4-2:虚無
・・・
あの日のことを思い返している。
三敷 菫という男は何を誤っただろうのか。
「こんにちは。今日も変わりは……なさそうだね」
面会の日。いつも通りの、何も無いだろう一日。
目の前に横たわっているのは、虚ろな目をうっすらと開けている少女。
この子は大規模魔物災害からたった一人で一つの町を救った英雄で。
僕の判断の被害者だ。
あの日、本当ならあの町の近くには別の魔法少女が複数人いたというのに。
それを万一の首都圏への備えで動かすよう考えたのは、僕だ。
自慢では無いが、僕は自分の判断を誤ったことがほとんどない。
小さな失敗はあれど、それで、致命的な失敗をしたことも……あれっきりなかった。
……もっと、もっと考えなければいけなかったのではないか。
きっとこの子は、自分の力が足りなかったと、そう思って心を壊したのだろう。
そんな魔法少女も珍しくはない。
だけどそうじゃない。君の全てを奪ったのは僕なんだ。
君は君を恨む必要はない。僕だけを恨めばいい。
そして、僕を恨むことで、なんとか生きる気力を取り戻してほしい。
そう思って、ずっとずっと声をかけ続けてきた。
……あれから1年となる。何の進展もない。
この子は、まだ死んでいないというだけの状態だ。
声は届いているのだろうか。わからない。
意識はあるのだろうか。わからない。
何を、考えているのだろうか。
わからない。
それでも、僕は声をかけ続けている。
そして、魔物を倒すために日夜頑張り続けている。
いつか君みたいな子が、生きていても良いといえる世界を取り戻すために。
「……僕にも、君のような力があったら良かったのに」
自覚はなかったが、もしかしたら疲れていたのかもしれない。
心の奥に秘めていて、普段なら言わないような愚痴を、零してしまう。
彼女に一切の反応がないことで気が緩んでいたのもあるだろう。
「僕には直接戦う力が何もない」
吐露し始めたら、もう止まらない。
「僕は君のことを知らない。でもきっと、君には物凄い力があったんだろう」
少女は光のない目で天井を見つめたまま。
「あれほどの戦場を戦い抜いた君は、やっぱり英雄だよ。大いなる力で町を守った、英雄」
少女が口を少し開いて、閉じる。たまにしているが、そこから言葉が紡がれたことは一度もない。
「何度も言うように、あの災害の被害が大きくなったのは、僕の責任だ。君は悪くない」
この病室は防音がしっかりしているから、僕の声以外には少女の呼吸音しか無い。
「僕は……ね。大人になったら、英雄になりたかったんだ」
少女がゆっくり瞬きをする。いつもあまり瞬きしないので、たまに目薬を差してあげている。
面会中は僕とこの子以外いないから。
「誰かを守る。誰かの不幸を打ち払う。そんな英雄に」
少女が目を静かに閉じ始める。眠たくなったのだろうか。
意識があるかもわからないが、目を閉じるとしばらく開かないことが多い。
「……僕は無力だよ。頭も良くない。考えることしかできない」
少し、呼吸が静かになった気がする。きっと、眠るのだろう。
「僕みたいな大人たちではなくて、君のような子供たちが命をかけて戦っている」
静かな病室に、僕の情けない言葉だけが、虚しく響く。
「そんなの、絶対におかしいよね」
最初の頃に抱いた決意は、まだ胸にある。
ただ、それを果たすのに僕は、力不足だ。
「本当は、僕たち大人が子供たちを守らないといけないのに」
……。
「君のような子供が、悲しい英雄にならない世界を作らないといけないのに」
……。
「子供たちが幸せな未来を見れる世界にしないといけないのに」
……。
……?
ふと、目を少し開けていたように感じたけど気のせいだったみたいだ。
「……あぁ、ごめん、変な愚痴をいってしまったね。今の僕が言うべきことではなかった。ごめん」
少女は相変わらず目を閉じたまま、身じろぎもしない。
「……少し頭を冷やした方が良さそうだ。僕はそろそろ帰るよ」
少女を少し振り返り、お別れの言葉をかける。
虚ろな少女は動かないまま。いつもと同じようなまま。
・・・
病室を出て、熟考する。そろそろ決断すべきじゃないかと。
冷徹な、対魔物のための考えがさっきまでの情けない僕をなじる。
はっきり言ってしまおう。
もし彼女の意識が生きているのだとしたら、今までだって無理やり起こすことは可能だった。
そう、彩芽を連れてきて『伝達』を繋げれば、無理やり頭の中を暴くことができる。
そして、相手が拒否しようが、無理やり情報を叩き込むことができる。
そんな、一方的かつ双方向の拷問じみた対話の強制。
彩芽はおそらく、必要性を説けばやってくれるだろう。
……ここ数年、魔物が少しずつ強くなっている。
あの子がどれほどの戦力になるかわからないけど、規格外の強さなのは間違いない。
少女たちの犠牲も少なくなく、ジリ貧な現状。何かしらのゲームチェンジャーが必要だ。
例えば『察知』のような。
例えば『伝達』のような。
萌香さんがもたらす情報は革命的だったが、残念ながら本人が弱すぎて現場に出せないのでやれることに限度がある。
彩芽も、対魔法少女は最強といっても過言ではないが、魔物相手だと厳しいものがあるし、通信の維持のためにあまり他にリソースは割けない。
僕は、それらを上回る何か、途轍もないものをあの子に感じている。
僕の冷酷な部分が、それを切実に求めている。
……最低だな。
真剣に、頭を冷やさなければならないだろう。
これ以上、命を削る子供を増やすのは、もうたくさんだ。
僕の使命は、みんなを守ること。
戦えないなら、それ以外の何もかもをしないといけない。
考えろ。もっと。考えろ。
そして。その少女は翌日、姿を消した。
・・・
>『未来』
だいたいなんでもできる超絶チートだよ。
『過去』だったらもっと良かったのにね。
>『察知』
ずるいって意味でのマジものチートだよ。これのせいで地味にハードモードだよ。
あと本人もかなりしつこいよ。ほっとけば全部終わるのだから素直に待っててほしいね。
>『熱気』
チートすれすれの汎用性高杉さんで戦闘でもそれ以外でも普通に強いよ。
でも本人はよわよわだよ。影でよく泣いてるよ。かわいいね。
>『伝達』
これも頭おかしいクソチートだよ。誰かさんがヘタレなければ始まる前から詰んでたね。
それと本人も割とやばいよ。限度は弁えてるけど、その範囲内ならなんでもするよ。こわいね。
>『比重』
戦闘特化だしもう使えないからあんまり気にする必要ないよ。
だけど、本人はやたらと身内に甘いけどそれ以外には容赦がないタイプだからちょっとだけ面倒だね。
>『熟考』
クソザコだけど他のサポートにまわると途端にチートになるタイプだよ。
本人の言動は、普段は的外れなことも多いけど、たまにすごく核心をついてくるね。君の願いは叶うよ。よかったね。
>『幸運』
あらゆる意味で万能チートだったと思うよ。本人も色々凄いらしいよ。
上手くやれれば助かってたんだろうけど、まぁしょうがなかったね。
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