約束の栞:
-3:とある日の午前
・・・
卒業と入学の境目にいる時って、俺たちはどういう存在なのだろう。
こういう話をしたら、たぶん幼馴染どもは俺のことをまた中二病と呼ぶ気がするので考えてみるだけだが。
中学卒業後の春休み。世間的にはまだ中学生として扱われるんだろうか。
実際、高校の制服は入学式まで着るなって言われてるし。
しかし、小学生の時と比べて中学時代は本当にあっという間だったと思う。
まあ期間自体が半分しかないからっていうのもあるけど、イベントの密度が半端なくてほんと一瞬だった。
そんな色々あった中学もこれで終わり、いよいよ来週から高校生ってところで幼馴染から提案があって。
みんなで集まってパーっと遊ぼうかってなってたんだが。
「誰もこねぇ……」
おかしくない?
他はともかくなんで提案者も遅刻してんだよ。
いやまぁこれもまたいつものことなんだが……。
俺も俺で待たされるのが半分わかってて30分前とかに来てたりするし。
ごくごくたまーに時間前に集合できたりすると、なんか謎に感動するんだぜ?
あの感覚がたまんねぇんだ……。
とはいっても、今日はなんだかいつにも増して遅い。
予定から30分過ぎてるから1時間以上待たされていることになる。
いくら遅刻魔どもとはいえ流石に連絡しといた方がいいか……?
「おっ……」
おっ?
「またぁーっ!!」
聞き覚えのある声が聞こえたので振り返ろうとしたら、テニスのジャンピングボレーみたいな体勢で手を振りかぶっている幼馴染がいて。
お互い転ぶんじゃないかって勢いで背中をぶっ叩かれる。
……って、いやお前いつもアクションがでっかいんだよ!! いってぇな!!!
「お前は俺を怒らせた……」
「え、あ、ごめん
「そっちじゃねぇよ」
しゅんとした表情につい許してしまいそうになるが、許さぬ。
「前にも言ったろ。
「あれ、いま私のことゴリラって言った?」
「いってねぇよ、どっちかっていったらカモシカだろ」
こいつは陸上部なのでめっちゃ足が速い。
あと個人的には全く気にならないのだが、本人は足の太さを気にしてたりする。
だけど足もかなり長いし、逆に細かったら不自然だ。バランス的にはこっちのが良い。
というかお前はそれよりそのでかい胸を気にしろ。オーバーアクションでいちいち揺れて目に毒なんだよ!
「えへへ……」
「なんで急ににやけてんだお前」
相変わらずこいつはよくわからん……。
「ところでゆっぴーは?」
「まだ来てない」
「ゆっぴー相変わらず遅刻魔だねー」
「お前が言うな」
二人目の幼馴染はまだ来てない。
あいつはあいつで傍若無人な自分勝手ガールだが、そこまで遅刻する方ではない
最近忙しそうにはしてるが、どちらかというとこっちのでかい幼馴染の方が遥かに遅刻魔だ。
ま、なんにせよ基本どっちも時間までには来ないんだけどな。やれやれだぜ。
「じゃあいつもみたいにお話しして待ってようか!」
「まあそうだな、そのうち来るだろ」
まぁきっと、トラブルとかなら連絡が来るだろう。
あいつはそういう大事な報告なら必ずしてくるし。でも遅刻する時もしろよな。
あとなんかいつもあいつより先に来てるみたいに取れる発言があったがこのでかい方が先に来ることはほぼ無いぞ。
まあとりあえず近くの喫茶店にでも入るか。
・・・
適当に飲み物と朝食代わりのモーニングトーストを頼んで、とりとめのない雑談を話して。
その合間にふと無言の時間が生まれる。
実のところ今日の集まりは、鈴華を慰める会だ。
俺たち三人はいつも一緒につるんでいたが、こいつだけ第一志望の高校に落ちた。
だから、4月から離れ離れになってしまうということに物凄く落ち込んでいて心配になったものだが。
いつの間にか元気になってて、それでもやっぱりどこか無理をしているような雰囲気もあって。
じゃあ一回みんなで集まって憂さ晴らししよう!ってなったのが昨日のこと。
こいつには普通に遊ぶ集まりとしか言ってないが。
……やっぱ今日一日だけじゃ不安だな。次の機会も設けておくか。
「4月最初の土日、空いてたらまた遊ぶか」
「え……」
「あ、もしかして用事あるか?」
「……ないよ! 絶対空けとくから!」
なんか変な間があったし本当は用事があったんじゃないのか?
