*KRIS'S DETERMINATION

「はい、どうかなさいましたか」

クリス「ああ。騎士です。」

「おお、騎士様ですか、この度はどうかなさいましたか??」

その男は何処か焦っているように見えたが、まあいい。私は興味ない。

クリス「…突然来て申し訳ございません。

ここって…目をくり抜いたりは出来ますでしょうか」

「へ?」

クリス「できるのかと聞いています」

「え、ええ。やろうと思えばできますが…

何故ですか?」


謎な感情が湧き上がってきたので、一度大きな深呼吸をした。

震える手も殺し、私は決意に満ち溢れた。


クリス「……強くなりたい」



「強く…ですか。」

クリス「ですから、お願いです。

右目をくり抜いてください。

それだけでいいんです。」

できる限り悲劇のヒロインを演じる必要がある。

だから俯きながら偽りの涙を流した。

それが効いたのか、研究員はこくんと頷いた。

「わ…かりました、騎士様方の命令は絶対ですからね、どうぞこちらへ」

クリス「それと…もう一つお願いがあります」

「何でしょう?」


クリス「…私のことは煮るなり焼くなり、どうぞ好きにお使いくださいな」





「取り除きました」

クリス「ありがとう。」

「この目…何か変ですね」

クリス「ここだけの話だが、それは機能しなくなったケツイの目だ」

「え、あの幻の…?」

クリス「そうだ。もういらないから捨てた。」

「……それ、不味くないですか」

クリス「何がだ?」

「お子さんはケツイの目を持てるのでしょうか…持てなかったとしたら…。

持てなかったとしたら、幻のケツイの目は絶滅したことに!」

クリス「…ケツイの目があってもいいことなんてないな。」

「そんなのはどうでもいい!

貴重な研究材料が…!!」

…そこまで聞いて、私は大笑いした。

「何故笑うんですか!」

クリス「はは……

いい狂い具合だ。

これが私の求めていた物かもしれないな。」

「…そうですか。

じゃあ…試してみましょうよ。」

クリス「は?」

「子どもを拵えてみましょう。そして、その子供がケツイの目を持っているのかを確かめるのです。これもいい実験です。」

クリス「………。」

子供を産む?

私は、コイツに全てを捧げないといけないというのか?

オモイビトはどう思うんだ?




「拒否権なんてありませんよね?」






…どうでもいいや。

そう思ったら一直線だから、私。


「よかった。反応がないということは、引き受けてくれるってことなんですね」

クリス「そうだよ。でもね、名前ぐらいは聞いておきたいものだ」

「え?私の名前ですか?


…ルベ・アレリンバですが、何か?」

クリス「………こういう時は、私が知っている名前であることが多いんだがな。

初めまして。クリスだ。」









ルベ「可愛い女の子だ」

クリス「知らないな」

ルベ「キミもここで鍛えたから、随分と強くなったね、ついでに口調もキツくなった」

クリス「殺されたいのか?」

ルベ「ごめんごめん、前言撤回しておくよ。

じゃあ、この子は実験に使わせてもらうってことでいいのかな?」

クリス「実験にというよりは…強くしてくれ。ソウルを思い切り鍛えてくれ」

ルベ「なるほどなるほど…」

クリス「約束だぞ」

ルベ「勿論守りますとも。

その代わり、クリス。

あのお願いも実行してもらうからね?」

クリス「………勿論。」

無事に子供も拵えた今、私に託された任務は一つだけ。


「ニンゲンサイドとしてモンスターに奇襲をしかける」こと。

彼曰くモンスターは邪魔な存在らしい。

なるほどな…騎士である私を雇ったのもその理由か。

実に合理的、実に狂気的。


ルベ「そうだ、クリス。

この子の名前ぐらいは考えさせてあげるよ」

クリス「え?あぁ…フリスクで」

ルベ「そんな適当に決めていいのかい?」

クリス「…理由はあるが…

お前が知る必要はない。」

ルベ「そうかいそうかい。

それじゃ、モンスター虐殺、よろしくね」

まだ何か言いたげだったが、そのまま研究室へと向かってしまった。


一人になった今、オモイビトをふと思い出していた。

ああ、キミはそういえばモンスターだった。

私の生きがいだった。悪く言えば、依存相手だった。

その依存先を投げやりにするということは…私は、オモイビトよりも大切な何かに依存しているということ。

ああ、それこそがオモイビトを投げやりにすると決めた、私自身。

今更ながら、私は私を愛したのだ。

ほらな。もう全てが手遅れなんだ。

手遅れってことは、もうこの先は破滅の道しか残っていないということだ。

ならば、誰よりも私に愛されているこの私が破滅に導くべきだ。

当然フリスクも道連れ。


これまた面白い名前だろ?

クリスを分解して、並べ替えればリスク。

そこにFIGHTのFをつければフリスクの出来上がり。

フリスクも私と同じように愛してあげるよ。

その代わり、全てをFIGHTに捧げるがいいさ―。




一方ルベは、もう一人の女研究員に状況を説明し、早速実験にとりかかろうとしていた。


ルベ「騎士はチョロいな!ハッハッハ!!!


…さて、まずはケツイの目を量産するところから始めよう!」

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