瑠奈と麗奈さんの元へ

 初めてなの……あたし――中里莉羅にとって、ここまで気になる相手が出来たのは初めてだった。

 今までの出会いも、元カレだったあいつのこととも、その全てを塗り替えるほどの想いを抱いた相手……正人の存在はあたしの中で本当に大きくなってしまっている。


「ねえねえ」

「な、なに……?」


 ギュッと腕を抱きしめながらあたしは正人に問いかけた。

 さっきからずっと体を擦り付けたりしているのに、全然慣れた様子がなく緊張している正人の様子は凄く可愛い。


(こういうのも凄く良い……こういう顔も全然良い!)


 何人も寄せ付けない姿も素晴らしいけど、こんな風にあたしに照れてくれる姿も最高だ。

 ただ体を擦り付けるだけでは味気ないかなと思い、自慢の大きな胸の谷間に腕を通すようにしてみれば、更に正人は顔を赤くする。


「これからこんな風に誘っても良い?」

「……え?」

「家にさ……誘っても良い? 正人と過ごすの楽しいし、あたしたちもう友達でしょ? それなら誘っても良いかなって思ったんだけど」

「それは……まあ誘ってくれるのなら。でも……やっぱり女の子の家って緊張するし、それに……」


 それに……なんだろ?


「その……アイドルの家に来ても良いのかなって思っちゃうというか」


 なんだ、そんなことかとあたしは微笑んだ。


「そんなの気にする必要ないよ。今のあたしもアイドルのあたしも同じだけど、プライベートまで一緒にはしたくない……それに、正人からしても優越感とかないの?」

「優越感?」

「うん! 自意識過剰なつもりはないけど、あたしは結構有名なアイドルだと思ってる。そんなあたしとプライベートで繋がれること、もっと言えばこんなことまで出来る関係ってことにさ」

「っ……」


 ふふっ、あたしの言葉一つ一つを正人は意識してくれている。

 瑠奈の家に行くということで、慣れてないから困っている彼をこうしてあたしは家に招き入れた……実を言えば、あたしは彼を家に入れた瞬間からとてつもなく興奮してる!


「……凄く光栄なことだとは思ってるけど、やっぱり恐れ多いって感覚は残り続けるかなって」

「ま、それもそうだよねぇ」


 ねえ正人、気付いてる?

 あたしはずっと自分の中の衝動を抑え続けてるんだよ? この気持ちに正直になって、本能に従って色々なことをしたいのを我慢してるの。


「よし、それじゃあ次はこうしよっかな」


 正人に背中を預けるようにあたしは、座り直した。

 背中が正人に触れている安心感もさることながら、お尻の付近には正人の腰があって……つまりはそういうこと。


(ちょっと苦しそうかも……?)


 必死に我慢して、必死に誤魔化そうとしてることも気付いてるよ?

 でも敢えてあたしはそれに気付かないフリをしてるの……だってそういう行為を望んでいるとはいえ、まだまだ関係値は低い……それに一時の快楽を代償にとてつもない後悔が後に待つ可能性もある。

 いくらパパとママがあたしに甘いとはいえ、そんなことがあったら怒るし悲しむだろうし、何より正人に迷惑はかけたくない。


(でも……正人に襲われたらそれはそれでありかも? つうか襲えよさっきから濡れてんのあたし!!)


