第5話 夜の電話①

◆夜の電話


 こんな遅い時間に一体誰が?

 と思いながら、電話に出ない訳にはいかず、私はリビングの固定電話まで震える体のまま向かいました。

 受話器の向こうからは「もしもし」という同世代の女の人の声が聞こえました。

 誰の声だったか? 思い出せないでいると、

「ちょっと、さっきのニュースを見た?」

 相手は名乗りもせず、軽い口調で言いました。

ニュースの事よりも、電話の向こうの相手が分からない。こんな夜に電話をかけてくる知り合いなんていただろうか。

「だ、誰?」

 間違い電話だと思い、訊ねると、相手は「ごめんごめん、久しぶりだから分からなかったのよね?」と言って名前を告げました。

 ここでは彼女のことをA子ということにします。

 というのは、名前を聞いても誰なのか、思い出せないのです。


 A子は、「学生の時以来だものねぇ」と懐かしむように言った後、

「あの人、自殺しちゃったのよ」

 A子はいきなりそう切り出しました。

 一体、誰が自殺したというのでしょうか。

「だから、何の話? 自殺したって誰のこと?」

 自殺のこともそうだけど、そんなことをこんな夜に報告すること自体がおかしい。

 私にこんな礼儀知らずの知り合いはいないはずだ。


「さっきのニュース、見なかったの?」

 ニュースと言われても、私は映画を見ていたから全く分からない・・そこまで考えてハッと思い当たったことがあります。

 さっき勝手にチャンネルが変わった時、確か報道番組をしていた。

 その中で、誰かが自殺をして、数か月経ってから発見されたと言っていた。そのニュースのことでしょうか。

「分かった?」

 A子はまるで私の考えていることが分かるかのように言いました。


 悪寒が更に酷くなりました。立って受話器を握っているので、足がガクガク震え、そのまま卒倒しそうになります。まだそれほど年を重ねていないから良いようなものの、高齢だったら、この場で心臓が止まってしまいそうです。

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