六話 奴隷


 しばらく酒を飲みながらいろんな話をし、別れた。真昼間から飲む酒は美味かったな。味よりもこう、精神的にそう感じる。


 暇になったので当てもなく街を歩く。何処で暇を潰そうか。ふと思い立ったのは奴隷商館。話の途中で奴隷を勧められたんだった。買わないにしても暇つぶしにはなるだろうし行くか。といっても場所がわからないが。


 比較的高級そうな品物を扱っていそうな通りが記憶にあったので向かう。丁度身なりの良い商人らしき人物が馬車から降りて入っていく建物がある。後に続いて中に入ると、職員らしき人に話しかけられる。


「ご用件は何でしょうか」


「ちょっと奴隷商館を探してまして、一番質のいい所は何処でしょう」


「それでしたらローエン商会の経営している商館でしょうね」


「簡単でいいので地図をいただけませんか?」


 銀貨を一枚渡す。


「少々お待ちを」


 しばらくして帰ってきた職員に地図を貰って外に出る。えーっと、あっちか。歩いて行くと、武装した屈強そうな男達が入り口を固めた施設があった。


「ご用件は」


「あー、奴隷を買いたいんですが、見せてもらえませんか」


「冷やかしはお断りしております。入るなら金貨一枚をお支払いください」


 見学だけでも金貨とるのかよ。なんてところだ。逆に言えば高級な奴隷しか扱っていないんだろう。仕方ない。これも経験だ。金貨一枚を払う。ついでに街の門で使われた魔道具と似たようなもので検査された。


 中に通され、応接室に案内される。しばらくして身なりの良いコワモテの男性がやってくる。


「商館長のゴードンです。奴隷をお探しだとか」

 

「ユウトです。できるだけ美人の奴隷を探してます。他には特に条件はないです」


「ご予算はいかほどで?」


「魔銀貨一枚までなら」


「ほお、それはそれは」


 目つきが鋭くなった。眼光だけで殺されそうだ。収納から袋を取り出し、魔銀貨を一枚出して見せる。腐るほどあるわけじゃないが、一番ランクの高そうな通貨だ。


「そのお若さで大したものですな。これといった技能はございませんが、見た目だけでいいと言うのであれば最高の奴隷を保有しております」


 商人は部屋を出ていく。しばらくすると一人の少女を連れてきた。輝くような金色の長い髪、白磁のような肌、美しく可愛らしさもある顔、服の上からでも分かる豊満な胸、凄い。身長は160センチくらいだろうか。凄まじい美少女だ。眼は青い。金髪碧眼ってやつか。


「この通りの類稀な美貌、そして生娘。本来ならオークションに出品するつもりでしたが、魔銀貨一枚きっかりならお譲りしましょう」


「か、買います」


 思わず購入宣言してしまった。他の奴隷を見てもいないのに。


「それはよかった。道具の用意をしますのでお待ちください。おい」


 ゴードンが護衛の一人に声をかけると、しばらくして護衛は何かの巻紙、スクロールのようなものを持ってくる。

 

「隷属の魔法は奴隷の所有者本人の意思がなければ解除されませんし、所有権を譲り渡す事もできません。私が許可を出すので、その間にこちらの隷属魔法のスクロールを使い、所有権を奪ってください」


 一応鑑定してみると、言う通り、隷属魔法を発動するもののようだ。


「奴隷は右手の甲に紋様があります。こちらのスクロールの上に奴隷が右手をのせたら、スクロールに魔力を通してください」


 少女がスクロールに右手をのせるので、スクロールに魔力を通す。スクロールが光を放ち、消え去る。同時に右手の甲の紋様から光がこちらに伸びてくる。どうやら成功したようだ。少女の所有権がこちらに移ったことが感覚的に分かった。意識するだけで少女の行動を制限したりできるようだ。


 ひとまず、所有者に危害を加えない事、所有者の不利益になる行動をしない事、所有者の言葉に従う事を設定しておいた。思考までは操れないようだがいいだろう。洗脳とか催眠とか好みじゃないしな。まあ奴隷にしてる時点でアレだが。


 魔銀貨をゴードンに渡す。ゴードンは白いハンカチのようなもので受け取って懐にしまう。


「これにてこの奴隷の所有権はあなた様に移り、取引は成立しました。ご購入ありがとうございました」


 ゴードンが慇懃に頭を下げる。


「こちらこそありがとう。では失礼する」


 少女と手を繋ぎ、宿に転移しようとする。が、発動しない。そういえば門番の人がそれなりに金があるところにはそういう措置がされていると言っていたな。見た目が良すぎるので目立つだろうし、あまり人目に晒したく無かったのだが。フードでも買わないといけないかな。スタイルは隠せないが。普通に商館の外に出て宿に転移する。


