3

弟は多分、そっちの気があったんだ……。


小さい頃、母親がフザケて着せたワンピースが気に入ったらしく、常日頃から母親の服を漁ってはよく着て俺に見せつけていた弟。確かに弟は女装がよく似合った。髪や容姿は健全な男の子なのだが、一旦母の服を着ると細い手足やワンピースから覗く艶めかしい首筋と鎖骨には目のやり場に困る程には可愛いらしかった。


俺は別にブラコンだったわけじゃないし、ロリコンやショタコンでも無い。


何処にでもいる普通の兄だった。


でも……。


いつからか、女装した弟を好きになっていた。


「ねぇ、兄ちゃん」


その日も弟は母のワンピースを着ていた。


「暇だから遊んでよ!」


パソコンとにらめっこする俺の背中に抱きついて、邪魔をする。


「コラコラ、大学のレポートしてるんだ。遊んでやれないから一人で遊べよ?」

「エェッー!!遊ぼうよー!?」


小学生の弟は遊び盛りでよく絡まれる。


「無理なものは無理だ!ほら、向こう行ってゲームでもしてろよ?」

「ちえっ。ケチンボ」


そう言うと、弟はスゴスゴと立ち去った。俺はまたパソコンに向かい手を走らせると、急に画面が暗くなる。


「は…?まさかっ!」

「イヒヒ、コンセント抜いちゃった!」

「お前なぁー!!」

「遊んでくれない罰だよ?」


イタズラ好きの弟は俺のやる気を削いで笑いながら逃げていく。俺は頭を抱えながらも仕方無く弟の遊びに付き合う事にした。


いつもこんな調子で遊んでいたんだ。


弟は俺に構ってほしくて仕方無いから。


頭にくる事もあるけど、弟の女装姿を見ると許してしまうほど俺は弟に甘くなっていた。


「ほーら捕まえた!」

「うわぁっ!!」


腕を掴んで、逃げ回っていた弟を捕まえた時、バランスを崩した弟が床に倒れそうになった。


「ッ…危ない!」


咄嗟に庇うと二人揃って転んだ。


二人の間に暫く会話は生まれなかった。


痛くて言葉が出せなかったわけじゃない。


ただ、組敷かれた体勢の弟と目を合わせたまま、沈黙だけが続いていたのだ。


「にぃ…ちゃん?」


先に沈黙を破ったのは弟だった。視線を向けると、小さな唇が少し開いて続け様に言葉を発する。


「どうしたの?」


不思議そうに訊ねてくる弟。


俺は無意識の内に顔を近づけ、その唇にキスをした。

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