九話 トランプ 魔導書店


 奴隷商館への地図を書いてもらった施設に入ると、こちらを見るなり以前会った職員がやって来た。前のチップが効いたのかな。少し酔っていたから銀貨を渡してしまったが、紙はそれほど高くないし、あの地図の代金としては高かった。


「ご用件は何でしょう」


「商人ギルドとか商業ギルドってありますか?」


「ここがその商人ギルドですが。どのようなご用件で?」


 おっ、商人みたいな人が出入りしていた場所だから話を聞けるかもぐらいに考えていたらズバリここだった。


「色んな遊び方ができる玩具を発明しまして、特許のようなものが取れないかと」


「特許ですか。商談室に案内しますのでそこでお待ちください。担当の者を連れてきます」


 案内された部屋で待っていると、髭を生やしたダンディな男性がやってきた。


「ザックと申します。何やら新しい玩具を発明されたとか」


 簡単にルールを説明し、いくつかのゲームをやってみる。ザックさん、俺、リアナの三人でだ。他にも知る限りのゲームのルールを説明し、バカラやポーカー、ブラックジャックなどのギャンブルで有名なタイプのゲームも紹介する。


「ふむ、木札を使ったゲームはいくつかありますが、これは売れるかもしれませんな」


 一例としては、神・王・貴族・富豪・市民・奴隷・冒険者のカードから一つを選び、一斉にカードを出す。神はその他の全てのカードに勝利する。王から自由民までのカードはその下の階級のカードに勝利する。冒険者だけは神以外の他の全てのカードに勝利する。計七回勝負を行い勝利数をカウント。一番勝利した人が優勝。勝利数が同数の人がいれば、勝ち抜いた人同士で勝負して決着をつける、という感じらしい。騎士や皇帝という階級が入ったり

、魔物というカードが入ったり、呼び名が変わったり亜種も色々あるらしい。異世界風花札のようなゲームもあった。


「このトランプをワンセット用意すれば多種多様な遊び方ができるというのは良い。ルールを広めれば売れるでしょう。それと柔らかい紙よりは、やはり他と同じように薄い木の板を同じ大きさに切り分け、白の染料で染め、その後にインクで記入を行った方がいいかもしれません」


 雑貨屋に厚紙は無かったんだよな。確かにこの紙よりは薄い木の板の方がいいかもしれない。ペロンとならなくてシャッフルとかしやすいだろうし。


「確かに木の板の方が良さそうですね」


「では特許使用料などの詳細を詰めましょうか」


 しばらく話し合った結果、特許使用料は売り上げの5%となった。その後、ザックさんの補助を受けながら色々と書類を書いた。商人ギルドへの登録も特許の申請と同時に済ませた。商人ギルドは年会費や税金をいくら収めるかでランクが代わり、ランクが上がると各種の補助が受けられるようになるそうだ。特許使用料は税金を引いて商人ギルドの口座に振り込まれるらしい。


「ではこれからトランプの概要と遊び方の一覧を各街のギルドに伝達し、所属する商会に売り込んでみます」


「ありがとうございます。また新しい玩具を発明したらご相談させていただきますね」


「その時はまた私をご用命ください。ギルド内での私の評価も上がりますので」


「ははは、その時はまたよろしくお願いします」


 リバーシやチェスや将棋に囲碁、麻雀など、まだまだネタは沢山ある。魔法紙はともかく普通の紙は安いので、TRPGのルールブックを作って売り捌くという方法もあるかもしれない。まあそれで稼いでも冒険者をやめる気はないが。


 商人ギルドを出て外に出る。朝に来たのにもう午後三時くらいになっている。そういえば昼食を食べていない。近くのカフェに入り軽食と飲み物を二人分注文する。


「ご主人様は商才もおありになるのですね」


「大したことないよ」


 まあただのパクリだしな。娯楽以外で考えられるのはマヨネーズやハンバーグやカレーを作ったり、アイスクリームとかのお菓子を作ったりか。既にありそうな気もするが。


「時間ができたら、俺が死んだ時に口座を相続できるようにしておくから安心してね」


 各ギルドの口座は相続できるらしい。会員じゃない相手にもできるらしいが、会員よりは処理が少し面倒とか。冒険者ギルドは良いとして、商人ギルドが少し面倒だな。活動はしないけど登録するだけとかでも良いのかな。年会費は払えばいけるのかな。