 受付にいたおばちゃんに二人部屋に移る旨を伝えたら、ウチは壁が厚いから安心しな、と言われた。料金は一日250マールになった。部屋に移るとベッドはダブルベッドだった。少女と二人きりになったので、念の為、解毒と治癒をかけておく。


 後は解呪で何か悪い魔法効果があったら消そうとしてみたが、隷属以外は特に何の魔法もかかっていなかった。ちなみに解呪と隷属の魔導書から頭に入ってきた知識としては、隷属を普通に解呪する事は不可能という事らしい。肉体に魔法がかかっているのではなく、魂にかけられたものだからという理由らしい。奴隷か術者が死亡すれば魔法は消えるらしいが。魂を扱うような別の魔法があれば両方生きてても消せるのかな?


「名前はなんて言うの?」


「リアナ、と申します」


「俺はユウト、よろしくね」


「よろしくお願いします」


 早速だが、ふと思いついた事があったので試してみよう。前に鑑定したミスリルの全身鎧を取り出す。リアナが驚愕の表情を浮かべている。


◾️精霊王のミスリルフルプレート

等級:レジェンド(伝説級)

付与:身体強化、魔法耐性、治癒促進、衝撃吸収、状態異常耐性、サイズ補正、形状変化、自動修復、自動装着


「これに魔力を通してみて」


「はい」


 リアナが鎧に触れると鎧は光を放ち、細切れに分解。そしてリアナの身体に纏わりつく。光が消えると、全身鎧を着たリアナが立っていた。顔以外は頭から爪先まで、全てミスリルの鎧に覆われている。どうやらサイズや形状も変わり、リアナの身体にフィットしているようだ。顔は見えるし金髪も靡いている、女性的な体のラインも見えるから不格好ではない。


「動けるかな、試してみて」


「はい」


 リアナが体操のようなものをしたり、歩きながら腕を動かしてみたりする。特に動けないという事もないようだ。


「大丈夫そうだね。じゃあこれは持てるかな」


 メイスを取り出し渡す。剣術強化とかネタくさい付与がついたものだ。ランクはエピック。リアナは軽々と持ち上げている。


「これも大丈夫か。身体強化が仕事してるな。じゃ、ちょっと外で振ってみよう」


 リアナと一緒に街の外に転移して、メイスの試運転をしてもらう。リアナは両手剣のようにメイスを扱う。なんというか単純に振り回すのではなく、剣術っぽい動きなのだ。刃筋が立っているというか。まあ重心が剣とは全く違うから、そこまで当てにはならないだろう。


「これからはリアナには俺と一緒に魔物と戦ってもらう事になる。鎧はミスリルだし、武器もかなりのものだ。できるだけ安全マージンをとるし、危なくなったらすぐに転移して逃げる。安心してくれ。今日はそのまま宿に帰るが」


「分かりました」


 宿の部屋に戻り、一応浄化をかけておく。


「鎧はもう脱いで休んでいいよ」


「着けていない時よりも身体が軽いので、できればこのまま着けていたいのですが。もちろんご奉仕させていただく時は脱がせていただきますが」


「そ、そうなの、じゃあ好きにしていいよ」


 ご奉仕という単語に少々動揺してしまった。ま、まぁ、奴隷だしなぁ。そういう事ももちろん期待していたんだが、もっとこう、仲良くなってからにしたい。奴隷相手に仲良くっていっても、相手は常に接待モードみたいなものだしなぁ。逆の立場なら胃が痛いわ。


「少し休んだらリアナの身の回りのものを買いに行く。服もだな」


「わかりました」


 貰い物の魔法袋を取り出し、中にあるものをザーッと全て自前の収納に入れる。空になったのでお金を小袋に入れてから、魔法袋に入れる。それをリアナに渡す。


「これはリアナにあげる。収納が付与されてるから私物は全てこれの中に入れるといい。お金も入れてあるから、足りないものがあれば自由に使っていいからね」


「わかりました、ありがとうございます」


 ベッドで横になる。リアナは壁に背をついて座ったので、ベッドを使っていいと伝えた。リアナも隣で横になった。すぐ側に美少女が寝てるのに、鎧姿なのでムードも何もない。鎧なんかつけて休めるのか、と思ったが、鎧の形状が変わっているように見える。寝やすいように変化したのかね。色々と凄い鎧だな。少し呆れる。


 しかし、本当に奴隷、買っちゃったなぁ。酔いが薄れてくると少し怖くなる。魔銀貨まで使っちゃったし。これからどうなるんだろう。うまくやれるといいが。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る