第12話 今日もバイト
僕はバイト先=お金、そうです。
目的は稼ぐの一点のみ。
だから、楽しいも楽しくないもない。
与えられた仕事を淡々とこなし、時間になったら帰る。
シンプルにこれだけだった。
このバイトも長いから、同世代とか、年下の男女が入ってくることも当然ある。
だけど心が揺さぶられることはなかった。
客層も田舎の小さなスーパーだから、都会の目立つような感じの若者が来ることもない。
若者といえば、親に連れられて来ている小中学生とかで、高校、大学生のような人はほぼいない。
僕はこのスーパーが居心地が良かった。
学校にいるときよりも自然体でいられるから。
クラスの最下層レベルの目立たぬ僕だけど、
ここでは気配を消す必要がなかった。
自然に呼吸できる感じ。
「おーい、斗真君、悪いけど飲料の補充頼める?もう棚がスカスカなんだ。」
勤務が長いせいか、いつの間にか店長には名前で呼ばれるようになった。
「はい。すぐ行きます。」
僕は急いでバックヤードに行き、台車に飲料の入った段ボールを積んでいく。
積んでは棚に陳列してを繰り返す。
一番上の棚、ストック置き場も空だった。
栄養ゼリーのような軽めの商品をケースごと置いておく。
こうしておくと、いちいちバックヤードに取りに行かなくて済むから。
誰だよ、使い切って補充しない奴…
心でそう思いながら、バックヤードから栄養ゼリーの箱を運ぶ。
あ、踏み台も持ってくれば良かった。
僕は身長も中途半端。
かなり背伸びして手を最大限に伸ばしてギリギリ棚の一番上に手が届く。
もう何往復もして面倒くさい…
踏み台無くても出来なくはないし、このまま作業するか。
ペットボトルの陳列を終え、ゼリー系のケースを並べる。
あー、腕がつりそう。
と、指先で箱を奥に押そうとしたその時、
やけにスッと箱が動いた。
一瞬の出来事だった。
なんだ、店長か。
そう思って「あ、ありが…」と言いながら後ろを振り返ると、店長じゃなかった。
!!!!!!
「あ、あ、あ、あ、あの、あのぅ、ありがとうございますぅ。」
すぅ~ってなんだよ、普通に言えないのか僕は。
手を差し伸べてくれたのはあの
こんなところでこんにちはするなんて!
どうしよう、嬉しい。
ラッキー過ぎる。
え?何?いつからそこにいたのさ。
背後に人の気配なんて全然しなかったのに。
秋斗「どういたしまして。」
斗真「あ、あの、どうして?その、どうして手伝ってくださったんですか?」
秋斗「つま先立ちであまりにも手がプルプルしてたから(笑)気になってしまってつい。踏み台お使いになったほうが安全かもしれませんね。」
恥ずい。
恥ずかしすぎる。
そして眩しい。
いまこの人の視線の中に間違いなく僕だけが入っている。
直視できない。
でもチラ見はしたい。
やっぱり綺麗…。
斗真「ですよね。ご指摘ありがとうございますぅ。」
緊張して声がうわずってしまう。
もう!語尾に「すぅ」なんて普段ならないのに!
僕だってよく思われたいのに。
秋斗「指摘だなんて、そんなつもりは。ただ、あまりにも必死に乗せてる姿が可愛らしくて。つい手を出しちゃいました。頑張ってくださいね。」
斗真「はい!気をつけます。」
よくわからない返事をしてしまった…。
そのままあの人は別の売り場に消えていった。
ヤバい!
ヤバすぎでしょ!
もう僕は大興奮状態だ。
何この展開、今日はバイト史上神回確定でしょ!
記憶が鮮明なうちに、さっきの会話を脳内でリピートする。
あの人、僕のこと可愛らしいって言った?
言ったよね。言った。絶対言ってた。
気持ち悪い奴認定されてなさそうで良かった。
だってそうでしょ?
キモそうな相手だったら、困ってても手伝ってなんてくれないよね。多分。
どうしよう。
あの人もう買い物終わっちゃう?
追いかけたい。
もっと見たい。
足元を見ると、空き段ボールが散らばっている。
ダメだ、ここの売り場整えてからじゃないとどこにも行けないよ。
僕は追いかけたい衝動を堪えつつ、段ボールを片付けた。
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