すごい勢いで食いつかれたから何も言えなかったが……大丈夫だろうか。
「それにしても、恭くんたちの高校の入学式ってエイプリルフールなんだね」
「ああ、そうだな」
「そういうことってあるんだねー。なんかさ、みたいなビッグイベントになるんじゃない!?」
「高校の入学式でどんなビッグイベントが起こるっていうんだよ……」
ちなみに鈴華の高校の入学式は次の日だ。
少し前に考えた理論だと、俺たちが高校生になった時はまだ中学生ってことになるか。
お互い不思議な感じになりそうだ。
ていうかあいつ、マジで遅いな。次の飲み物でも頼むか。
「あの……」
「うおっ!?」
テーブルの死角からいきなり声が聞こえたのでびっくりした。
これも聞き覚えのある声だったんだが、意識の外から急に声を掛けられて不覚にもビビってしまう。
覗き込むとそこには予想通りの、フリル多めのお姫様みたいな服を着た小さな女の子。
儚げな美少女という言葉がピッタリなこの子は、もう一人の幼馴染の妹だ。
「あ、せにゅりーたじゃん」
鈴華が声を掛けるが、また呼び方変わってるぞ……。
意外とこいつは人見知りで、親しくない相手は苗字でしか呼ばない。
逆に親しくなると意味不明なあだ名をつけてくる。
この子は
ところで俺は最初あだ名だったのに、何故か最近下の名前になった。
これってどこの立ち位置なんだろうか……親しさは変わってないと思ってるんだが……。
「お二人ともこんにちは。おねえちゃんの伝言を伝えに来ました」
それにしてもこの子は、ほんと姉とは比べ物にならないほど礼儀正しい。
真面目にあいつも妹を見習ってほしい。
あといくら懐いているからといって、いつも妹を使いぱしりに使うのはどうなんだ。
今度一応一言いっておくか。もし口喧嘩になったらあいつに勝てる気はしないが。
「えっと……『あと15分くらい遅刻予定。すみません許してください何でもしますから!』」
「ん? 今何でもするって言ったよね?」
「……?」
無駄に上手い声真似で伝言を伝えてくれる雪花と、それにいつも通りの返しをする鈴華。
多分今この場にいないあいつは謎のドヤ顔で頷いている気がする。
そして首を傾げた雪花も何故か少し満足げな表情だ。なんだこの空間。
「おねえちゃんが来るまで私もお話に混ざっていいですか?」
「お、いいぞ。何飲む?」
「アイスティーをお願いします」
姉に似たドヤ顔で注文してから、可愛らしい財布を取り出そうとしたのでそれは手で制しておく。
奢りに決まってるだろ。ほんといい子だなぁ、切実に姉みたいにならないでほしい……。
「いやあ、せにょりーたはできた妹だよねー」
「反面教師がある意味優秀だったんだろう」
「おねえちゃんの悪口ですか?」
いきなり目のハイライトを消さないでくれ。怖い。
「ほんとあいつのこと慕ってるよな雪花は」
「はい、おねえちゃんはかっこいいので!」
「ヒーローだもんね、せにょりーたの」
あいつは基本的に他人との間に壁を作りがちなんだが、いったん身内判定すると急に甘くなる。
身内判定な俺たちにも甘いが、本当の身内な妹にはちょっと引くくらいベッタベタに甘い。
だから、雪花が同じ中学に入って、陰ながらいじめに遭っていたと知った時は本当にやばかった。
まさかテストをぶっちして1年生のクラスに乗り込むとは思ってなかったからな……。
実行犯はともかく、そいつを庇うような真似した妹の担任も、圧倒的に立場でも状況でも負けてたのに口喧嘩で泣かすってどういうことだよ……。
いや、そのあと進路指導でめっちゃくちゃに怒られてたが。だけど家では怒られもしたが褒められもしたらしい。
でもそのせいでせっかく成績良かったのに上の高校には絶対に行けなくなり、俺と同じショボい高校に進学することになったのだけど。
あの時のあいつは、むしろ結果オーライ!とすごく満足げだったのが印象に残っている。
あいつはいつも自分の実力を根拠のないものとへりくだっていたし、周りに俺たちよりも上を目指すよう期待されてたってのもあったんだろうな。
相当レベルを下げてしまうのに、一緒の高校に行けるってなったときは不謹慎ながらみんなで喜んでしまったもんだ。
まあ結局そこから一人脱落してしまったんだが。全員家が近所だから別に普通に会えるは会えるんだけどな……本人には言えないがやっぱ残念だ。
「あなたは頭が悪くて他に取り柄がないから……なんだっけ?」
「『教師の立場で上に立つことでしか自尊心を満たせないんですね、かわいそ……』です」
「散々論破されて雑魚呼ばわりされてからのコレって話だもんね、そら私だって泣くわ」
「かっこよかったです……!」
とりあえず二人とも、公共の場で切れ味良過ぎる悪口を陳列するのはやめような。
なんか近くのお客さん引いてるぞ。
・・・
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