勇者のオマケ

安ころもっち

01.召喚

俺は黒田誠司。高校3年のただのゲーマー。

だが引き篭もりではない俺は毎日休むことなく学校へ登校する。


そして、クラスのボスである新見龍弥に毎日殴られ続けていた。

いっそこいつを殺して俺も死のうか……


そう思ったことは数えきれない。


苦痛に耐える日々を乗り越える為、やり込んでたネトゲ『サモンズサーガ』を眺めながら口ずさむ。こんなゲームの世界ならあいつを何度も切り殺してやるのに……


そして今日も校庭の裏で意味もなく殴られていた。

今日は「お前のその鼻の形が気にくわない」からだそうだ……きっと理由は何でも良いのだろう。


そして龍弥の拳の痛みに耐える中、俺は、いや俺たちは、地面に突然描かれた光の紋様に包まれ胡散臭い城の一室へと飛ばされた。


「国王、オーレリアン・ガレルである」


そう言ったのは目の前のまんま物語に出てくるような王冠を被った王様だ。


その近くにはそれこそどっかの凝った演劇で見るような貴族のような男が3人。その内の一人はローブのような物を着込んでいる。

もちろん俺は、それを見て何をふざけてるんだ!……とか、お前たちは何なんだ?ここはどこだ!……なんて言わない。これはあれだろ?異世界召喚ってやつだろ?


これで本当にドッキリでしたー!なんて言われたとしたら、日本の技術はここまで来たかと逆に混乱してしまうだろう。

さっきまで居た場所とは違う場所で、ありえないほどの衣装を身に纏う者達。極めつけは日本ではありえなに石を積み上げたであろう壁を見て、ここが日本のどこかだと思う奴はただのアホだろう。


そして、王の横にいる男に言われるがままにステータスを開く。


呆気に取られていた龍弥もやっとステータスを開いていた。


ステータスには天賦:勇者とあった。

スキルこそないが能力値には100前後の数字が並んでいる。これが高いのか低いのか判断は付かない……


俺は、そんな龍弥のステータスを見て頭を悩ませる。

これは、俺が賢者か何かなら良いだろう。だがそれ以外なら、俗にいうハズレ枠なら、人生がここで終わってしまう……


そんな、胃がキリキリと痛む中、自分の開きっぱなしで見ていなかったステータスを見る。


天賦:オマケ


そう書いてあったステータス画面に両膝をつく。

当然の様に同じくスキルは無いし、素晴らしく低い能力値であった。


腕力 10 体力 10 素早さ 10 魔力 100


唯一、魔力だけは龍弥と同じぐらいあるが、どう考えても低い能力であった。

俺は、ここにきても龍弥の、勇者のオマケ扱いなのか……


顔を上げると、目の前の王は顔を歪ませる。


「そこのオマケくんは……後で隣国にでも送ってあげよう。のんびり暮らすが良い」

酷い言われようだ。


「いや、元の世界に返して下さいよ!」

「それはできんのだ」

「そんな……勝手に連れてきて、酷いじゃねーか!」

怒りのままに叫ぶ。


「うっせーオマケ野郎!」

突然龍弥に殴られた。


殴られ慣れた俺には、いつもの痛み具合でやはり夢でもないのだと確信し愕然とした。


そして、有頂天になって王に褒めちぎられる龍弥を眺めながら、引きずられるように兵士3人に連れられ城を後にした。城を出るぐらいには自分で歩くことを許され、気落ちする中、何とか足を進めている。


俺の一番近くで相手をしてくれたの兵士はマルセルと名乗った。その他の2人は上級騎士という立場で、マルセルさんの上官らしい。

城を出た城下町では、隣国に行くための準備として支度金に金貨10枚を手渡された。


この金貨10枚で100万ドールとなるらしい。

平民なら1年は暮らせ金額だと説明されるが、異世界に拉致されたお詫びとしては少ない金額ではないだろうか?


