第27話:東京最後のダンジョン。其の3


「……時!?コン!?」


「よっ碑矩!……遅かったか?」「やっぱり動画で見るのと実際に見るのじゃ精神の減りようが違うなココ……」


 突然現れた二人に驚愕する碑矩だが、時はまずはコーヒーでも……とリビングに向かった。そして一服しながら今までの状況を整理し始める。


「とりあえず……。俺らは条件付転移魔法ディチューンテレポート」っていう奴でここに来たんだ」


「条件を指定すると魔力消費量は増えるけど選んだ条件の場所に転移する魔法なんだってさ」

「まぁそれで『今ミミって名前でダンジョン配信してるやつの場所』まですっ飛んできたって訳だよ」


 便利すぎないか?と思ったが、コーヒーを豆から挽いているあたり本当に魔力がカラっケツになる様子。しかも最高級品のブラックアイボリーなる物を一から挽いて、自分で最高濃度になるよう作ったサイフォンでコーヒーを淹れブラックを一気飲みする。


「ハー……。これ百グラム五万円するんだ。お前らも飲むか?」


「……。高いコーヒーってアレだろ?猫のウンコから取ったコーヒーだろ?」


「こいつはゾウのウンコからとれた豆で出来たコーヒーだぞ。味は旨いが」


 そんなの飲んでるのか……。とドン引きする碑矩とコン。ちなみに持ち込んだ物なのでモノクロではない。……が、モノクロと見まがうような黒さである。


「んで?今どこまで進んだんだっけ?」


「二人が屋上に向かったから……そろそろ侵攻が始まるよ」


「一回過ぎた時間は何もしなくても経過する……と。一応聞くけど何もしないって事が正解ってことは無いか?」


「それはない。……多分」


 不確定情報だが、もし仮に蹂躙されるだけならばわざわざ当たり判定をつけ、ダンジョンに潜ってきた奴に敵対するようなルーチンを組むわけがない。すなわちこれは意図的に敵として、超えるべき物として作られた存在である。


「まーってことは……。全員ぶっ殺せば勝ちって事だろ?」


「碑矩。俺らも手伝うからよ、任せな!」


「……。ありがとう」


「礼はこれが終わった後にしようぜ!ステーキおごれよステーキ!一人五千円オーバーのメチャ高い店のな!」「目の前で焼いてくれる奴ね」


「……よし!行くぞ二人とも!」


「「おう!」」


 再びのモンスターの大群襲来。相変わらず千匹は超えている量。

 文字だけ見ればたった二人増えただけで対して強くなったようには見えない。


 だがなぜだろうか。


 負ける気が全くしないのだ。


「とりあえず防御魔法使っておくからよ!その間館に近寄らせんなよな敵を!」


「「了解!」」


 戦闘開始と同時に早速箱を杖状に変化させると、それを屋根に突き刺す。杖から溢れる黒い液体が屋敷の周りを覆うと同時に、それらが勢いよく結界魔法を放つ。


千式結界フラクタルオーラ満開緑花ロマネスコ』!」


 一つの結界面から幾何学模様が形成され、それと融合するように幾何学模様が入り乱れていく。そして何重にも重ねられた模様は気味悪くも美しい模様を描いていた。そのうち一匹のモンスターがそれに触れると、まるでミンチマシーンにでも引きずり込まれたかのようにグシャッと音を立てフラクタルに飲み込まれていった。


「これであの館はしばらく大丈夫だろ。ハイ目の前の敵に集中!」


 箱の中にしまってある魔力ではこの結界魔法は10分と使っていられない。まぁどうせ負けてしまえば10分後にはループしてしまうのだが、些細な問題である。


「やっぱりムズかしいな銃は……!」


 コンは左面と後ろ側を防衛していた。彼が使っている武器『深紅に燃える薔薇レッドローズ』と『水底に沈む薔薇ブルーローズ』はみあの特注品。


 説明書にはこうスペックが書かれていた。


『レッドローズの方は片手で打てるショットガンをイメージして作られた物です。撃った直後に球がバラけるので遠距離でも近距離でも相当なダメージが出ます。欠点はマガジンが作れなかったので六発撃ったらリロードするようになっている事と、若干反動がデカい事です』


「確かに……ッ!威力は凄いんだが何分反動がな……!」


 一発撃つたびにビリビリ腕に響く反動、相当な負荷が腕に響く。


 その代わり威力は絶大で、一発撃つだけで目の前にいたモンスターの半分くらいが吹き飛んでいく。まぁ六発撃つとリロードの隙ができてしまうが。


 そしてブルーローズはと言うと。


『ブルーローズはマガジンを作れたからフルオート射撃も出来るからな。一つのマガジンで30発は撃てるぞ。まぁ威力はせいぜいデザートイーグル程度にしか出来なかった。非常に残念だ対戦車ライフルレベルの威力にしたかったが……。まぁそれはそうと、基本的にブルーローズを撃ってる間にレッドローズをリロードする感じで使うといいぞ』