 それとなくお尻を動かして刺激を与えれば、分かりやすく反応する。


「り、莉羅! ちょっと――」

「ちょっと何かなぁ?」

「……いや、あの……だな」


 ……ちょっと意地悪かなと思いつつも、こういうやり取りも楽しくて続けちゃう。


「手、借りるね」

「え……え!?」


 正人の手を取り、そのままあたしの胸へ押し付ける。

 SNSであたしが躍っている動画に興奮する投稿は目にするけど、そんな人たちが求めるHカップおっぱいを好きにして良いんだよと、そう言わんばかりに触らせてあげる。


「何してんの!?」

「ほら、やっぱり事故でこうやっておっぱいに触っちゃうこともあるわけだし、これもまた慣れるためだよ」

「……………」


 ……でもこれヤバいかも。

 こうやってただ触れられているだけなのに、おかしな気分になるだけでなくもっと大変なことになっちゃいそう。


「女の子のおっぱいに触るのは初めてだよね?」

「う、うん……」

「どう?」

「柔らかい……です」

「でしょ? 弾力も張りも自慢なんだぁ」


 嬉しい……嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい。

 正人に触れてもらえていることが嬉しいのはもちろんだけど、それ以上にあたしの中にあったのは瑠奈に対する優越感だ。

 ねえ瑠奈? まだ瑠奈はこんなことしてないでしょ? 家に来たことだけでなく、胸に触れてもらったのもあたしが先になっちゃったね。


(事故とか偶然じゃなくて、こうやってハッキリとね……)


 それからはこれ以上の刺激的で過激なことはしなかった。

 流石にこれ以上やってしまうと我慢出来なくなりそうなのと、正人が凄まじいくらいに顔を赤くして倒れてしまいそうだったから。


「それじゃあね」

「あぁ……その……勉強になりました!!」

「は~い♪」


 マンションの外まで正人を送り、部屋に戻って扉を閉め……そしてその場に尻もちを突く。


「はぁ……はぁ……はぁ……♡」


 もうダメだと、服を脱いだ。

 そうして自分だけの時間に浸る中――快楽を享受しながらもあたしは冷静だった。


「……この気持ちに偽りはない……でもあまりに突然すぎたからおかしいことも分かってる。あたしの身に起きた何か……それを分かっているから抑えられたのもあるね……ぅん♡」


 正人君に助けられた……だからあたしはこんな風になった。

 それは理由として全然普通のことだとは思うけど、ここまで彼を想う気持ちにおかしな部分があることも分かってる……ま、だからなんだって話だし、あたしとしては全然良いんだけどさ!


「別に分からなくても良い……最後まで分からなくても良い……でもこのどうでも良い違和感があたしに最後の一線を越えさせないでいる」


 ……ま、結局のところこういうことでしょ?

 もっと色々時間を使って、もっともっと正人と親密になって……その上で次の段階に進めばいいってわけ。


「好き……好きぃ……正人が好きなのぉ……っ」


 あたしに興奮してくれていたのも好き……でも一番は、家族のことになった時……気遣ってくれた優しさが好き。


「……瑠奈は、どんなことをするのかなぁ」


 なんてことを思いつつ、正人とのやり取りをまた思い返して身悶えするあたしだった。



▽▼



「……よしっ」


 土曜日になり、俺は藍沢家の前に居た。

 昨日の莉羅とのやり取りが脳裏にこびり付いているけど……でも本当にあれはなんだったんだよと思わない瞬間はない。

 もちろん嬉しかったよ……?

 でもあまりに過激すぎたし、あれのせいで莉羅のことを意識しまくってるんだ俺は!


「とはいえ、まずはこっちだ」


 それでも莉羅のおかげで慣れはある程度培った……と思いたい。


「……メッセージも喜んでくれたしな」


 恥ずかしいこととはいえ、夜に感謝のメッセージを送った。

 ありがとうから始まって……莉羅の返事で色々柔らかかったとか良い匂いがしたとかそんな言葉を引き出されたはしたけど、最後にはちゃんと言いたいことは伝えられたから。


『色々とあった……あったよ! でも、それ以上に信頼してくれてありがとうって気持ちだった。家に招いてくれたことも、体を……触らせてくれたことも全部……莉羅の信頼が嬉しかった』


 その後、しばらく返事はなかったけど……クサい台詞だったかな。


「……行くぞ」


 莉羅とのことは一旦頭の隅に追いやり、インターホンを鳴らす。

 程なくして玄関の扉が開き、瑠奈と……そして麗奈さんが同時に顔を見せた。


「いらっしゃい正人君!」

「いらっしゃい神木君」

「お、お邪魔します!」


 くぅ……今日も今日とて美人を見れるのは最高の気分だ!

 でも……麗奈さん凄く涼しい恰好というか、まあ暑い時期が近いので間違いはないけど、ちょっと瑠奈以上に刺激が強いんですが。

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