第5話 雪の中の取引②

 毛布にくるまれた少女たちは、目を閉じて横たわっている。死んでいる訳ではない。小さく膨らんだ胸が静かに呼吸を繰り返している。

 まるで眠れる美少女だ。

 何か薬でも飲まされているのだろうか。寝息だけで、動こうとしない。当然、荷台から逃げる子もいない。 


 集まった町の大人の男は8人、眠れる少女も8人。

 予約でもしていたのだろうか。丁度、対になっている。

 降りしきる雪の中、

 男たちの中で震えている者は一人もいない。むしろその体は燃えるように熱くなっている。

「俺は、あのぽっちゃりした子がいいな」

 ごくりと唾を飲み込む音が聞こえた。

「早く持って帰りたい」別の男が言った。

 その様子をサンタは満足そうに見ている。

「さあ、みなさんのご希望の子を取り揃えております。お好きな子をどうぞ」

 サンタはそう言って、「取り合いになって喧嘩はなされないように」と制するように言った。

 町の男たちはサンタの号令で眠る少女たちを取り囲んだ。

「ずいぶん、若い女の子が多いな」

 一人の男が舌なめずりをするように言った。

「そういうご要望がありましたので」

 サンタの男は薄ら笑いをして言った。

 その中、ある男が不安そうに、

「大丈夫か、この子たち、起きないのか? 起きたら逃げ出すんじゃないのか?」と言った。

 男が言った疑問は最もだ。だがそんな疑問を呈したのは、何も知らない男だ。常態化したプレゼントのルールを知らないだけだ。

 不安そうな男に対して別の男がこう言った。

「この女の子たちは、逆らうことをしないんだよ」

 そう言った男は、去年も少女を買ったらしい。

 サンタは男の言葉を補足するように続けて、

「さようです。この子たちには、主人、つまり買主に対して従順になる躾を施していますので」と言った。サンタの男の付け髭が取れかけている。

「躾?」

「つまりお薬でございます」サンタは丁寧に言った。

 薬で主の男に逆らえないようにしている・・

 何の薬なのか・・少女たちの意思を喪失させる薬なのだろうか。いずれにせよ、危険な感じしかない。

 そもそもこの少女たちはどこから来たのか?

 もうお分かり頂けたと思うが、彼女たちは、B町で行方不明になった女の子たちだ。

 その反対に、このA町では少年たちが、行方不明になっている。


 この先、少女たちがどうなるのか。どんな運命が待ち受けているのか。

 それを左右する男たちは既に倫理観はない。


「さあ、家に帰って楽しむとするか」

 男たちはそれぞれの少女を家に運び込んだ。

 サンタはその様子を静観して、

「では、良い夜を・・メリークリスマス!」と言った。

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