第16話 店長

俺はスーパーの店長をしている。

高橋正美たかはしまさみ35歳。


店長になってもう5年。

今のスーパーは系列店舗の中で1番小さい。

初めて店長をやるのに、練習先としては1番向いていると本部の人が言っていた。


やってみると確かにそうだった。

発注管理も、人の管理も、客対応も、なんとか俺の力でもやっていけている。

自分でもやれるんだと自信がついた。


最近は、従業員ひとりひとりのことも観察して気にかけられるだけの余裕も出てきた。


その中で1人心配な子がいる。

バイトの斗真君だ。


バイト歴が長いのに、今だにバイト同士で仲良くなっている様子はない。

何かこう、敢えて交わらないよう一線を引いているように見える。


時々休憩スペースで、女の子たちが斗真君のことを話題にしている。



女子「林さんて、何か話しかけにくいし、わかんないことあっても聞きにくいよね。」

林斗真はやしとうま


女子「そうそう。まず目線が合わないよね」


女子達「わかるー(笑)」


女子「表情がなくない?バイト同士でムダ話

してるの見たことないしね。なんかつまんなそうっていうかさ(笑)」


俺はこの会話には敢えて参加はせず、聞こえてないフリをしている。

やたらとここで何か言ったりしてしまったら、彼女たちが休憩スペースで何も話さなくなってしまうからだ。


俺はこの5年で学習した。

休憩スペースで繰り広げられるパートさんやバイトさんの会話には色んな情報が詰まっている。

仕入れの参考になるときもあるし、人間関係の善し悪しも知ることができたりする。


だから俺は、休憩スペースにある給湯室の掃除は必ず自分が担当している。

言い方は悪いけど、盗み聞きしている。


みんな油断して、結構本音で語っていることも多々。


俺は斗真君が悪く言われるたび、残念な気持ちになる。

あんなに真面目にコツコツやる子はいない。

それも誰も見ていないとこでもきちんとマニュアル通りに仕事をしてくれる。

社員にしたいくらいだ。


女の子たちが言うように、もう少し社交性があってもいい気はするけど。

斗真君、本当は誰かと仲良くなりたいとか思ってるけど、人見知りだからきっかけがなくて困ってるのかな…。


俺に何かできることがあればしてあげたい。

どうせ働くなら楽しいほうがいいもんな。

今度食事行ったら、斗真くんの気持ちを聞いてあげたいな。

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