02.牢獄

まずはここを出てからだ。

きっと、オマケの能力は何かを買う事で箱を貰える能力なのだろう。


ふとこの扉に来る前の事を思い出す。

考えればあのマルセルさんという兵士は、俺は何かを伝えようとしていたのではないか?そして最後のあの謝罪。きっと抗えない力関係があったのだろう。所詮は兵士だ。国の意向には逆らえないのだろう。


だが、それでも食料となる干し肉を買わせ、武器を選ばせ、そして、無駄になるであろう手持ちのお金を全部使わせ……無理と分かっていても僅かな延命に賭けようと配慮してくれたのだろう。


あの兵士だけは許そうと思った。


だが他の奴等は絶対に許さない!どんなことをしてもここから抜け出し、必ず復讐してやる。そう心に強く誓った。


再び干し肉を出し齧り付いた。やっぱりクソ不味かったし、オマケは出なかった。

その時、俺はブルりと震えがきた。

反射的に壁に張り付く様にして息を潜める。


遠くからこちらにゆっくりと近づいてくる何かに震えが止まらない。ガチガチと歯が鳴るのを抑えるように制服の袖を齧る。


そして、目の前を黒いオーガが歩いている。

あれは、50階層にいるブラックオーガに似てるが角は4本ある。

明らかに違う見た目にさらに上位種なのだろうと思った。かろうじて悲鳴をあげなかったのは、水分を取っていない喉がもはや声を発することすらできなくなっていたからだ。


ただただ見つめていた。

そしてそのオーガの上に見えた文字に笑いそうになり口元を塞ぐ。


――― 4本角のブラックオーガ(闇)


なんと安直な……

ゲームと同じように意識してみると魔物の頭上に名前が出るその見た目に、少しだけ緊張がゆるんだ。


やっぱりこれはゲームの世界だ。ここを出ることさえできればゲームの知識で無双できるかもしれない!

そうは思ったが、それと同時に、今はここを出ることができずに無様に死んでしまう未来しか見えないことに、またも気持ちが沈んでゆく。


どう考えても無理ゲーだと思った。


俺は節約しなくてはと思っていた水筒を取り出す。

残念ながらこれにもオマケは付いていないようだ。

大事に一口だけ口に含んで渇きを癒す。そして別の干し肉を取り出すとオマケの存在に気付き頬を緩ませる。


鉄箱だ!それを開いて出たのは黒パンだった。

そんな簡単にレアが出るかよ!あほか!

