03.枯渇

あれから一週間。

干し肉もすでに無くなっている。


水も途中で無くなったが途中で泉を見つけ事なきを得た。


その泉の水を飲んだわけではない。

泉は毒々しい色をしていたのでとても飲めるものではないと判断した。そこに居たマーマン(猛毒)をなんとか倒し、ドロップ品から出た銀箱により、水魔法のスクロールを獲たのだ。


俺は自ら飲み水を出せるようになった。

最初に上を目掛けて水筒に落ちるように調整したウォーターボールを出すのには苦労したが、慣れると簡単に飲み水を確保することができた。


ちなみにオーガはあの後3体倒したが一度もオマケは出なかった。

もしかしたら一種に付き1回だけなのか?そう思って移動したが、その後に遭遇したインテリジェンスマッドアイ(闇)という魔物からもまだオマケは得ていなかった。


階層は3つ上がり74階層。

あれからレベルも上がり続けているようですでに常人とはかけ離れた身体能力となった俺は、サクサクと魔物を倒し続けている。


スキルも増えた。


抜刀術:高速の抜刀術を放つ

見切り:相手の少し先の剣筋が見える


二つの剣術に関するスキルを得ている。

水魔法を使っている影響かは分らないが、魔力強化という魔法攻撃が上がるスキルも得た。


魔力強化:魔力値を倍増させる。


すでに戦力的にはほとんど問題なない。

だが問題があるとしたら食料だ。


干し肉を食べ尽くした俺には水しか残っていない為、食料の調達が死活問題であった。


そんな俺の前には脂ののった豚肉が近づいて来てやや混乱している。

涎を垂らした醜い豚の顔の魔物……ジェネラルオーク(闇)という魔物がとても美味しそうに見えてしまう。


ジェネラルオークは確かにこのダンジョンにいたはずの魔物だ。だが50階層近くに生息するレアポップな魔物で、しかもその属性は土であったはずなのだ。


だが闇属性であれば敵ではない。

そう思いソールイーター(闇)を持ち切りかかるがどうしても止めが刺せない。


こいつはゲームの中の土属性の奴なら稀に肉を落とす魔物だ。全体チャットでは「土の上に落ちた生肉は食べてはいけません」なんてネタになったが、高値で売れるそれは人気があった。

だが、目の前の属性違いのこいつは果たして肉を落とすのか?それにゲーム内でも肉を落とすのは稀なことなのだ。ほとんどが豚皮というゴミが出てガッカリするのだ。ならばこのまま生きたまま齧り付いて……


そう思うとどうしても手が止まってしまう。

豚の攻撃は必死で躱している。多分だが一撃当たれが肉体が弾き飛びかねない。命の危険に速やかに倒したいのだが……


俺は、意を決して雑念を捨て、震える手に力を籠めて止めを刺した。


目の前に落ちた黒い豚皮の布切れを見て膝をついた。

絶望と共にそれを拾い上げ涙する。


もちろんその、黒い豚皮の布切れ(闇)は恐らくだが上位装備の素材になりそうな物だろうが、そんなことは今はどうでも良かった。

俺の手の中に収まる銀箱を見て歓喜した。


急いてその箱に指をあてると光と共に目の前には美味しそうなお肉の塊が出現した。無我夢中で齧り付く寸前に "これは生肉だ" そう思って動きを止めた。

さっきまではオークに齧り付いてしまおう!とさえ思っていた俺も、かろうじて残っていた理性がブレーキをかけてくれたのだろう。生肉を喰って食中毒でこの世界をゲームオーバーなんて悲しい最後だ。


そう思って肉をじっと見る。


――― ジェネラルオーク(闇)の霜降り肉:生でも食べれるその極上の味に思わず筋力もアップ(効果/24時間)


俺は必死で喰らい尽くした。

その後も必死にオークを乱獲し、ついでに様々な魔物を倒し続けた。


どれぐらい時間が経っただろう。

俺は70階層から77階層付近を行き来しながら能力を高めていた。


確かにこちらに来た時と比べたら格段に強くなっている。きっとあの勇者である龍弥より強くなっているだろう。だが、どれだけ強くなろうともさらに上がいる可能性がある。

そもそもこの世界でここが最難関ダンジョンである保証もない。

さらに難度の高いダンジョンがあり、そこすら攻略するやつらが居ても不思議ではないのだから。


王国に復讐するのは決定事項だ。

だが、いざあの王をぶち殺すその時に、そんな奴等が出てきて返り討ちに合うなんてことがあってはならない。それに龍弥は俺と同じ異世界人であり勇者だ。勇者という天賦に相当な優遇措置があるのは目に見えている。

