第17話 店長とごはん
ヤバい。
店長に勢いで「行きます!」なんて言ったけど、今更後悔している。
コミュニケーションスキルが全く無い僕。
冷静に考えたら店長と二人きり。
会話にならないかもしれない。
いや、多分ならない。
店長も気軽に誘ったことを後悔するはず。
今日のバイト終わりが恐ろしくなってきた…
僕はいつもそう。
誰かに誘ってもらえば、それはそれで嬉しいくせに、いざ当日になると、なんか行きたくない自分が顔を出す。
あれ、何なんだろう。
前日までは行くぞ!って、何ならほんの少しだけど、楽しみ?みたいな気持ちもあるのに。
当日になるとテンション下がるっていう。
母と出かけるときもそう。
店長は今日は休暇をとったらしく、僕のバイト終わりに合わせて迎えに来てくれるらしい。
そういえば、大人の車に乗せてもらうの、親と親戚のおじちゃん以外、初めてかも。
どうしよう、緊張が増す。
もう考えるのはよそう。
バイトに集中しとこ。
それからあっという間にバイトが終わってしまった。
店長とは、近くのコンビニで待ち合わせをした。
仕方なくその場所に向かう。
ヤダな、どうしよう、どうしよう…。
コンビニに行くと、すでに店長が待っていた。
以外にも可愛らしい黄色の軽自動車だった。
何でか分からないけど、車を見たら緊張が吹っ飛んだ。
てっきり大人の車=大きい車と勝手に想像してた。
以外にも軽自動車、しかも黄色。
ポップすぎて(笑)
店長「斗真君、お疲れ様ー。」
斗真「お疲れ様です!きょ、きょ、今日はよろしくお願いします!」
店長「ご飯食べながら喋るだけだから(笑)そんなに力まないで大丈夫。さっ、車乗って。」
僕は母の車に乗る時はいつも後部座席だ。
今回も自然と後部座席のドアに手を伸ばす。
店長「あれ?そっち乗る?いや、いんだよ。好きなとこ乗ってもらって(笑)」
斗真「いや、なんかすみません!母に乗せてもらうときは後ろなので…」
店長「そうかそうか。親子だとそうなんだね。そのまま好きなところにどうぞ。」
僕は迷って、助手席に乗ることにした。
もう何をどうするのが失礼にあたらず、正解なのかわからない。
店長「お?助手席でいいの?」
斗真「は、はい。」
店長「何食べたい?斗真君の食べたいもの何でもいいよ。」
斗真「僕はほとんど外食行かないので…よくわからいので店長のお任せでお願いしたいです。」
店長「そんな、遠慮しないで。まぁそれじゃ二択にしようかな。焼肉と寿司、どっちがいい?」
斗真「え!?どっちもお高いのでは?僕、もっとお手頃なもので大丈夫です!」
店長「お手頃って(笑)じゃあ質問を変えよう。どっちが好き?」
どっちが好きかって?
そりゃ焼肉のほうが好きだけど…
正直に言っていいものだろうか。
店長「斗真君は慎重なんだね。自分が思ってること、素直に話して大丈夫だよ。どっちが好き?」
斗真「や、や、焼肉好きです。」
店長「よし!じゃあ決まりね。焼肉決定!」
店長って、優しいのかもしれない。
店長「はい、到着しましたー。」
お店の看板を見ると、よくCMで見るファミリー向けの焼肉店だった。
店内は賑やかだ。
席に着くと店長は慣れた手つきでタッチパネルを操作し始めた。
店長「とりあえず飲み物頼もう。俺はウーロン茶、斗真君は?」
斗真「僕もウーロン茶をお願いします。」
店長「メニュー見て食べたいもの注文していいぞ。」
そう言われてメニューを見る。
どれも美味しそう。
焼肉なんて、久しぶりだ。
でも何を頼んでいいか決められない…
店長「ハハッ。初めての食事で好きなものどうぞって言われても困るか(笑)コースがいいね。何も考えなくても色々出てくるし。」
すると店員さんが来て、手際よく飲み物、お肉たちがテーブルに並べられた。
店員「お仕事いつもありがとう。お疲れ様。」
そう言うとジョッキを僕に差し出してきた。
親以外と外食に来るのがとんでもなく久しぶりすぎて乾杯にすぐ反応できないや。
斗真「あ、あ、ありがとうございます!お疲れ様です!」
緊張して口が渇きまくっていた。
慌てて飲んでむせてしまった。
店長「大丈夫???斗真君は自分のペースで焼きながら食べたい派?それともやってほしい派?」
斗真「あ、いや、どっちでもないです。滅多に焼肉食べにこないので…正直よくわからないです。」
店長「じゃ、焼いてあげる。斗真君側のが焼けたら、そっち取って食べてね♪半分からこっちは俺のってことで。斗真君バイト楽しい?」
…どっちでもないんだけどな。
お金のためだけなんで、なんて言ったら感じ悪いよな。
斗真「はい。女子が苦手なのはありますけど。」
店長「そっか。俺も女の子は苦手だよ(苦笑)俺みたいなおじさん、余裕で陰口言われてる、多分。」
斗真「店長も苦手なんですか!?」
つい前のめりで聞き返してしまった。
店長「そりゃそうでしょ。立場的にも注意することもあるし、当日無断欠勤された日には叱ることもあるし。上に立つ人は嫌われて当然よ。」
大人って、すごいんだ…。
僕はこんなに割り切って考えられない。
斗真「そうなんですね、色々大変なんですね…。」
店長「斗真君て、バイトの中で仲良い子いる?」
斗真「いません。僕は深く関わるったりするのは面倒なんで。自分の仕事を黙々とやって、お給料を頂くので十分です。」
店長「本当に?喋りたいなとかないんだ?」
斗真「はい。バイト先にそういうのは求めてません。」
店長「そうなのね。じゃあ俺の考えすぎだったかな。」
斗真「僕、なんかすごく気を使わせてますか?」
店長「いや、俺の勝手な思い込み。本当は他のバイトの子達みたいにご飯行ったりしたいんじゃないかって。きっかけ作れなくて…とかなら俺が何かできることあればと思って。」
…。正直、その気遣いはいらないなっと思ってしまう僕は冷たい人間なんだろうか。
でも、本当にそういうの、必要ない。
斗真「ありがとうございます。色々考えてくださって。僕、実は一人が好きで。学校、バイト、趣味だけで十分満足して楽しく生活してます。」
まさか、最近見つけたあの
僕の生活に新たに加わったあの
これこそ、自分の中だけの眩しいもの。
店長「斗真君、趣味があるのかー。それなら毎日楽しいね。」
斗真「はい。」
それから店長は、僕が本当に何も困っていないと理解してくれたのか、他愛もない話をしたり、僕の映画の話を聞いてくれたりした。
すごく興味を持って聞いてくれるから、つい、映画の話に熱が入ってしまった。
斗真「あ、あの、なんかすみません。映画のことになるとつい…」
店長「え?なんで?俺聞いてて楽しいよ。斗真君の説明分かりやすいし。とはいえもう10時だから、そろそろ帰ろう。今日は初お疲れ様会のご参加ありがとう。」
斗真「いえっ。こちらこそ、不参加貫き通してて…気を使わせてしまってすみません。でも美味しいもの食べられて楽しかったです。」
こうして僕と店長の初めてのごはんは、想像していたよりも楽しく終わった。
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