第4話

立ち上がって棚の上に置いてあった鞄から財布を取り出して、その中に入っているお札を丸々鷲掴む。



一歩一歩、歩くのすら面倒くさい。この男と過ごした時間が…結婚を期待していた時間が心底もったいない。




「はい」と裸の万札を差し出すとキョトンと目を丸くする。



そんな彼ににっこり微笑んで。





「結婚おめでとう。あと第一子も」



「…っ、」



「可愛い赤ちゃん産んでって奥さんに伝えておいて?」




最後まで声を荒げないのは最低限の私のプライド。



こんなクソみたいなお金の使い道は初めてだ。

必死に働いて稼いだ三万円。ドブネズミにでもくれてやっている気分。




「おう。」と差し出したお札を素直に受け取ったことで私の中で彼は完全に“元カレ”となった。





28年と360日生きてきて改めて思う。




昔憧れた“恋をすれば世界が輝く”とかいうのは、真っ赤なウソなんだって。



少女漫画、恋愛ドラマは幻想で、売り物にするために夢と理想を詰め込んだファンタジー。




優しくてかっこいい、私だけを愛してくれる王子様、なんているはずがない。



別に高望みをしているわけでもなかった。

普通、平凡、それで十分なのに。



私にはそれすら許されない。



付き合った相手が悪いのか、そんな男と付き合う私が悪いのか…もはやどちらでも構わない。




あーあ、もうやめた。



結婚なんてしなくたって一人で生きていけるし。

家事もできるし、仕事も順調。友達だって割と多い。




いいです、もう。

私、秋月聖奈あきづきせいな…29歳を目前に…恋愛なんて諦めました。

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