第26話:東京最後のダンジョン。其の2


『で、今何回目?』『最初の六回含めるとこれで十二回目』『……って事は一時間半経ったのかよ』


 碑矩は現在ダンジョンに入って一時間半経過していた。モノクロの景色が何度も何度もループし続ける空間で、かなり碑矩は精神がやられている様子であった。


「クソッまだ何も出来てねぇのに黒が出そうだ」


『黒ってなんだよ』『既に片目が黒いの怖いよぉ』『人殺す目じゃん!完全に人殺しの眼じゃん!』


 口も悪くなるし次第に目が黒くなっていく。次第に黒は目から腕へと侵食していっており、中々危険な状況であると言う事が嫌でも理解できる。視聴者たちもヤバいとおののいている様子であった。


『やべぇよ……やべぇよ……』『このままじゃヤバいよ目が決まってるもん』『キメてるんだろ……?くれよ……』


 とまぁそんなことがありけり。黒を抑えつつ碑矩は今までのループ中にやって分かったことを確認していた。


「フー……。落ち着け落ち着け……。まず第一に分かってるのは、両親の部屋に二人が行って、その後飯食いにリビングに行く……。だ。……このループでこのダンジョンは何をさせたいんだ?」


 理解できない。マジで何一つ理解できない。しかし一つだけ気になっていることはある。それはこのダンジョンがもし仮に少女達の記憶を再現していると言うのなら、と言う事である。


「わざわざ両親の部屋に来てるって事は、両親のどっちかか……?でもいるんだよな、既にループの中に……」


 時間が進んだ時の状況的に、おそらくだがこのダンジョンは時間が進む。ただその条件はさっぱりわからない。一回目の条件は両親の部屋に入る事なのだろう。


「そういえばこの子達、初めて見た時から既にこの部屋に行ってたな……」


 まぁ重要なのだろう。だが既に何度も試した。


 飯を一緒に食べたし、他の部屋に行ってみたし、あえて飯を食わなかったりと色々やったと言うのに全く進まなかった。もちろん料理を作ったりもしたのにである。


「……ホントに何が条件なんだ?」


 完全に情報がない。虚無感を覚え今は屋敷の上で日向ぼっこ中。モノクロ太陽が肌に心地よい。燦燦と降り注ぐ無色の灼熱も、また心地が良い。そんな風を浴びて眠ってしまったのか、目が覚めると少女達が碑矩を起こしに来ていた。


「『』は、『』だね!」「『』!ほら、一緒に食べよ!」


 ハッキリと声が聞こえた。今度ははっきりと声が聞こえた。いつもの不協和音ではなく、ハッキリとだ。一部は完全に聞こえなかったが、それでも誰かの声が聞こえただけで値千金である。


「喋った!?」


『って事は……時間が進むんじゃね?!』『おい降りていくぞ一緒に行けよ!』『これ進んだやろ!絶対進んだやろ!』


 興奮する視聴者たち。そして下に一緒に進んで……また入り口に戻った。


『は?』『なんで?』『ざけんなよ!ナメてん程度の物じゃねーぞ』


 これには視聴者たちも怒りを隠せない様子。だが碑矩は冷静に考え、つまりここはついて行かないのが正解だと解を出した。


「……よし」


「おはよう『』!あそぼ!」「『サィア』!ダメでしょ『』は帰ったばっかりなんだから!」


「!?」


 遂にここの声も聞こえるようになった。相変わらず聞こえないところは聞こえないが、それでも名前は分かった。左にいるやや幼い方の少女がサィアと言う名前だと言う事が。


「これは進展……!よしモチベ上がって来た!」


 そんな訳で屋上で待機……するのではなく碑矩は二人を追う事にした。言葉がわかるようになったのだから、一回全部のセリフを聞きたくなったのだ。

 両親の部屋に入ったときのセリフはこうだった。


「おーい『』!……どうしたの写真なんか見て」「ほらほらご飯!食べよ!」


 そんな訳で屋根で二人を待ち、そして二人が去った後も屋上に居続ける。すると突如館の周りの森からモンスターが出現し始める。もちろんモノクロである。


「……なんだ?」


『え?!モンスターじゃん!』『……なんか多くね?いや多すぎじゃねぇ?!』『推定千匹くらいいるじゃんかこんなの!』


 森を埋め尽くすような大群のモンスター。それが……ウジャウジャいる。しかも……戦えそうなのは碑矩ただ一人。仮に一つの面だけなら何とか出来そうだが、いくら何でも全方位からこうモンスターが来られては……。


「……でもやるしかない!」


 屋上から飛び降りると、目の前にウジャウジャいるモンスターを片っ端からなぎ倒し続ける。ひたすらモンスターを殴り蹴り殺し続けるが、正面ばかりに注目していると他の場所がおろそかになる。


『(この量は流石に)ダメ!ダメ!』『バカかお前は!こんなの一人でやることじゃねぇよオイ!』『やめてくれよ……(懇願』


 瞬歩を絡めながらなんとかモンスターを殺し続ける碑矩。しかしどれだけ倒しても全く減らないモンスターに、徐々に疲弊感が強くなっていく。そして次第に館に侵入されてしまう。


『狙いは俺なんだろ?この家は助けてくれよ……』『こんなの負けイベントだろ』『無理だろコレ!負けイベントだろ!……そうだって言ってくれよ!?』


「ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ゛ッ゛ッ゛!!!!!!!」


 常に全身に金剛銀を張り続けているからなのか、碑矩はベシャリと血反吐を吐く。どれだけの時間が経ったのかもう数えきれない量のモンスターの死体の山が館の横に積みあがる。だと言うのに減る気配が一向にない。遂に部屋に侵入されてしまう。そして中から聞こえる悲鳴。


 声が聞こえるようになったからこそ鮮明に聞こえる悲鳴。


 相変わらず重要な名前は分からないが、それに助けを求める声だけが聞こえてくる。そして遂に碑矩も吹っ飛ばされ、外からモンスターに蹂躙される家を無理やり眺めさせられる。


 異様に炎上する館。何も出来ず、ただ崩れていくそれを見る事しかできない。自らの無力さを嫌と言う程見せつけられて……。


「……終わりだ」


『じょ、冗談じゃねぇ……!』『ムリじゃん!』『クソゲーですか……?』


 入り口に戻ってきた。つまり……この記憶の主は一人でアレをどうにかしたと言う事だ。


「いやアレは……無理だろ」


 碑矩が流石に無理だと言ってしまうような事案。こればっかりはホントに一人じゃどうしようもない。これ以上進む事は出来ないのか……。そんな考えだけが碑矩の脳裏によぎる。


「……。無理だよ……」


『コレは仕方ないって……』『そもそもなんなんあのモンスター』『終わり!閉廷!以上!皆解散!キミもう帰っていいよ』


 あきらめムードの碑矩&視聴者たち。再び始まったループに絶望し、屋上で黄昏ていると何やら急に空中に渦巻きが出来始める。


「……なんだ?」


『あぁ色!色付いてるあの渦!』『え?!まだループ時間も来てないんだけど?!』『何進展?!進展来た?!』


 それはこの空間そのものにヒビが入る物。そしてしばらく渦巻いたかと思うと、そこからなんと人が二人落ちてきた。


「……ッシャァッ!出来た!」「マジか頑張れば人間なんでも出来るもんだな!」


 何と時とコンの二人がやって来たのであった。

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