 また変なスペックである。まぁ雑に使っても強いというのは利点なので、とりあえずナインテイルズに持たせて雑にモンスターを蹂躙している。


「レッドローズは俺が持ってないとヤバいからな……」


 撃つように一個、リロード用に一個ナインテイルズを使っているので残りの七個は全て攻撃用に使っている。元から多対一の状況で強い技が、銃という外付け強化武器を手に入れた結果手が付けられない強さになっていた。


「うおぉっ!」


 一方の碑矩はと言うと、今回はほかに仲間がいるので一番数が多い正面を守っていた。明らかに以前の動きと比べて軽やかである。ここから一歩も通さないぞと言わんばかりに大暴れ。


「殴る瞬間にだけ銀、殴る瞬間に銀……!」


 前の戦いで全身銀を続けていると10分くらいでガタが来るというのが分かったので、今は殴る瞬間にだけ銀をまとわせることにしている。技を使う必要もないのでもう凄い数の死体の山が出来上がっている。


「しかしホント……!減ってる感じがしないんだけど!」


 五分経過したが、まったく減る気配がしないモンスター。妙に統率がとれている奴もいたりでただ攻め込んでくるだけなら楽なのだが、ここが地味に辛い。


「─っと。大ボス襲来って感じじゃね?」


 時がレーダーを使っていると、正面と裏面から強力な気配を察知。何者だと見てみると、そこには指揮系統を取りハチモンスターを操る女王蜂のようなモンスターと、自爆モンスターを生み出しまくる機械のようなボスがいた。


「なるほどね……。おい二人ともよく聞け!」


「何!?」「なんだ!?」


「コン!お前はしばらくフリーになる左右を頼む、俺は裏に出た機械みたいな奴をる!碑矩!お前は正面に出てきた女王蜂サマをぶっ殺して来い!」


「了解!」「わかった!」


 まぁそれらさえどうにかすればマシになるだろうと、二人にその二体をぶっ潰して来いと命じる時。早速動いたコンだが唐突に吹っ飛ぶ。見てみると足元に爆弾。


「地雷あるのか!?」


 爆発しながら普通に空中で一回転して着地するコン。ナインテイルズで殴ろうとしてみるが、想像以上に固いのか歯が立たない。これはレッドローズでも撃ちぬけるか疑問レベルだったが、そこは策がある。


「確か説明書にはこう書いてある……」


『これらを融合した物が『灰に消えた薔薇ブラックロータス』だ。威力火力貫通力全てにおいて最強だが、一発撃つと両手で持っても腕がへし折れる程の反動が出るから気をつけろよ』


「……なんてものを作り上げてるんだコイツは……」


 まぁそのくらいは今に始まったことではないので飲み込んで、そのブラックロータスを作り上げるとナインテイルズに持たせる。コンが撃てばそりゃダメなんだろうが、手に撃たせれば問題がない。


「って事だろ設計者……ッ!」


 発射した瞬間耐え切れなかったのかナインテイルズのうち二つが使用不可になる。銃弾は銃声が響くよりも早く機械に着弾した。それと同時に機械は音を立てて収束していく。


「やっべあいつ自爆モンスターを生む奴……」


 一瞬の静寂の後、銃声とともに館裏面に生えている木とか山とか全部まとめてぶっ飛んだ。


 それを合図に碑矩は女王蜂の討伐に移る。以前は失敗したあの技で仕留めようと、碑矩は体制を低く落とす。


「表我流其の六……!『天』!」


 ボ


 と。いつ打ちぬかれたのかも女王蜂にはわからぬまま……その四肢全てをもぎ取られていた。


「……ッ!出来た!」


 指は五本あるのだ。当然のことだが。

 碑矩は全ての指に銀をまとわせ女王蜂の四肢を破壊した。其の六とは指一本で放つ技では無く、このように指全てで行うものだったのだ。


「あの時は未熟だったから指一本に集中しなきゃならなかったけど……ッ!銀なら全部できる!」


 これで応用編まで含めなければ六まで使えるようになった碑矩。それはそうと今のでラストだったのか、モンスター達は一斉に帰っていった。


 ……だが、館に戻ると両親はすでに殺されていた。


「……」


 妹の足は切られていた。

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