七話 リアナ


 少し休憩したので、買い物に向かう。目立ちそうなので顔をもう少し隠せないか試してみたら、鎧の頭部が変形して目から下を隠した。口元には呼吸がしやすいようにスリットが入っている。おお。食事の時はかまわないが、なるべく顔を隠すように言っておく。


 ミスリル特有の薄緑色の光も抑えられないか試してみたらそれも可能だった。これが無理だったら、殺してでもうばいとる、という輩がたくさん湧いてきそうだったので安心した。その事に思い至った時は冷や汗をかいた。鑑定の事にも思い至ったので鎧に鑑定妨害もかけておく。これは常に切らさないようにしよう。


 服屋に行ってから雑貨屋に寄る。リアナが黒い丸薬のようなものが入った瓶を手にとっていたので聞いてみる。


「それ、なんなの?」


「ご奉仕の際に必要な薬です」


「そ、そう」


 必要、うん、必要なものを買い終えたので冒険者ギルドに向かい、リアナの登録をしてもらう。登録の際は鎧に鑑定阻害をかけていたので問題があるかと思ったが、特になかった。鑑定阻害をかけているのは鎧のみで、リアナ自体にはかけていないからだろうか。


 リアナのランクはブロンズからとなった。今回は特に審査などはないらしく、すぐにギルド証を渡された。ブロンズは主に受けられるのは常設依頼とのことだった。


 常設依頼は壁に貼り出されているので、覗いてみる。ブロンズランク相当のブースには、ゴブリン、レッサーウルフ、ホーンラビット等の討伐依頼。薬草、鉱石類などの採取依頼などがあった。


 ゴブリンは主に街の北の農地に近寄ってくるらしい。レッサーウルフは街の南や東。ホーンラビットは特に湧く地点の記載は無かったが、血抜きして丸々一匹持ってくるようにと書かれていた。


 常設依頼は特に受付で依頼を受ける必要はなく、素材を査定して貰った時に自動的に達成扱いになるそうだ。なぜわざわざ貼り出しているのかというと、常に需要があるので、情報や注意事項を周知させるという意味合いが強いらしい。討伐部位を持ってこないと一匹とカウントできない場合もあるからな。


 シルバー相当の依頼も覗いてみたが、リザードマンの討伐依頼は無かった。それほど街に近くもない湿地帯から出てこないから、脅威度は低く需要も無いのだろう。シルバー成り立てに経験を積ませる意味合いの依頼なのかな。


 キマイラも大量に湧くようになったら貼り出されるんだろうか。今はゴールドランクで適性がある者たちに調査や討伐の依頼が出されている段階らしい。


 一人だったらフラフラと西に向かって探しに行ったかもしれないが、リアナもいる事だし今はやめておこう。もしかしたら自分の方が油断したら危ないかもしれないが。リアナの鎧だと大抵の魔物に袋叩きにされてもなんとかなりそうだからな。


 毒は状態異常耐性がついていたからいいとして、火炎が少し問題かな。自分が魔法で防いであげるか、鎧の性能でゴリ押しとなるか。


 自分は状態異常耐性のついたアクセサリーを付けているだけなので、毒が少し危ないかもしれない。解毒の魔法があるが、苦しみのあまり即時魔法が使えなくなるレベルの毒なら絶対はない。


 火炎耐性を高める魔法とかがあればリアナにかけて前衛を担ってもらい、自分は攻撃に集中できるかな。今度魔術師ギルドにでも話を聞きに行こう。


 ひとまず北でゴブリンを狩ることにした。もう夕方なので明日からだが。


 宿に戻って食事をする。食事を終えると従業員の女の子に話しかけられた。少し水を冷やせるようになったそうだ。ついでになんでここにはミードしか置いてないのか聞いてみると、ミード以外を置くとガラの悪いのも増えるかららしい。


 宿の経営者が北にある養蜂場の経営者と親戚で、安く買えるからというのも大きいらしいが。養蜂場の経営者は果樹園も経営していて、果物も安く融通して貰っているらしく、タルトに使っているそうだ。


 明日は北でゴブリン狩りをすると言うと、頑張ってくださいね、と応援された。後はあまり激しくすると追い出されるかもしれないから、するならほどほどにしてくださいとの事だった。何をするんだろう?ナニかな?


