第8話

午後、自席に戻るとデスクトップの枠が埋まるほどに貼り付けられた付箋でタスクを確認する。



うちは企業のホームページやポータルサイトを始め、社内システムの構築などを行う会社で、私はそこでプロジェクトマネージャーをしている。



大手企業のポータルサイト更新という今年一番の大きな契約が3ヶ月後に控えていて、その契約を我が社が獲得するため、今から2ヶ月前にふたつのプロジェクトチームが作られた。



そのうちの一つのチームで初めてチームリーダーに選ばれた私は、まずは社内コンペでうちのチームの企画を採用してもらえるよう準備作業に奮闘中で…




正直、目が回るほど忙しい。



彼氏に振られて、結婚が遠のいて…そんなことで落ち込んでいる暇さえ与えてもらえないほどには忙しいのだ。




ああ、もう…

この状態じゃ休日まで家探し出来ないのは確定。



引っ越したとして、電気ガスの手続きして…郵便局に住所変更の届出して…会社にも住居変更届出さなきゃいけないし…



モクモクと頭に浮かぶ仕事以外のタスクに奥歯を噛み締める。



本当…なんでこんな忙しい時期に振ってくるかなぁ…あの男はぁ〜!!




心の中で元カレに悪態をつきながら、一心不乱にキーボードを叩く私。



荒んだ感情は内にだけ。表面上はいつも通りに取り繕っているつもりだったのだけれど…




「…顔、こわ。」




「…っ、」




そんな低く落ち着いた…悪く言えば気だるそうなその声を聞いて、ようやく横から近づいてきていた彼の存在に気がつく。



ああ、よりによって面倒臭いやつが寄ってきた…。

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