アイドルのNTRとかありきたりすぎんか!?
「……やっぱり居るぞこの学校に!」
昼休みになり、スマホを確認して俺は呟く。
「な、なんだどうした?」
「何が居るって?」
「あ……あぁいやごめん」
傍で談笑していた刀祢たちと、他のクラスメイトたちの視線が一斉に俺を捉えた。
まあ自分でもデカすぎだろって声が出たせいなのもあるが、流石にこんな風に視線が一気に向けられるのは流石に怖い。
「すんませんっしたぁ……」
そう頭を下げれば、すぐに興味を無くして視線は逸らされていく。
しかしその中に例外はあって朝にやり取りをした藍沢と、そんな彼女と話をしていたらしい中里はクスクスと笑っていた。
それは相手を煽ったり揶揄う意味が込められたものではなく、シンプルに俺の様子が面白かったようだ。
「……………」
さて、どうして俺が大きな声を上げたのか――それはふと開いたネトラセンサーによるものだ。
今になって気付いたのだが、このアプリに反応があった場合はどの時間帯かも分かるようになっており、どうやら朝……それこそ学校に来たくらいの時間帯にこいつが反応していたらしい。
(やっぱり居る……愛する者たちを引き裂こうとする愚かなクソ野郎……クソアマの可能性もあるけど確実に居やがるぞ!)
朝は藍沢とのやり取りがあったりとスマホを確認する暇がなかった。
センサーが反応したのは朝の段階で、あれからもう大分時間は経ってしまっている。
もしも……もしもこれで手遅れとかだとやるせないが、とにかく気付けなかったことが悔しい。
(かといって四六時中スマホを見るわけにもいかないしなぁ……)
これは正に、全部が全部都合良く助けることは出来ないってことか。
だがそれでもこの学校でそういうことが起こるというのはつまり、高校生という一番恋愛の芽が咲き誇る時期に寝取りなんていう馬鹿なことをしようとする奴が居るわけで……許すわけにはいかねえ。
「正人の奴ずっとスマホ見てんだけど」
「エロサイトでも見てんじゃね?」
「別に見るのは良いけど教室ってのはレベル高いな」
「んなわけねえだろうが」
あるわけないだろうと釘を刺すも、同人誌を漁ったりするためにそういうサイトを見ることはあるので一概に否定ということもしない。
「絶対に見ないわけじゃないけど教室では見ないっての。変なこと言い触らさないでくれよ」
「分かってらい! 俺たちはあくまで紳士だからな!」
「おうよ」
変態紳士って言われたら否定出来ないけどな!
その後も刀祢たちの会話に耳を傾けながら、更にアプリに関して色々と見ていた――すると、少しばかり不穏なモノを見つけた。
“このネトラセンサーは、寝取りクソ野郎を撲滅するためのアプリですが使用者に対してデメリットが存在します――それはアプリによって誰かを救う度に、使用者の純粋な出逢いの芽を潰していきます”
デメリットと分かりやすく書いていたからこそ目に留まった。
“使用者がカップルの想いを守れば守るほどに、使用者の純粋な恋愛の道も一つずつ潰れていくのです――故に、この力を使い続けるかどうかはあなた次第です”
……とのことだ。
この説明を照らし合わせるとつまり、既に俺は藍沢と徳永の仲を守ったのでその分誰かとのフラグが一つ潰れたって解釈……なのか?
やけに“純粋”という言葉が多いけど、とにかくこのアプリを使えば使うほど俺の出会いがなくなっていく……将来独身への道が着実に形成されていくってことぉ!?
「……ま、気にしても仕方ないか?」
この説明があまりに抽象的すぎるのもあってピンと来ない。
まあ未来のことは未来の俺に託すとして、俺はこれからもこのアプリが寝取り現場を教えてくれるのならそれを阻止するだけだ!
