第2話 エラー音

今日も学校が終わり、家に着くなり支度をしてバイトに向かう。


夏の終わり、日が落ちるのが早くなったけど、まだまだ蒸し暑い。

自転車を漕ぎながら濃い夕焼け空を見ながら、そんなことを考える。


あっという間に到着。

バイト先の指定のエプロンをつけ、持ち場のセルフレジに向かう。


夕方はいつも混むな。

そう思いながら、複数のレジ回りにある溜まった買い物カゴを回収する。


自動ドアの近くにあるカゴ置き場に運び、持ち場に戻った。

いつも2人対応だけど、もうひとりの姿がない。

たまに当日欠勤が出ると、他の業務に回されることがある。

多分品出しに行ったんだな。

補充用の有料レジ袋、割り箸やらを準備する。


すると、「店員をお呼びください」と繰り返す機械的な女性のエラー音が耳に入った。


僕はすぐにそのレジに向かった。

お客の顔をよく見ずに、レジの画面に目をやる。

どうやらレシートの用紙が切れたようだ。


「レシートを補充しますので、少々お待ちください。」


「え?あー、はい。」

と男の声が耳に届く。


僕は待たせないよう、素早く補充し、レシートをお客に手渡そうと、顔をあげた。

ここで初めてお客の顔に目をやる。


僕の中で一瞬時が止まった。


耳に届いていたのは間違いなく男の声。

だけど、その声とは想像もつかないほど、綺麗な顔立ちをした男だった。

長髪に黒髪。

シンプルなTシャツに細身のジーンズ。


女性と見間違えそうなほどに綺麗な顔をしていた。


こんな綺麗な人、今まで見たことがない。


「あ、どうも。」


お客からお礼を言われて我に返った。

慌てて言葉を発する。


「またお越しください」


その人は、レシートを両手で丁寧に受けとると、

そのまま自動ドアに向かって去っていった。


僕は無意識で、その背中が見えなくなるまで目で追っていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る