第15話

 だいぶ強引だったけど千尋のシュートは決まった。決まったはいいけど……敵味方ともになんか変な空気。


 でもボールを奪われた子は小さく拍手している。いいのか君はそれで。

 まあ得点には変わりない。ここはあたしもちょっと盛り上げていこう。


「いえーいちっひーいえーい!」


 背後から千尋の肩をつかんでもみもみ。縛り上げた髪から相変わらずいい匂いがする。

 それと女の子のうなじがエロい、とかいう男子の気持ちがなんとなくわかったような気がする。


「ち、ちょっと、やめてください」


 手を払われた。ちょっと照れてる? 

 すましてるけど、本当は嬉しいに違いない。

 

「ちょっとは喜びなよ~」

「まぐれですから」

 

 慢心はしない千尋さん。

 少しははしゃいでみてもいいんじゃないかと思う。そういうとこ見たい。けどあくまでクールに振る舞うのも捨てがたい。


「やるじゃん。バスケやってたの?」

「体育の授業でやったぐらいですが」


 そんな感じはしてた。

 これちゃんとやってたらいい線いってたんじゃないかな。

 超攻撃的フォワードとかになりそうだけど。


「そういうひまりは?」


 また名前呼んでくれた。今度は普通に。

 やばいにやつきそう。ここは耐えろ、なんとかごまかすんだ。


「……なに笑ってるんですか?」

 

 めちゃめちゃ不審そうな顔をされてしまった。

 耐えきれなかったらしい。あれ、というか何の話してたんだっけ。


 そのとき、ふと視線を感じて振り向く。

 ……見てる、聖奈さんこっち見てるよ。


 チームワーク大好きな人だからああいう自己中……おっと強気なプレイはお気に召さないのかも。

 体育だからいいけど部活で部員がやったらキレてそう。裏に呼びつけて諭してくるから怖いんだよね。


 ていうかそんな睨むようにしなくてもよくない? って思う。たかが体育の授業だよ?

 個人的にはもっと楽しくワイワイやりたいんだけど、やっぱなんか空気が重たい。

 

「まあ、授業ですから、そんなガチらなくてもね」

「あっちこっち気にしすぎじゃないですか」

「はい?」

「集中してない」


 千尋にダメだしされた。

 バスケ部ではエース扱いされていたこのあたしが。あの聖奈にも一目置かれているこのあたしが。

 いやまあおっしゃるとおりではあるんですけど。

 

 なんてやってるうちに試合再開。

 ボールを持っているのは咲希……と悠長に構えているまもなく、咲希はドリブルで突っ込んでくる。 


 一人かわし、もう一人かわし。速い。誰も止められない。

 慌ててコースを遮って抑えに入る。がその瞬間、 


「咲希!」


 遅れて走り込んできた聖奈にノールックでパス。あっさり通してしまう。

 受け取って、持ち替えながら両足でストップ。そのまま流れるようにシュート。マークもブロックもなし。

 誰もとっさにそんな頭はない。弧を描いたボールは直でするっとゴールに吸い込まれる。


 二人がタッチをかわして素早く自陣に戻っていく。

 いや何を本気出してるのか。本気出すのはやめろまじで。

 先ほどの千尋のゴールが火をつけてしまったのかなんなのか。


 あんなの見せつけられたらまたこっちの士気が落ちる……かと思えば素早くリスタートを要求したのは千尋。

 なんかもうかっこよく見えてきた。こんなの負けて当たり前かなんて考えてた自分が情けなくなる。


 あたしも負けじとパスを要求。またも中盤でボールをもらう。

 すかさず咲希があたりに来た。露骨に奪いにくる動き。

 

 いやあんまりなめるなって。

 目線でフェイクを入れて、逆方向にドリブル。抜き去る。


 行く先では、聖奈がゴール下に陣取っていた。

 試合中によく見た立ち姿。圧がヤバイ。

 これと真っ向から勝負するのは自殺行為だ。けどちょっとは千尋にかっこいいとこ見せたくなった。自信はある。

 

「ひまり!」


 千尋の声。ほしがりさんだ。

 でも名前呼んでくれたからパス出しちゃう。


 あたしは聖奈を正面に見たまま斜めにパスを出した。ワンバウンドさせたボールが走り込んできた千尋の手にきれいに収まる。

 あたしのパスは完全に聖奈の虚を突いた。

 

 千尋がゴール真下へ切り込む。

 ワンテンポ遅れて、聖奈がシュートコースを塞ぎに入る。


 うわ強引、と思ったそのとたん、二人の体がぶつかった。

 衝撃音が床に響く。わずかに遅れて、ボールが床の上を転がった。 

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