-2:ありし日の午後

・・・




「あ、おねえちゃん」

「ゆっぴー! こっちこっち!」

「やっと来たか」


「ごめーんまったー? おまたせ!」

「1時間以上待たされたわ。何してたんだ?」


 もう春真っ盛りなのにトレンチコートを着て、ボストンバッグを持った小さな少女。

 微塵も謝る気がないようなテンションでやってきたこいつは、謎に不敵な笑みを浮かべる。

 そしてバッグを置いておもむろに。


 ガバァッ!


 と、春によく出る不審者みたいにコートの前を開き。








「……高校の制服?」


 中から出てきたのは、これから通う予定の高校のブレザー姿だった。


 ……というか、大丈夫か?

 高校の人に見つかったら怒られるというのもあるが……。

 鈴華に、通えなかった高校の制服を見せるっていうのは……。


「反応が薄いなぁ。我美少女ぞ? 可愛かろう?」

「ゆっぴー可愛いよ!!」

「うんうん、約束通り鈴華ちゃんのも持ってきたから後で着替えて一緒に写真撮ろっか!」


 どうやら二人の間で約束があったらしい。ほっと一息つく。

 にしても俺は周りの目が気になるんだが……目立ち過ぎてやしないか。

 隣を見ると妹の方はキラキラした目で姉を見ている。ダメそうだ。


「とりあえず人目がないところいこうぜ……」


「え、私らみたいな美少女たちを連れて人気の無いところへ? 事案?」

「ちょっとやだ、恭くんってば大胆……!」

「不潔です」


 何故か俺が悪者みたいになった。特に雪花からのゴミを見るような目が辛い。


「冗談はさておいて、遅れてすまないけど一杯くらい飲み物飲ませておくれー」

「あ、おねえちゃん」

「ん?」

「アイスティーしかなかったですけどいいですか?」


 雪花が自分の、ほとんど口をつけていないアイスティーをスッと差し出す。

 そしてグッと親指を立て合う姉妹。なんだこいつら。


「どうでもいいから、早く飲んで遊びに行こうぜ」


 なんかもう、制服が高校関係者に見つかるかもとかどうでも良くなってきたな。

 鈴華はこの光景にテンション上げてるし、俺も今日は普通に楽しんでいいような気がしてきた。

 そうだな、久々に思いっきり遊ぶか!




・・・




「いやぁ歌った歌った」

「ゆっぴーの選曲って相変わらずおじさんだよね」

「私は心の中におじさんを飼ってるからね」

「かっこいいです……!」


 最初に鈴華の家に寄って着替えてから記念撮影して、

 ゲーセンに寄ってそこでもプリクラを撮り合って、

 休憩がてらファミレスで適当に駄弁りながら昼飯を食べて、

 最後にカラオケに行って、思い思いに好きな歌を歌ってストレス発散をして。


 ま、結局いつもとおんなじパターンになっちゃうよな。

 みんなで遊ぶってなると毎回だいたいこんな感じだ。

 せいぜいやることの順番が入れ替わるかくらいか。


 どうでもいいが鈴華の制服姿はサイズが合ってないせいでコスプレ感がやばい。

 似合ってないという意味では無い。むしろ、やばい。色々な意味で。


「じーっ」

「……なんだ?」

「鈴華ちゃんのことエロい目で見てるね」

「見てねぇよ」

「やだなぁ素直になれよ少年。私もエロいと思って見てるから大丈夫だぞ」

「もうやだこのおっさん」

「まぁでも実際、身長かなり違うからね。ピッタリサイズを用意してあげたかったんだけど」

「身長だけか……?」

「お、なんだ戦争か?」


 なんだかんだついてきた姉を褒めるBOT妹とパツパツJKコスプレ少女がお手洗いに向かったので二人で駄弁ってたんだが。

 ついつい話が話だけにこいつの胸元にある、無いものを見てしまう。……無いものを見るってなんだ?

 あとトレンチコートは流石に暑かったのか早々にカバンに仕舞われてるので、見た目は完全に小さいJKだ。


 ……そういえばこいつ、何でこんなに遅刻したんだって考えてたけど。

 制服姿をじっくり見ていて、ふと思った。


 今日、相当数の人目に触れているが、こいつはそれを気にとめる様子も無い。本当なら、学校関係者を警戒するものだろう。

 だけど、直情的だけど頭も良く決して無謀ではないこいつが気にとめていないということは?


