第28話:東京ラストダンジョン。其の4


「……今、何分?」


「30分だな。……戻らねぇよ」


「……ってことは。これが……事実か」


 おそらく記憶の主は間違いなく館を守り切ったのだろう。……しかし、館の中に直接やってきたモンスターだけはどうしようもなかったようだ。

 両親は死に妹は足を失った。両足だった。


「……」


『どうしてこんなことするんですか?』『ヨシ!(よくない』『なぜ両親を殺したっサィアは聖なる人殺しになるっ』


「これで時間進むの地獄かなんかかよ……。さてどうなるやら」


 と。いきなり時間が過ぎた。カレンダーを見ると1010と書かれていたのが1020になっていた。モノクロは相変わらずだが、サィアの妹は車椅子に座っていた。


「ところでサィアがいねぇな。その妹はいるんだが」


「どこかに行ってるとか?」


「……またモンスターとか、出ない……よね?」


 疑心暗鬼になっているコンだが、どうやらもっとエラい事になっている様子ではある。テーブルの傍に落ちている新聞には、以前のモンスターがやったのかどうかは知らないが、とんでもない被害が出ていた。


「隣の国落ちたって書いてあるな新聞に」「その隣の国も侵略されたってさ」


「つまりこの島と国、全滅じゃん……」


 まぁあれだけのモンスターがいたらなぁ……と。全員が納得はした。納得はしたがじゃあなんで十年経過しているんだ?と言う疑問が浮かんでくる。そうこうしているともう五分経過したのか時間が巻き戻る。


「……ん?なんか時間そんなに戻って無くね?」


 入り口に戻されるのではなく、10年経過した時のまま、それはそうと最初の時間に戻された。どうやらチェックポイントでも通り過ぎたのか、二度とあの長ったらしくて面倒くさい物を見なくて済むようだ。


「そりゃありがたいけど……。つまりもう前の時間には何の情報もいらないって事……?」


「だろうよ。要するに俺らに見せたいのは『この家に何があったのか』って事だろうよ。……妹が足を失い、姉はどこかに行った……って訳だ」


「……そうかなぁ」


 碑矩は違和感を覚え続けていた。この記憶の持ち主は何を見せたいのだろうか。……そもそも。これは本当に誰かの記憶なのだろうか。


「……?」


「どうした?」


「なんで僕はこれが誰かの記憶だって知ってるんだ?」


 違和感の正体。それは入った瞬間からと言う事。


「なんで確信してた……?この記憶が誰かの物だ、なんて分かる訳がないのに……?」


「え?……そういえばお前そういう前提で喋ってたな?いやお前がそういうもんだからよ、まぁ知らんけどそういう事なんだろうって思ってたんだが?」


「……?誰かが話しかけてたんだしそういうもんじゃないのか?」


 碑矩はいつこれが記憶だと思ったのか説明し始める。


「最初に記憶だろうって思ったのは、写真を見た時だった」


「家族写真だろ?」


「思えば、あの時から変だったんだ」


「変?」


「あそこには家族全員の写真が乗せられていた。でもそれって……タイマー機能とか使わない限り、全員が写るのってムリじゃん」


「まぁそうだけどよ、でもそういう事もあるんじゃないのか?」


「いや。それは無い。散々部屋を探して分かったことがある。この家にカメラはあるけど一眼レフだった。タイマー機能のない」


「……って事は」


「そこで確実にこの五人目の見てる記憶だってわかったから、記憶だって言ってたけど……。入った瞬間だとあの女の子二人が関係者なんて分かる訳がない」


「……。そうだな」


 誰かが呼んでいる声が聞こえたのだ。


「……。悲痛な男の叫びだった」


 ◇


「ダンジョンってのはよぉ~。三つタイプがあるんだよ」


「はぁ」


「俺チャン調べなんだけどね~?大体『クリアさせる気がない奴』『クリアさせる気がある奴』『ホントは攻略して欲しい奴』の三つさ」


「?」


「で、俺チャン調べ情報!このダンジョンはその三つ目、攻略して欲しい奴だ」


「……なぜそう思うのじゃ?」


「そういう系のダンジョンには、大抵呪いがこもっている」


 ◇


「え?男?」

「え?」

「俺が聞いた時は女の子二人の声だったぞ」


 何かが変である。何かが思い切り食い違っている。そうこうしているうちに、十年経過して三回目のループが始まった。話していても何も分からない。やはり調べるしかない。


「とりあえずそれぞれ気になるところを探そう!」


「そうするしかないかぁ……」「良いから行くぞ!」


 こうして始まった館探索。五分の間で何を探すのかと言われれば、気になるのはサィアの事だ。


「サィアは……どこに行ったんだ?」


 あの妹思いの姉がどこかに何も言わず行くわけがない


「……いや、僕が見た限りじゃそこまでは……」


 それは無い ありえない 自分だけ逃げる訳がないんだ


「……キミは一体誰なんだ?」


 見つけてくれ 彼女たちを ……俺を


「……教えてはくれないか」


「おい碑矩!なんか怪しい隠し通路あったぞ!?」


 そうこうしていると碑矩は明らかに怪しい通路を発見した。本棚の裏に下の階へ行けるように作られているそれは、何とも言い難い怪しげな気配を噴出していた。


「……いるよな、誰か」


「とりあえず行こう」


 上で探しているコンには悪いが先に二人で地下室へ向かう。そこは巨大な書斎と言う感じであり、上にある館の数倍巨大な空間が広がっていた。ガラスケースがそこかしこに置かれており、中にあるのは人間の足。


「……足か」


「多分……妹を直そうと……」


 その瞬間ループが発生、再び妹の部屋に戻ってきた。


「ぜーったいあの地下になんかあるからよ!あそこの中全部五分間で調べるぞ!」


 時の一言で一斉に捜索しに行った一行。ループを迎えそれぞれ何を見つけたのか話していく。


「あの足は外に出すと腐る物ばっかりだな、一応黄金みたいに輝く足は溶けねぇが……アレつけて走るのはちょっと無理」


「サィアみたいな奴は見つけたんだが、話しかけようとしたらどこかに行ってしまった。……あと、気になったのは作業する音がどこかから聞こえるんだけど……見えないって事」


「これ、サィアの妹の名前は『シィル』って言う事がわかった。……それと、一つ……。謎のレコード盤は見つけた」


 とりあえずサィアみたいな奴とやらを探しに行く事にした一行。バンバンと本棚を叩いてみると、一部が急に消えてしまった。


「うおぉ!?」


「ホログラムかぁ……」


 中に入るとサィアの姿があった。

 まだいきている

 どうやら何かを探している様子だ。そしてそれを探し終え……急に倒れたかと思うと動かなくなってしまった。

 は?


「……え?」


「死んでる。多分エコノミークラス症候群だな。長い事イスに座ってたんだろうよ」

 うそだ

「いや、じゃあなんで……」

 ちがう

「……おい碑矩?なんだ頭を押さえて?」

 これじゃない

「さっきから声が……」

 じじつじゃない

「おい碑矩!……!」

 死んでる訳が無いんだ。


「……!……!」「!……!」


「あ……ガァッ!?」


 碑矩が脳を押さえて倒れる。それでも止まらぬ震えと痛みに、碑矩は完全に気を失ってしまった。


 そして次に目が覚めた時……碑矩はモノクロからカラーになった同じ世界を見ていた。


「ねぇ『タクト』!あそぼ!」


 これは既に、終わってしまった記憶なのである。

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