第7話

「とりあえず、今は男よりもいい家に出会いたい」



「あー、結局引っ越すんだ?」



「そりゃそうでしょ、家賃も高いし…、アイツと4年も過ごした部屋とか正直1日も早く出て行きたい」




元彼は元浮気相手のところに泊まると言って部屋を出て行ったものの、一時的な荷物しか持っていっていないから、いつ荷物を取りに戻ってくるか分からない。



一生顔を合わせたくない相手といつ遭遇するか分からない状況で安心して眠りつけるわけもなく…非常に寝不足だ。




「あーあ、珍しくお肌荒れちゃって〜、顔色も悪いし?」



「…ほっといて」



「せっかくの美人が台無しだわー」



「…」




美人と言われて喜ぶべきか、それとも台無しと言われて怒るべきか。




反応に困る私をクスッと笑った茜は、



「まあ、それだけのことがあったのに、次の日から淡々と仕事してること自体がすごいんだけどさ?」



今度こそ私を褒めつつ、トレイを持って立ち上がった。



スマホの時刻表示に目を向ければ12時50分。

あと10分で昼休みが終わる。



刻一刻と流れる時間の中で私だけが取り残されている気分。



新しい部屋を決めても、すぐに入居できるわけじゃない。



元彼と過ごしたあの部屋であと何日夜を過ごせばいいのか考えれば、気持ちがズンと重くなった。



恋愛なんてしないと決意しつつ、心のどこかでは「本当にそれでいいの?」と囁く自分も確かに存在して…



茜の言うとおり、私はただ意地を張っているだけなのかな…と大きくため息が漏れた。

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