 ふと見ると、リアナは複雑そうな表情を浮かべている。


「お気持ちは大変嬉しいのですが、ご主人様が私より先に死ぬようなことがないようにと願います。できれば末永くよろしくお願いします」


 本心からのようだ。そこまで好かれるような事をしたとも思えないが。奴隷根性が叩き込まれているからだろうか。自力で得るものじゃないからそれ程執着していないだけなのだが、それは黙っておこう。


 食事を終えたので今度は魔法通りへ向かう。場所は商人ギルドで確認しておいた。魔法通りは魔術師ギルドや魔道具店や魔法薬店、魔導書店などがある通りだ。装備に魔法を付与する店や、魔法使い用の装備を専門に扱う店もあるそうだ。


 通りに着いたので魔道書店に向かう。キマイラ対策に火炎耐性を上げる魔法が使えるようになりたかったのだが、イメージが湧かなかったのだ。なので魔導書がないか探しにきた。


 中に入ると特に本は見当たらない。受付に向かうと女性がいたので話しかける。耳が長いな、エルフか。美人だが300歳とかそんな感じのアレなのか。


「魔導書を探しにきたのですが」

 

「どのような魔法をお探しでしょうか」


「火炎耐性を上げるものですね」


「それでしたら在庫がございます。用意しますね」


 女性は奥に向かい何冊か本を抱えて持ってくると、カウンターの上に本を並べる。


「こちらが一万マール、こちらは五万マール、こちらは十万マールとなっております」


「同じ魔法なのに値段が違うんですか?」


「作者や本に使う紙やインクの質によって相場が変動するのです。それによって習得しやすさや使えるようになる魔法の質が変わりますね」


 そうなのか。てっきり全て均一のものだと思っていた。魔法書を書く作家の腕や、素材の質が関係してくるのか。


「キマイラのブレスを防ぐために使おうかと考えているのですがオススメはどれでしょう」


「確実性を求めるなら十万マールの物ですね。そちらはワイバーンクラスの魔物の使う火炎を想定していますので、万が一もないかと。その分習得難易度も高いですが。ランクが低い物でも、よりランクの高い魔物の火炎を防ぐ魔法のイメージを掴むきっかけになりますが」


「では十万マールのもので」


 白金貨を一枚取り出し渡す。


「お買い上げありがとうございます。そちらは私が執筆したものになります」


 この女性が作者なのか。本を受け取り魔力を流すと、頭にイメージが流れ込んでくる。


「ご理解いただけましたか?」


「はい、なんとかなりそうです」


 発動してみると身体の周りに光の膜が浮かび上がった。


「成功されたようですね。他にはご希望の魔導書はございますでしょうか」


 その後数冊の魔導書を買った。状態異常耐性強化、魔法耐性強化、快癒、頑強の四つである。状態異常耐性強化は毒対策専門の魔法よりは劣るが、様々な状態異常に対応しているため、汎用性が高いらしい。それと、完璧に防げなくとも受ける状態異常の効果を軽減するらしい。


 魔法耐性強化は相手の魔法全般にかかりにくくなり、受ける威力が減るらしい。そしてもし魔法にかかっても解除されるまでの時間が短くなるそうだ。


 快癒は例え致命傷を負っても動けるようになるレベルらしい。本当は部位欠損まで治せる再生の魔法が欲しかったのだが、そちらは執筆できる作家があまりいないのと、習得難易度が高いのもあり、あまり出回っていないらしい。


 頑強はシンプルに防御力が強化される。装備にも効果が及ぶとか。他にも欲しかったが一旦ここまでにしておいた。


 そろそろ帰ろうと思ったところでリアナがエルフの女性に何か話しかけている。女性は頷くと奥へ向かい何かの本を持ってきた。


「精力増強の魔導書です」

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