小説のシュルレアリスム
「小説のシュルレアリスム」
「シュール」というワードは、例えば奇抜なコントなどの世界観に於いて使われるようになり、ある種形骸化した言葉となっている。それは恐らく、「シュルレアリスム」という言葉がダリやマグリットらの奇想天外な絵画作品と強く結び付けられているからであろう。勿論、ふたりともシュルレアリスムの運動で認められた美術家であり、彼らをシュルレアリストと呼んでも差し支えはないであろう。
しかし、美術に於けるシュルレアリスムこそが、シュルレアリスムの源流であるという認識は正しくない。そもそも、シュルレアリスムは文学、殊に詩歌の分野に於いて興った文芸運動なのだ。その運動の中核を担うアンドレ・ブルトンはちょうど今から100年前(2024年現在)に『シュルレアリスム宣言』を発表し、それが事の始まりとなった。より厳密なアプローチをするのであれば、シュルレアリスム運動はブルトンとその周囲に居た芸術家たちが構成員なのだが、面白いことにこの運動は無関係な過去の偉人や同時代の人間、非文学者すら集める性格があり、無理矢理シュルレアリストにされた芸術家が数多く存在する(むしろそれの方が多いくらい)。シュルレアリストたちは詩歌以外でも、演劇や小説にも彼らの方法論が適用され得るのだと考え、実に幅広い活動を行った。構成員には、『アンダルシアの犬』などの代表作がある映画監督のルイス・ブニュエルも居た。そして、美術家では、彼らの信条が何にせよ、ジョルジオ・デ・キリコ、サルバドール・ダリ、ルネ・マグリット、マックス・エルンスト、ジョアン・ミロ、フランシス・ピカビアらが認められた。
数々の芸術家を追放して、構成員を大きく変質させながらも、ブルトンが亡くなるまで、シュルレアリスム運動は存続した。そして、現代文学運動では珍しく、今もなお後継者が居て、美術に限れば一般の人にも知られた運動として、明白な影響力を有している。そして、小説に於いても、運動の本拠地であるフランスから飛び出し、アメリカのウィリアム・バロウズや日本の安部公房などなど、後の世代の世界中の作家たちが、挙ってその手法を取り入れている。
では、本家の作家たちによる小説は如何様か。それは名作たりうるものとして読み継がれるものだろうか。そして、そもそも「小説のシュルレアリスム」は実現可能なのか。これらの問題を解決すべく、私は白水社がかつて出版していた小説シリーズ「小説のシュルレアリスム」の作品と、その周囲にある作品を集め、検証することにした。
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