認すると、確かに言われた通りに書かれていた。読み飛ばしていたようだ。ゴブリンといえば緑色の小鬼で雑魚の代名詞、というありがちな認識だったので油断していたようだ。
一応オークみたいなデカいゴブリンや、さらにデカくて何処で用意したのかわからないサイズに合わせた武具を使うゴブリンキングなんかが出てくるファンタジー作品も知っていたので、サイズの大きな個体がいたら全力で魔法を撃ち込み、効かなければ即逃げるつもりだった。
「今後はちゃんと戦う魔物の情報をしっかり確認しよう。ダブルチェックだ」
「承知しました」
2人でもう一度確認したが、それ以上の事は書いていなかった。ボブゴブリンやゴブリンキングはいないのかな?
近くにいた職員に聞いてみると、ゴブリンマジシャンだけが現在確認されているゴブリンの上位種であり、他には特にいないようだ。一応稀に賢いゴブリンが罠を仕掛けたり、弓を使い矢に毒を塗って飛ばしてきたりするらしいので、そこは注意するようにと言われた。勉強になった。
その後屋台で昼食を済ませてから再度ゴブリン討伐に向かう。警戒しながら森の奥に進み、サーチアンドデストロイを続けて行った。
何度かゴブリンマジシャンに遭遇したが、杖を持ったゴブリンを視認すると同時に封印の魔法を発動し、魔法を封じる。後から杖を持たないゴブリンマジシャンもいるのかな、と思ったのだが、全て杖を持っていた。魔法を封じればただのゴブリンなので、大した事はなかった。
弓矢を使うゴブリンもいた。一応警戒していたがそれも大した事は無かった。罠もあったりしたが、警戒していたので一応気づくことができた。落とし穴や、草を編んで作られた転ばせ罠など。どちらも何かが塗られた尖った木の枝が付随していた。危険度で言えばこちらが一番かもしれない。
さらに五十体以上は始末したので、ひと段落という事にして街へ戻った。またゴブリンの死体を買い取ってもらう時に、ゴブリンは魔石と睾丸ぐらいしか売れないから、全部持ってきても解体費用と残りの部位の処分費用が差し引かれて金にならんぞ、と言われた。
解体が面倒なのだ。解体用のナイフを買ったが使ってない。倒す際に多少のグロさがあるのは我慢できるが、解体となるとな。リアナは意外と淡々と処理を行いそうではあるが、流石に解体の詳しいやり方は知らないだろう。初心者講習とかあるのかな?聞いてないな。保留とした。
ギルドでの諸作業を済ませると時間は既に夕方。だが宿に帰る前に雑貨屋に寄る。紙とペンとインク、ハサミを買い宿に戻る。
食事を終え、部屋に戻ると、リアナはおもむろに鎧をパージし、服に手をかける。
「ちょっと待て、鎧はいいが服は脱ぐな」
「はい」
「後で相手をしてもらうが先にやる事がある」
不安そうな様子だったので一応告げておく。リアナにも手伝ってもらい作業する。ペンとインクが使いづらかったのでリアナに使わせてみると俺よりも器用に使った。俺はこちらの筆記用具には慣れていないので仕方ない。紙の切り分け作業に専念する。
少し失敗して材料を無駄にしたが、不格好ながら目的のものはできた。複雑な図形などは使わずにできるだけ省力化したが完成だ。
「これはどういった用途にお使いになるのですか?」
「簡単な玩具だよ」
ルールを説明していくつかのゲームで遊ぶ。2人だけではあまり面白くないものもあったが、一応やってみた。
「三人以上でやるともっと面白いんだ。それに他にも遊べるゲームがいくつもある」
「凄いですね。商館では聞いたことがありませんでした」
「もしかしたらこの国には無い可能性もあるしな」
この国どころかこの世界にはない可能性もある。まあギャンブルがあるって話だし、ポーカーとかブラックジャックみたいなものがあってもおかしくはないが。
「小遣い稼ぎに使えないか考えてるんだ」
特許制度があれば利用し、何処かの商会に知る限りの遊び方を説明して売り込む。制作、流通、販売を行ってもらい、いくらかをマージンとして貰う。そんな形に持っていければ最高だ。まあそううまくいくとは思えないが、もしもの時のために冒険者をする以外の収入源を得ておきたい。
その後、少しトランプで遊んだ後、リアナと夜の運動会を繰り広げた。
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