第3話 使徒地に降り立つ⓷

(もう、消えてなくなるんだ)

シンは思った。

好きで始めたロックバンド。そのギタリスト。シンは傾きかけた深夜のアパートで命を断とうとしていた。

(才能は自分の努力。俺は努力してきた。才能あるかないかで言えば、ある方だろう。でも時流に乗れなきゃ、、、)

睡眠薬の薬包が何枚もシンの周りに散乱している。シンは服薬自殺、オーバードーズをしたのだ。次第に意識はとんでいく。走馬灯などは見えない。服薬自殺だから。

その時、電話が鳴った。シンは手を伸ばし出る。

「こちら、地上お悩み解決派遣員のジョン・レ⭕️ンって者だけど、風真心太かざましんたさん? これ、心太ところてんではなくて、心太しんたて読むの?」

「しらねェ…」

シンの脳はもう薬に犯されていた。思考は停止している。

「あんた、今、死ぬところだろ?」

「…しらねぇ…」

「意識しっかり持て‼️死んじゃ、ダメだぜ‼️」

「…し…らねぇ」

もう、シンは手遅れ。命は風前の灯火。そしてシンは死んだ、、、



硬いベッドの上にいる事にシンが気付いたのは、オーバードーズをしてから何日かたっている。

シンは目を開けた。そして身体を起こした。

「よう、お目覚めかい?」

見慣れない人がいる。シンはここが何処だかわからない。辺りを見た感じ病院の様だ。

声をかけてくれた人を見る。

「誰?」

シンは訊く。

「ジョン・レ⭕️ン、、、」

窓がその人の後ろにあるのか、眩しくて見れない。

「ジョン・レノン?」

「ジョン・レオンだ。よろしく心太ところてん

心太ところてんじゃねえ。シンタだ」

「まぁ、名前なんてどうでもいい。俺はお前を助けに来た。ここはあの世とこの世の狭間」

「何を言ってやがる、、、病院じゃねぇか、どう見たって」」

「そっちのカーテン開けな」

シンはジョンとは反対のベッドに近いカーテンを開けた。

「宇宙、、、」

そこから見えた光景は薄気味悪いぐらい大きな土星が見える、紫と漆黒の宇宙空間だった。

「ここは、、、?」

「俺たちのいるこの空間は、亜空間なんだよ。俺のいる窓の方が地球。そっちは土星。言っておくが窓開けんなよ。俺は平気だが、お前が開けると宇宙空間に飲み込まれて、二度と地上に帰れない。まぁ、地獄だ。寒いし、暑いし、何せ食いもんがねぇ。酸素もねぇ。水もねぇ」

