そういうヤツ

大星雲進次郎

そういうヤツ

「ほら俺、そういうヤツだから」

 先輩はそう言って仕事に戻って行った。

 私は視線で追いかけるしかなかった。

 一般論を個人論にすり替えるのはずるいと思う。だって、議論しなければならない内容も、個人攻撃になってしまいかねないから。

 だから追撃も無駄だ。追撃すると今度は逆の謎理論で個人論を一般論にすり替えてしまう。


 私はトイレから帰ってきて、手の水をピッピしている先輩にこう話しかけたんだ。

「関西の人ってうどんと炊き込みご飯を一緒に食べるんですってね!」

 なのに、

「いや、それは極端な例で。確かにうどん屋さんで定食を頼んだら、かやくご飯が付いてくる店はあるけどさ?でも量が食べたいだけなら二玉にすればいいし、皆そうしてるんじゃないかな?ほら、梅干しのおにぎりと昆布のおにぎりと、両方食べたいみたいな感じじゃないかな?それに、ラーメンとチャーハンのセットなんか東の方でも普通にあるんじゃないか?それとさ、実は関西っていう言い方?括りされるの、俺嫌なんだよね。関西っていったら大阪のイメージだろ?お前ら。違うんだよね。大都市でも大阪と神戸と京都は全く違うし、お隣さんでいけば、大阪と堺、松原か?も違う。地元民に言ったらマジ切れされるぜ?」

「……そんな、そんなに畳み掛けなくても。私先輩とお話ししたかっただけなのに」

「あ、スマン。またやってしまったか。ほら俺、そういうヤツだから」

 本当に腹が立つ。先輩、後輩が求めていた答えはこうですよ。

「あ~なんかそう聞くよな。じゃあ今日の昼、うどん屋で確かめて見ようぜ。言い出したのはお前だから、お前の奢りな!」

「センパイ、それ酷くありません?こんなに可愛い子とお昼食べるなら、感謝代が必要ですよ」

 みたいな。

 それはともかく、先輩はそんなのばっかりなのだ。

「九州男児って豚骨ラーメンばっかり食べてるんでしょ?」って言うと、「○田のリンガーって他より旨いからそこばっかり皆行ってるよ!」とか言う。リンガーハッ○はどこも同じ味だよ!

「ホームの内側って線路側だと思ってた」って言うと、「お前、危ないな!普通内側だろ」とか言う。だから内側なんでしょ?

 なんかもうイライラしてきた。

 先輩を構ってうっぷんを晴らそう。


 彼の机は、三つ向こうの島にある。

 給湯室に寄って、私と彼の分コーヒーを入れて(彼はブラックで酸味少な目が好みだ)、持って行く。

「先輩、お疲れさまです。はいどうぞ」

「お、ありがとう。ぜんぜん疲れてないけどな」

 先輩は嬉しそうに受け取ってくれる。

「さっきはスマンかったな。おわびに昼飯おごってやるよ。でもうどんとご飯一緒の所は無しな」

「え~試してみましょうよ」

「俺、14時から会議でさ。そんなに食ったら眠くなっちゃうだろ、普通は」

 出ましたよ!自分のことなのに一般化しちゃった!

 私も同じ会議だけど、先輩すきなひとの横の席だから、絶対に眠くならないでしょ!常識的に!

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そういうヤツ 大星雲進次郎 @SHINJIRO_G

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