 部屋に戻ると、おもむろにリアナが鎧を外し、服を脱ぎ始めた。さっそくか。思い切りがいいな。薬を買っていた時点でそうなのだろうとは思っていたが。コップと薬も取り出して準備万端だ。テキパキとコップに水を注ぎ、ゴクリと薬を飲み込む。


「いきなりで大丈夫なのか?」


「教育係の女性にご指導いただいてますので問題ありません」


「そ、そうか」


 せっかくなのでランタンではなく、光の玉を浮かべて明るくしよう。できた。眩い光に照らし出されたリアナの裸体は凄まじく魅力的だった。本や動画なんかで見るそれとは次元が違う。


「よろしくお願いします」


▪️


 商館のゴードンが言っていた通り、リアナは生娘だった。シーツにはその証が残っていた。初めてにしては積極的に奉仕してきたので搾り取られてしまったが。


 痛いかと思って治癒を使って少し休ませて二回戦に入ったが、特定の部位が再生されているという事もなかった。聞いてみると、指や腕や足などの部位の欠損と同じ扱いらしく、治療には大金が飛んでいくとの事らしい。


 それなら擬装した生娘という可能性も低いかもしれない。ふと鑑定は生物も対象であった事を思い出し使ってみると、長々とした説明文のなかに、リアナの経験人数は一人との記載があった。単なる思いつきだったがそんな事まで分かるのか。女性にはあまり使わないようにしよう。


 それに基本的に奴隷は所有者に対しては嘘を吐けないようだ。試しにいくつか質問をし、たまに適当な嘘をついてもらったら感覚的に分かった。それに隷属魔法のスクロールが国や魔術師ギルドの認可のもと商人ギルドで厳重に管理されている都合上、奴隷商も定期的に監査されているので、よほどのことがない限り客を騙すという事もないらしい。


 昔なにかやらかして信用を失った商会が潰されて、かなりの人間が処刑されたらしい。だから奴隷商側も神経を使っているとか。あのクソ高い入館料も不用意に外部の人間をいれない対策の一環なのかも。あっちも大変だな。自分ならストレスで奴隷商なんてやれそうにない。貴族とかも相手にしそうだしな。


 ピロートークついでに、なんで奴隷になったのかを聞いてみたら、生まれた時からそうだったらしい。親の顔も知らないとか。


 次は魔物と戦う事について忌避感はないか聞いてみたが、レベルが上がった方が長く愛用して貰えるし、価値が高まって捨てられないので、むしろ積極的に戦いたいそうだ。装備の質が異常な事や、主人の魔法の能力が高い事も理由の一つらしい。そういうものか。


 一応自分が死なない限りは死ぬまで面倒を見るつもりだと伝えたら、少し安堵した様子だった。初物喰いにしか興味のないものや、飽きたら捨てる、ひどいと処分する者もいるらしい。奴隷に人権はないのか。自分もなかなかに酷いと思っていたが、それを聞くとどうかと思う。


 まあ主人との仲が深まって、奴隷から解放されて嫁になって幸せに暮らす、という例もそれなりにあるようだが。一番すごい話では、食い扶持減らしで売られた村娘がとある国の皇太子に気に入られ、妃になったというものがあった。まさにシンデレラストーリーだな。


 しばらく話をしていると、もう一戦しないかと提案されたので、再び特殊なレスリングを始めた。結局、もうプラス三回戦うことになった。途中、さすがに元気がなくなった部位を強引に元気にさせられたりもした。奴隷としてそれはどうなんだろう。結構な欲求不満状態だったんだろうか。リアナも何度もヘブン状態になっていた様子だが足りなかったんだろうか。


 流石に限界なので終了を告げ、浄化をかけてからベッドに転がる。リアナは少々名残惜しそうにしていたが、いそいそと服を着て鎧を装着した。タフだな。それにその鎧本当に気に入ったのね。


 喉の渇きを覚えたので起き上がって水を飲み、下着だけつけてから横になった。天井に設置した光の玉は消しておく。少しうるさくしたから宿を追い出されないといいが、と思いながら目を閉じた。

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