「『テレビもねぇ、ラジオもねぇ、車もそれほど走ってねえ』ってか? 吉⭕️三の歌じゃねぇか」

「そんな余裕かませるほど、お前に自由が与えられているわけじゃない」

「なんだよ、何かこの後あんのか?」

「お前は決めなきゃならない。天国行きか、地獄行きか」

「俺は天国行けるのか?」

「俺が決める事じゃない。お前の今までの行いが決める事だ」

「俺の行い?」

シンは思った。自分の行いが良いか悪いかを。散々わがままいってきた。ギターしかかき鳴らしていない人生。

「地獄行きか?」

「そうか、地獄がご希望か。んじゃ、、、」

「待て待て待て、俺は訊いただけだ。なんかこうあるんだろう? 天国行きか地獄行きかのジャッジで申し開きが?」

「めんどくせぇ。とっとと決めて欲しかったたんだが、、、それじゃ、ほら、やってやる。まずはお前の一生をスクリーンに写すぜ」

「やってくれ」

シンは何とか天国へ行きたかった。苦しみ抜いた地上での生活に嫌気が指していたから。

「ほらよ。よく見な」

ジョンが指を鳴らすと正面に映写機が現れ、スクリーンが出てきた。シンの一生が映し出された。

「さ、じゃ、、、」

そう言って、ジョンはいきなり映像を早送りにした。

「え? なんで早送りに?」

「あのなぁ、お前が生きできた30年間をいちいち観てたら、30年経っちまうだろうが」

「そりゃそうだが、、、」

「ダイジェストに決まってんだろ。ほらこっからだ」

早送りされた映像にはシンがバイトをしているコンビニエンス•ストアーの映像からだった。

「随分端折ったな」

「良いじゃねぇか」

ジョンは悪意があるとは見えないが、どうも早く終わらせたいみたいだ。

「高校を出た俺は、バンドの為、金を稼いだ。有り金全部バンドに注ぎ込んだ。偉いだろ?」

この先の天国行きを考えて、シンは強調した。

「そんなの当たり前だ」

ジョンはにべもなく言う。

「で、バンドはオリジナル曲を出した。最初のやつは、、、」

「『AV』だろ? タイトル。アダルト・ビデオ、、、」

ちげーよ。AVはAVでもAudience Vだ」

「んで次に出したのが、『ヨーデル』、その次が『ヨーコ』、、、3つつなげるとAVヨーデルヨーコ、、、AVによく出るヨーコって事?」

ここでジョンはゲラゲラ笑いだした。

「全国のヨーコさんに謝れよ〜」

「ふざけんな! よく聴きもしないで!」

「だって、これ意図的にやってんだろ? だって、バンドの名前が『大自慢少年』じゃ、、、」

「そこはな、『大事マンブラザース』をリスペクトしてだな、、、て聞いてんのか!」

「あ〜まぁ良いや。前の2つは仕方ないとして、ヨーコはまずいだろ、ヨーコは。なんで人の名前なんかタイトルにしたんだよ」

「俺の彼女だ、ヨーコと言うのは。この曲で売れるはずだったんだ。それなのに、、、」

「それなのに?」

「『港のヨーコ・ヨコハマ•ヨコスカ』て曲が既にあった、、、俺はコミック•バンドと見なされ、曲は全く売れなかった、、、」

「いや、だってお前コミック・バンドだろ? 本名、バンド名、出した曲のタイトル、ぜーんぶコミック•バンドの要素てんこ盛りじゃん」

ちがーう 俺のバンドはストイックなハードロックだ!」

「あ〜笑える。そんで血迷って自殺か? いや〜俺だったら恥ずかしくて自殺できないよ」

まぁ、いい、これで天国か地獄か決まったな、とジョンは言った。

「地獄行き決定だよ。いやぁ〜こんなバカ見た事ない」

「待ってくれ! 俺は何も悪い事はしていない!」

「ヨーコさんを傷つけた罪、加えて自殺して天国に行けるわけねぇだろ。ある意味、地獄行きの直行便に乗っていたんだよ、トコロテン」

「トコロテンって言うな!」

あはは、とジョンは笑う。

「…思えば、俺の一生は悲惨だった。親が優しい心の持ち主になれと、心太てつけた時から、俺の一生は決まった。馬鹿にされ、イジメに遭っても俺は挫けなかった。地獄に行ってもギターだけは手放さねぇ。地獄の底で俺のギター、聴かせてやるぜ、、、」

「うだうだ言ってねーでささっとその窓開けろ」

「見てろよ、俺を馬鹿にした事いつか後悔させてやる」

そう言って、シンは窓を開けた。窓から空気が漏れる、何かも外に吸い出されていく。シンは地獄へ旅立った、、、

⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️


「あれ?」

シンは先程いた部屋と変わらない部屋にいた。

「ここは、、、地獄、、、?」

「シンタ! 死んだかと思ったよ〜」

「ヨーコ! いつから地獄に?」

「夢にうなされていたものね。大丈夫よ、悪夢を見ていたのね? 明日からあなたはスターよ」

「え? え?」

「よう目え覚めた?」

そこにはヨーコの他にバンドのメンバーもいた。

「俺たちの新曲、『ヨーコ』、売れに売れているぜ? ここでたら、地獄の様な忙しさだってよ。結婚だってしなきゃだろ?」

「だって、俺、ジョンから地獄行きだって、、、」

「あれ? お前、ジョンさん知っていた? 新しい俺たちのプロデューサーだぜ? 一体いつ、、、」

シンは思う。そうか、この世は地獄だよな、、、と。それにジョンは最初に助けに来たって言っていたっけ、、。









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