『ヴァニラの木』 ジョルジュ・ランブール
ジョルジュ・ランブールは、日本は勿論のこと、母国フランスでもあまり知られていない作家だ。ランブールは同じくシュルレアリスム運動の一員であったスーポーと同様、行く宛のない放浪の旅を嗜んだ作家だ。もっと言えば、その旅の意識こそ、ふたりをシュルレアリスム運動に参画させた要因とまで言えよう。だがしかし、彼の代表作とでも言うべき『ヴァニラの木』には、方法論的な面でのシュルレアリスト小説ではない。運動に接触したとはいえ、旅を好んだ彼は、その中核者たちとは行動をせず、現場に殆ど居なかった彼は少しずつ離反していったのだ。だから、方法論に関しては、全く洗礼を受けていないのかもしれない。
『ヴァニラの木』は、局地的にしか棲息しなかった熱帯植物が、如何にして大陸を横断して、文明を象徴する香料に至ったのかをフィクション化した作品だ。あらすじは以下の通り。話はバニラの原産国であるメキシコで始まる。ド・ボナルド夫人は娘・ジェニーにバニラの存在を明かし、開拓者・ヴァン・ホーテンには隠すように言い付けられる。しかし、その種子の存在を開拓者に見抜かれてしまったジェニーは、彼と共に異国の地で栽培することになった。バニラの種子はインド洋に浮かぶレユニオン島の土に埋められ、現地住民の情事と並列するが如く、実を成すのであった……
はて、本作は言うまでもなく、開拓された「文明」と森が象徴する「未開」の拮抗を描いている。その二律背反に基づいた小説の構造は、奇しくも似たような異郷の地を舞台とした、ロマン派的な葛藤を描いたグラックの『アルゴールの城にて』とどことなく似ている。ある種の文明批判としても読める本書はしかし、寓意的性格を具えつつも、如何にも立派な小説然となっている。
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