 そもそも気にとめる必要がない、ということじゃないか?


 最近忙しそうにしてたのも。今日時間に遅れたのも。









「ん? なになに私のこともエロい目で見てるのか? 仕方ないにゃぁちょっとくらいなら……」



百合ゆり



「……?」

「今日はありがとうな」


 きょとんと、こいつは一瞬、虚をつかれたような顔をして。



「どういたしまして」



 最高の笑顔で自慢げに、俺の疑問に応えてくれた。






・・・






「ほんとさ、俺だけじゃ多分、鈴華を立ち直らせられなかったと思うんだ」

「少年の成長に感動を禁じ得ない」

「なんだそれ、何目線だ」

「甥を見守るおじさん目線かなー」

「お前の親戚になった覚えはない」

「あはは、もし家族だったらなって思ったことはあるけどね」

「……」

「え、いや、なんか言ってよ冗談だよ……地味に傷つく……」

「それよりも今度の土日、空いてるか?」

「しかもスルーされた。つらい。空いてるけど?」

「じゃあまたみんなで一緒に遊びにいこうぜ」

「お、いきますよーいくいく。ぬ。……あ、じゃあその日は本屋と映画館寄りたいかな。あと妹も連れてっておっけー?」

「おういいぞ。じゃあ約束な」

「おっけー約束した! じゃけん今日の写真もその日に渡すからねぇ!」

「ああ、楽しみにしとくよ」






・・・






鶴来つるぎ きょう

 やれやれ系のツッコミ担当少年。

 大きい幼馴染小さい幼馴染の少女二人とよくつるんでて、両手に花だとかハーレム野郎だとか、よくクラスメートに絡まれてるらしい。

 とはいえまだ恋愛よりも友情優先な気持ちで、幼馴染の気持ちにはずっと気づかないまま。

 大きい方と高校が別れてしまうのをずっと気にかけており、最後の集まりではずっと気を張っていた。

 好きなものは努力、友情、勝利。嫌いなものはご都合主義。

 容姿は自称クール系のツンツン頭な中二病。中学でスタイリング剤にハマった。

 本編にはいない。



乙姫おとひめ 鈴華すずか

 おしゃべりなボケ担当少女。幼馴染の大きい方。身長は普通。

 同じくボケ担当な小さい幼馴染に思いっきり汚染されてて、本人も意味が分からないまま結構アウトな言葉を垂れ流していることも多い。

 親しい人には変なあだ名をよくつけている。そのあだ名も気分で頻繁に更新するので、たまに呼んだ方も呼ばれた方もよくわからないという謎な状況が生まれることもある。

 幼馴染の少年が好きで、高校の第一志望で落ちて離れることにガチ凹みしてたけど、幼馴染の少女に慰められて心機一転それでも頑張ろうという気持ちになっていた。

 好きなものは走ることと友達、そして友達以上になりたい人。嫌いなものは勉強。

 容姿は癖っ毛ショートカットなスポーツ少女。最近胸が大きくなってきて邪魔だなとこぼしててちょいちょい小さな幼馴染をピキらせてた。

 本編にはいない。



大野おおの 雪花せっか

 控え目な応援担当少女。姉の後ろについて回る静かなワンコ。3人の2歳年下。

 姉と友達たちの集まりに伝言係として引っ張り出される。

 任務遂行後は帰る予定だったがそのまま居座って、良い空気を吸っていたみたい。

 色々おかしい姉の下に生まれて結構苦労もあったけど、不思議なくらいまっすぐ育ってる清楚な妹。

 でもやっぱり姉に汚染されちゃってるので言動が地味にやばい。お清楚。

 件の姉は"語録が日常生活で使い易過ぎるのが悪い"などと供述している。仕方ないね。

 何故か変な姉のことが大好きらしく、ちょくちょく野獣の眼光を感じる。たまに怖い。

 好きなものは、多分姉と、姉の好きなもの。嫌いなものは自称友達。

 容姿はロングストレートな小さいお姫様。姉に負けず劣らず色々小さい。でもかわいい。

 本編にはいない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る