俺がここで必死に強くなっていても、あいつがそれ以上に強くなっていないという保証もない。俺はただひたすらに納得のいくまで狩りを続けた。


そして、ドロップ品から初めて虹箱が出た。

72階層のブラックデーモン(闇)という魔物であった。


すでに金箱までは何度か出ていた。武器もかなりヤバイものも出ている。暗黒刀(闇)、紅蓮黒杖(闇)、爆氷之籠手(氷)、魔反転之盾(闇)、聖者之錫杖(聖)、聖銀之短刀(速)などなど、それらは試すこともせずに色々と渋滞している。


今は空間を切り裂くことのできる折れない刀、暗黒刀(闇)を主に使っている。

他にも魔法のスクロールによりスキルもさらに増えた。


次元収納:容量無制限・時間停止機能有り

結界術:目の前に防御結界を生成する

転移術:一度行ったところに自由に転移できる。目視も可


だがゲーマーとしてはここらの階層で一度は虹箱を出しておきたかった。俺は期待を胸にそれを開け、虹色に輝くその光にまた目が潰れそうになる。

ゆっくりと目を開けると、俺の手の中には小さな指輪が乗っていた。


デーモンズアーマー(混沌)というものであった。


俺は思わず思わず唸った。


混沌属性は変わり種ばかりでネタ装備も多いので、無駄にエフェクトがあるだけの無駄装備も多数存在した。だが聞いたことのない名の指輪にアーマーと入っているのだ。少しは期待しても良いと思った。


緊張しながら説明文を確認する。


デーモンズアーマー(混沌):任意で認識阻害、威圧、常時発動で魔法攻撃無効


凄くない?

気付けば俺はガッツポーズしていた。


早速その指輪を付けるとシュルシュルと黒い包帯の様なものが俺を包み、気付けば真っ黒な鎧に身を包んでいた。うーん……俺は黒く包まれた手足を見て、次元収納から黒い無機質な面を取り出し装着した。


暗黒仮面(黒)。多分ネタ装備なのだろう効果の無いのっぺらした黒い仮面。これで俺は全身黒ずくめだ。怪しいことこの上ないな。流石に恥ずかしくなって仮面を外した。


そろそろ良いだろうか?

能力値も上がっている。強力な装備も揃っている。スキルも多数覚えている。食料も回復薬などももう十分に収納されている。


俺は、出口を目指し移動を開始した。



幸いなことに60階層あたりで再び虹箱が出た。

中から世界地図という全ての場所の地図が手に入り、そこからは一気に上へと目指した。次の階段へと一直線で進めるのは楽ちんだった。


そして数日かけてやっと10階層まで登った時、初めて人の気配を感じた。

叫び声を聞く分には苦戦しているようだ。


ここまで全く人には会わなかったが、もしかしたらこの牢獄は不人気なダンジョンなのだろうか?そう思いつつ様子を見るとグレートオーガ(闇)が3体。戦っているのは5人パーティのようだ。


戦士系2人。魔法使い1人、神官職に多分盗賊かな?

苦戦しているようなのでこっそりとバフを掛ける。身体強化、自動回復、いずれも道すがら狩った魔物から出た魔法だ。一瞬男の戦士がこちらを見た気もするが、そのから幾分持ち直してきたようだ。


新米冒険者なのだろうか?

結構年配のようにも見える。


それよりも女騎士がいる。

胸も結構……いや、それはちょっと失礼だったかな。


覗き見していることで何か言われるかもと思いながらも、ぽよんと揺れるそれに釘付けになっている。


「きゃっ!」

前線で戦う女騎士がオーガの持つ棍棒にはじかれる。


そして棍棒が振り下ろされ……


とっさに体が動きオーガを縦に切り裂いてしまった。


あっ……

その瞬間、戦っていた冒険者達も、残されたオーガ達ですら惚けた顔でこちらを見ていた。その沈黙にいち早く意識を取り戻したのはオーガだった。俺は即座にその2隊のオーガの首を刎ねた。


「お前は、何者だ!」

警戒する中、俺は口を開いた。


「俺は怪しいものでは無い。苦戦しているようだったから思わず足が動いてしまった。ハイエナ行為になってしまったとしたらすまん」

目の前の戦士職だと思われる男にそう言った。

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