だがこの金貨は、当面の生活必需品としての支給だとも説明された。今からこの店で買い物をしろと命じられ、良く分からないままその店内を見渡した。


それなりに美味しそうなものがあり迷う。

この果物も美味しそうだな。そう思って手に持とうとした時……


「干し肉を多く買いなさい」

マルセルさんがそう言って手を掴まれる。


「僕は、隣国に送られるのですよね?長旅になるのですか?」

「いや、それは一瞬だ。だが念の為、そういった備えもしておいた方が良い」

なるほど。確かに万が一の備えと言うのも必要だ。


「剣も買っておいた方が良い」

「えっ?そんなに治安が悪いのですか?」

「いや、そう言うわけでは無いが……帯剣するだけで虚勢を張れるので、有るに越したことはないのだ」

なるほど。中世ぐらいの世界だ。ハッタリも大事なのかも。


そう思って金貨5枚のそれなりの剣を買った。この店では上から数えた方が良い剣であった。


「干し肉もそれなりに買ったし、あとは残しておこう、かな?」

ちらりとマルセルさんを見る。


「全部……金貨は使いきった方が良いだろう。ほら、万が一の薬草も、毒消しも少しあった方が良い。万が一にも、な……」


使い切った方が良い。そんなアドバイスに困惑する。

無一文で隣国に行って良いのだろうか?


「なーに、隣国に付けばすぐに仕事で稼げる様に手配してある!心配するな!」

「そう、なんですね」

そう言って店のおじさんにいくつか指定して、後は全部干し肉で、と金貨10枚を出してみる。


「ありがとよ!」

「袋は……ほら、これを使え。一番安いのだが10キロ程度なら入る袋だ!」

そう言て古臭いボロボロの袋を渡される。


「おい!いつまでかかってるんだ!」

他の2人の兵士がが怒り出す。


「あ、待って。じゃあこれに全部入れて下さい!」

慌ててそう伝え、購入品を袋に直接入れてもらう。


試しに中を覗くと剣も干し肉なども見えず真っ黒な闇が見えた。


不安になったが「袋に手を入れると自然と何が入っているか分かるぞ」と言われ、その袋の口を閉じるようにして持つと、先に行ってしまった2人の兵士を追いかけた。


そして城に戻ると大きな扉の前へ到着した。


厳重な監視の中、2人の兵は「さっさと行け!」と冷たい声で怒鳴り、手をヒラヒラさせ扉まで案内される。


謎の光を放つ扉の空間の前に立ち、ゴクリと喉を鳴らして扉の変な膜をくぐる直前、マルセルさんが「すまん」と顔を歪ませたのが見えた。それに返答することなく体は扉へ吸い込まれ、俺は暗がりの中に転移したことを理解した。


背後を振り向くと扉はもう消えていた。

キョロキョロと見渡すと、そこはまるでダンジョン。石の壁が奥深くまで続き、闇に消えていた。


「ステータス!」

もう一度そう声を出す。


すると、目の前に浮かび上がった表示に既視感を感じる。


いや待て?なんで気付かなかったんだ?

これは『サモンズサーガ』のシステムウインドじゃねーか!


そして俺は、ステータスウインドを見て絶望した。


――― 現在地:極閻牢獄 B77


あのゲームの最難関ダンジョン、極閻牢獄。

しかも、俺が知る限り最深部は55Fだ……どういうことだ……いや。むしろ階層なんてどうでも良い!ここは、たとえ入口付近だってレベル1なら瞬殺だぞ!


そんな中、街で買えるような粗雑な剣1本でどうやって逃げ帰れというんだ。


俺は、絶望の中その場で大の字に寝ころんだ。

異世界に召喚され、そしてすぐにゲームオーバー。俺の人生は何だったんだ。


そんな虚無感を感じながらも干し肉を出す。


なぜか手にある何かに気付く。

木箱と名のついたそれを無造作に開けると、干し肉の切れ端が入っていた……


「舐めてんのか!」

力いっぱい叫んだ後、投げ捨てようと思った切れ端を、貴重な食料だ。とそのまま口に放り込んだ。


くそまずい!

咀嚼しながらそう思った。


だが、この木箱にも見覚えがある。

課金なんかのガチャを回した時に出るあれだ。木箱は一番クソな奴しか出ない。そこから鉄、銅、銀、そして金箱。イベントなんかでは虹箱なんてものもあったな。


この世界でも虹箱が出て一気に勝組に!なんてことになるだろうか?

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