(別に寝取り現場を抑えて感謝されることに気持ち良さを求めているわけじゃないけど、ちょっとはそういう欲求もあるかもしれないな)
なんてことを思いつつ、この日は何事もなかった。
この学校に不届き者が居ることは確定しているのに、アプリが全く反応しないのでどうしようもない。
「これからどうする?」
「遊ぶに決まってんじゃん! 正人も行くよな?」
「おう……っとその前にトイレ」
刀祢たちにそう言い、教室を出てトイレに向かった。
ただその途中に藍沢と中里を見たのだが、何やら真剣に話をしていた様子で俺には全く気付く様子は無かった。
「そうなの……? 誰かに相談したら……」
「うん……でもあまり心配は掛けたくないし……」
一体何を話しているのか気になったが、トイレを済ませた後に彼女たちを見ることはなく、気にはなりながらも刀祢たちと出掛けるのだった。
▼▽
「キタキタキタキター! キタサンブラアアアアアアアク!!」
「な、何よどうしたの!?」
藍沢以来のネトラセンサー起動に、俺は大きな声を上げた。
それは母さんがビックリして部屋に突撃してくるほどだったが、既にその時には着替えを終えていた。
「母さん、これからちょっと出かけてくるから」
「刀祢君たちと遊ぶの?」
「いいや――人助けさ」
キランと前歯を輝かせるように、ニッと笑いながら言ってやった。
最高に決まったぜとテンション爆上がりだが、こいつが反応したということは悲劇が生まれそうだということ……待っていろ――絶対にNTRは阻止して見せるからな!
「……似合わないわよ?」
母さんの言葉に出鼻を挫かれそうになったが、それで俺は止まらない。
家を飛び出した俺はそのまま駆け抜けて行く……それなりのスピードで走っているのに息が全く上がらないのは気になるが、どうにもこの感覚は藍沢の時に感じた物に似ていた。
「ここ……ビルばっかだけど?」
藍沢の時は公園だったが、今回反応があるのはビルの立ち並ぶ街のど真ん中だ――やけに澄んだ気持ちの中、辿り着いたのは芸能事務所である。
「……マジで?」
本来であれば、俺のような人間には縁のない場所だ。
本当にここなのかとスマホを見れば、センサーはこの建物に強く反応している。
“アプリの起動中において、あなたは世の理不尽を突き崩せる存在です。全てがあなたに味方するように、何人も……どんなことも寝取りクソ野郎を排除するこの瞬間を邪魔することは出来ません――自信を持って自分のやりたいこと、成したいことを遂行してください”
そうして未来のフラグを一つ折ってけって? 上等だクソッタレ。
「芸能事務所……流れからして所属しているアイドルとかか?」
二次元に浸かりすぎて詳しくないが、確かこの芸能事務所はそこそこ有名で名前を聞いたことある気がする。
今をときめく若手アイドルも所属しているとか……現役アイドルオタクの友達が興奮して喋っていたような記憶があるのだが、やはり興味ないからなのかよく覚えていない。
「仮にアイドルとかタレントだとして、そういう人たちに恋人が居るってことになるけど……ま、俺からすればどうでもいいことだ」
建物を見上げ続けていると、段々と集中していくのが分かる。
アプリの説明にあったように、どんなことも跳ね除けて被害者を助けられるんじゃないかっていう自信に俺は満ちていた。
「行くぞ」
そうして、俺は事務所の中に入った。
こういう場所に来たことがないのでよく分からないが、芸能事務所ってこんなに人が居ないのかと思うくらいには人気を感じない。
だがもしも、今行われていることを実行するために人払いしていると考えれば、この静けさも納得出来る。
「……ここだ」
事務所の更に奥の方へ用意された部屋の前に立つと、センサーが鮮血のような赤さとなって点滅する。
『どうしてそんな……お願いだから止めてってば!』
『どうしてじゃない! なんで分かってくれないんだ! 僕はこんなにも君に尽くして、君のために頑張ったんだぞ!? それなのに彼氏が居るから……!? ふざけるな!!』
激しい言葉の押収の後に、悲鳴と押し倒すような音が聞こえた。
つうかこの声……女性の声は微妙に聞いたことある気がするのはなんでだろうか。
『君がデビューしてからずっと面倒を見てやっただろ……! それなのに恩を仇で返すようなことしやがって……! でも良いさ……心まで全部屈服させてやる……そのために彼らを呼んだんだからなぁ!?』
『ひっ!?』
『ははっ、こいつは狂ってやがるぜ』
『でも現役アイドルを好き勝手出来るってのはそそられたからなぁ。こいつは楽しみだ』
俺はすぐにスマホで警察に連絡を入れ、正義の心を開放するかのように中に入り込んだ。
「NTRは許されねえ……ましてや大人数でのレイプなんざ言語同断!」
さあ、裁きの始まりだ。
ちなみに今の俺は素顔ではなく、ちょうど置いてあった狐の面をしているので、加害者にもそうだが被害者も俺の顔は分からない。
だがそれで良いんだ――俺は愛を守る戦士であり、感謝なんてものはありがとうの一言だけで十分……その後の見返りは何も要らねえんだから。
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