期待してしまった自分に悪態をつきながら齧った黒パンは、固いがそれなりにうま味もあった。

そして俺は、ここにきてやっとこの危険なダンジョンで一番やらなくてはならないことを思い出す。俺の唯一の武器を取り出さなくては話にならない。


できれば良いオマケがついてくれたら……震える手を袋に突っ込み、目をぎゅっとつぶって剣を引き出した。


目を開けると、そこには購入した鉄の剣。その横に見えた虹色に輝く箱が浮かんでいる光景に、思わず全力で叫びそうになった。


危ない危ない。大声をあげればどんな魔物がくるか分からない。

俺は開いた手で口を押さえながらその金箱に触れる。


ふわりと虹色の光りが広がり目がバカになるかと思った。そんな俺の手の中には、禍々しい闇を放つ黒い剣が圧倒的存在感を放って握られていた。


――― ソールイーター(闇):闇の魂を喰らう魔剣


俺はその説明を見て、一筋の希望を感じた。

名前の通りなら闇属性を持つこのダンジョンの敵に無双できる……


生き残る可能性を秘めた魔剣。


そして俺は、引き返してきたであろうあのオーガを見てひっそりとまた壁と同化した。

緊張に手が震える。

自分の尊像の音がドンドンと大きな音を立てている感覚に、気付かれてしまう危険を感じ汗が止まらない。


いかに特攻を持つとは言え俺はレベル1と言っても良い。

この世界にレベルは無いようだが、能力値がある以上、レベルが上がるような概念もあるのだろう。少なくともゲームでは敵を倒せばレベルは上がった。

そんなレベル1が不意打ちだろうと一撃で倒さねばならないのだ。


ここはゲームではない。生死をかけた一撃だ。


さっき食べた干し肉が戻ってきそうだ。

口を抑え涙目になりながらその酸っぱい逆流したそれを飲み込んだ。


そして目の前を通り過ぎるオーガ……

俺は、両手で剣を持ち、全力で飛び上がると体重を掛け首筋に剣を突き刺した。


グオーと響く声とともにオーガが反転し、その太い腕が俺を吹き飛ばす。鈍い音とも共に吹き飛ぶ俺は骨が何本が折れたことを理解した。


殺される……そう思い震えながら目を開けるとこちらをギロリと睨むオーガ……


呼吸が止まり、身動きできずにただ見つめている。


そして、遂にオーガがぐらりとバランスをくずし膝から崩れ落ちた。その数秒後、オーガは消え、大きな黒い石と4つの角を残して消えた。


ドロップアイテム……


そう思った瞬間、俺の体が熱く燃えるような感覚に唸る。

その熱と痛みに体を丸め堪えていた。


そして全身の痛みが引く。

俺は丸まったまま床に転がっているが、そんなことよりステータスだ。開いたステータス表示には俺の能力値は大幅に向上していたことをしっかりと示してくれていた。


腕力 550 体力 550 素早さ 550 魔力 1100


さらには、スキルの欄に新たなものが記載されていた。


剣術:剣術は剣の扱いがうまくなる

的中:急所への命中率が上がる


体はどこも怪我してはいないようだ。ゲームと同じでレベルアップにより全回復ということだろう。


俺は角と魔石を回収すると手の中には鉄箱があることに気付いた。

ドロップアイテムにもオマケが付くのか!

その場で飛び上がって喜びたかった。


無言なら良いだろう。そう思って飛びあがってみる。

やってみて分かった。結構むなしいものなのだと。


お待ちかねの鉄箱と開く。


オーガの鎧(土):物理攻撃に強い全身鎧


それなりに良いクラスの鎧が入っていた。鉄箱とは言えこの世界でも最難度のダンジョンの魔物だ。街の鉄の剣でさえこのソールイーター(闇)なんてレアが出たのだ。あのオーガから金箱が出たら……

とは言えこの鎧は良い物なのだろうが、さすがに重いので装備するのは止めた。そもそも今の俺のステータスならいくら鎧で底上げしようが一撃でお陀仏だ。素早さ大事。


俺は慎重に次なる獲物を探し歩きだした。



◆◇◆◇◆



総合・王国専用掲示板★2965


265: 城勤め文官

勇者降臨!

召喚に立ち合った勝組の俺登場!


266: ただの名無し

詳細ヨロ


267: ただの名無し

早く!


268: 城勤め文官

勇者はちょっと素行が悪いがまあ強者特有のあれだろう。

元の世界でも強者だったもよう。


なおオマケが付いていた。


269: ただの名無し

どう言う事?


270: 城勤め文官

そのまんま。

勇者と一緒に召喚されてきた男の天賦がオマケだった。


能力値が俺より低かった。


271: ただの名無し

何それウケル。


271: 城勤め文官

多分ゴブリンにも負けそう。


272: ただの商人

ひでー。


273: 城勤め文官

そして牢獄行きが決定。


274: ただの御貴族様

うわー。


275: ただの名無し

牢獄行きって?


276: ただの御貴族様

牢獄って言ったら極閻牢獄だろ?


277: ただの商人

ああ、マジか死んだな。


278: 城勤め文官

隣国に送るって言われて少しホッとしてる情弱にワロ。


279: ただの名無し

いや情弱て、召喚者だろ。カワイソス。


280: ただの名無し

んで勇者の方は?


281: 城勤め文官

お付きの侍女にデレデレして陥落。

国の為に全力尽くすってさ。


なお、訓練で真面目にやらずに騎士団長激怒。

だがその能力はメキメキ上がって強くなっている謎。


282: ただの御貴族様

勇者天賦淒杉裏山。


283: ただの名無し

俺も見た。あのへっぴり腰でなんで人を吹き飛ばせるのか?


284: ただの名無し

マジ?


285: ただの名無し

それはマジ。


団長はさすがに耐えたけど、副長吹き飛んで壁に激突。

僅か数日で勇者姿勢良くなってきてる。


自信付いてさらに偉そう。


286: ただの名無し

勇者に誘われた私涙目。

侍女に助けられ新たな性癖に目覚めそう。


287: ただの名無し

ユリ乙。


288: ただの商人

だけど強さは本物っぽいね。

これで帝国に勝てる?


289: 城勤め文官

タイマンなら無双するのも時間の問題だな。

後はスキルか……多分だけど大量殺害魔法とか覚えそう。


290: ただの商人

新たな魔王誕生?


291: ただの御貴族様

怖いからヤメーや。

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