第42話 陛下とマリス➁

「自分の立場ってのを分からせてやれ」

「さて、美貌の王子さまをどんな性奴隷に調教してやろうか」

「ケツ揉まれただけでイけるようにしてやろうぜ。美人のイキ狂いは大好物だ」

「は、離してください……! 嫌ですっ、こんなのいやです!」

「いやです、だってよ。もっと言ってくれよ。お上品でたぎるぜ」

「お高くとまった王子様を犯せるなんて最高だな。安心しろよ、俺たちがすぐにアンアン鳴かせてやるからよ」


 足を押さえていた男が私の衣装の裾を掴むと力任せに引っ張りました。

 ビリリッ、衣装の繊細な生地が無残に破れてしまう。

 男たちは面白がって衣装を力任せに破り、剥ぎ取るように奪っていく。


「いやですっ、やっ。っ、見ないでください……!」


 素肌が曝され、男たちのごつごつした手が無遠慮に触れてきました。

 その感触に背筋がゾッとする。気持ち悪さに身の毛がよだつ。

 今すぐ逃げ出したいのに男たちの手が体を這いまわって捕らわれます。まるで底なし沼に堕ちたように。

 そして男の手が私のお尻を揉みしだき、割れ目の奥まった場所を指で擦られます。


「ひ、ぅ……」

「ここに皇帝陛下のものを突っ込まれてるんだろ? 俺たちにも試させてくれよ」

「ハハハッ、ちゃんと気持ちよくしてやれよ。体に教えてやんねぇと」

「分かってるって。ほら」

「んっ、ぅ……いやっ」


 男は指を濡らして奥まった場所をいじりだす。

 陛下を何度も受け入れたそこは男の指の刺激を受け入れてしまう。


「ああっ、う……くっ」


 腰をよじって逃げようとすると「オラ逃げんな」と両手で腰を抑えつけられました。

 身じろぎすらできなくなって、別の男が私の足を掴んで大きく開けさせて。


「い、嫌ですっ。見ないでください! いやです……!」

「ちゃんと見せろって。よがり狂うくらい可愛がってやるから」

「そうそう、すぐに良くし」


 ――――ザシュッ!


 え?


 目の前で血飛沫が舞いました。

 私を襲っていた男が首から血飛沫を噴いて倒れます。

 その血飛沫の向こう。そこに立っていたのは……陛下。

 陛下は片手に剣を握っていて、剣は血で汚れていました。


「陛下……。どうして……」


 私は呆然と陛下を見上げました。


「クソッ、いきなり何しやがる!」

「殺せっ、殺せーー!!」


 私を襲っていた男たちは剣を抜いて陛下に襲いかかりましたが、ガキンッ! ザシュッ!! ザシュッ!!

 陛下は一人、二人と剣で倒していきます。

 陛下は殺した男など一瞥もせず私を見下ろしていました。そして背後に向かって命じます。


「ここにいる全員一人残らず捕らえろ! 一人も逃がすな! 今、帝国にいるすべての貴族を尋問し、本件に関わった者を全員あぶりだせ!!」


 命令と同時に武装兵士の部隊がいっせいに動きだしました。

 逃げ惑う人身売買組織の男たちをあっという間に捕縛して制圧していきます。

 でもその間も陛下は私から一瞬も目を逸らしません。


「へ、陛下……」


 黙ったままの陛下に呼びかけました。

 でも私は自分の今の姿を思い出して青褪めます。


「申し訳ありませんっ。このようなっ……」


 破かれた衣装をかき集めて少しでも肌を隠します。

 でもこんなのは無意味で、私は唇を噛んでうなだれる。きっと、きっともう陛下は幻滅したのです。もう……。

 ふわりっ。

 その時、肩から柔らかく温かなものが掛けられました。

 それは体をふわりと包む大きなマント。

 そのマントに目を大きく丸めました。だってそれは陛下の……。


「へ、陛下……」

「マリス」


 私が顔をあげたのと、陛下が私を抱きしめたのは同時。

 陛下は覆いかぶさるように私を強く抱きしめます。


「マリス、マリスっ……。ぅ、マリス……!」


 陛下の声は微かに震えていました。

 今まで聞いたこともないような弱々しい声。

 どうしようもない切なさがこみ上げて、私の視界が涙で滲んでいく。


「っ、陛下! 陛下……! うぅ、くっ……うぅ~っ」


 涙が溢れて止まりませんでした。

 怖かったんです。すごく怖くて、恐ろしくて、不安でっ……!

 陛下の厚い胸元に顔をうずめて子どものように泣きました。


「マリス、もっと早く助けたかった。すまない」

「いいえ、いいえ、陛下……っ。ぐすっ、ありがとう、ございますっ……。助けてくれて、ほんとうにありがとうございます……。うぅ」

「マリス、よく無事でいてくれた。こうしてまたお前を抱きしめられる」


 陛下が私をきつく抱きしめます。

 私も陛下の広い背中に両手をまわして抱きつきました。

 もう二度と戻れないと思った場所です。

 でも陛下はまた私を抱きしめてくれています。


「マリス」


 耳元で名を囁かれました。

 ゆっくり顔をあげると目元に口付けられます。

 甘やかな感触に目を伏せると、今度は奪うように唇を塞がれました。


「ぅ、ん……」


 見つめあったまま唇を離す。呼吸の届く距離。

 触れる時は奪うようだったのに、離れる時は切なくなるほど優しいのですね。

 堪らなくなって今度は私から唇に口付けました。

 陛下の首に両腕をまわして、しっかりと、離れてしまわないように。


「ふ、ぅ……ん」

「マリス……っ」


 唇を深く重ね、舌を絡めて口付けます。

 陛下も私に覆いかぶさるように強く抱きしめてくれる。私の背中がってしまうほど。

 もうひと時も離れたくなかったのです。私も、あなたも。

 でもここは外で、二人きりの寝所ではありません。

 少しだけ冷静になった私は陛下の口元にそっと指をあてました。


「陛下、外ですから、もう……」

「俺は気にしてない」

「でも……」


 困ってしまいました。私は気にするのです……。

 恥ずかしさと困惑で視線をわずかに下げると、陛下は私を抱きしめて目を閉じます。

 それはぐっと何かを耐えるような顔で私はますます困惑してしまう。


「陛下……?」

「……なんでもない。分かった、今は我慢する」


 陛下は名残り惜しそうにしながらも私から離れます。

 そして私の体をしっかりマントで包んで見えないようにすると、制圧を完了させた武装兵士を呼びました。

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